第1303話 アダム不在❸接触
夜も更けたので、広場となっているところに兄さまのテントを張らせてもらった。
もふさまはレオたちを連れてきてくれることになり、集落を出て行った。
食事の用意をしながら待っていると、兄さまのところに水色の鳥が飛んできた。
「ロサ殿下からだ」
兄さまの視線が文字を追って左右に忙しく動き、下へと落ちていく。
わたしたちは兄さまが手紙の内容を話してくれるのを待つ。
「アダムのことはまだわからないようだ」
……アダム。
「ただ、少し前、モンティス公がアダムに接触をしたらしい」
モンティス公。アンドレ殿下の祖父にあたる。廃妃のお父上。
「うちに来たときあたり?」
モンティス公は廃妃がうちの母さまにしていたことをつかみ、謝罪と忠告を持って現れた。わたしは直接会ったことはないけれど。
「後になると思う」
「それで? モンティス公はなんて言ってるの?」
ノエルが尋ねると、兄さまが一瞬動きを止める。
「……それがアダムと同じく行方がつかめないらしい」
!
「廃妃さまは?」
兄さまはとてもいいにくそうに言った。
「行方がわからないらしい」
…………………………。
「それってどういうこと?」
エリンがわたしと兄さまの顔を交互に見ている。
「確実にわかっていることは。少し前に接触のあった、モンティス公、それからアダムに関係する人たちが姿を消したってことだけだ」
「アダムの仲間は?」
「調べたみたいだけど、以前住んでいたところはとっくに引き払われていたそうだ」
……アダム。
「アダム兄さまは強いもの。きっと無事だわ」
自分も心配なのに、わたしを慰めようとしているエリンがいじらしい。
「アダム兄さまは強い。だから無茶をしているんじゃないかと心配だ……」
ノエルが呟くと、思いが伝染したようにエリンも下を向いた。
「私は殿下にこちらの状況を報告する。アダムのことで何か分かったら逐一報告をもらうようにするから、あんまり心配しないで」
兄さまが簡易テーブルから離れると、もふさまがみんなを連れて帰ってきた。みんなリュックの中に入っていた。
無事だろうとは思っていたけれど、無事でホッとした。
兄さまが先に食べていてというので、失礼して遅めの夕飯をいただいた。
食べながら、さっきフクロウのジョギさまとした約束のことを話す。
この集落は大昔からあって、その時からジョギさまに守られていると人々は思っている。確かに夜でも魔物は入ってこない。瘴気は薄い。護りが何なのかはわからない。
でも夜になると凶暴化するのは、誰も意味がわからないけど困っていることらしい。
わたしたちはそれの原因を見つけなければならない。
「みんなはこの集落で何か感じたことはある?」
『別にない』
と元気に答えてくれる。
「この集落のことはわからないけど、夜の森でひとつわかったことがあったでち」
わかったこと?
『クイが雷を落としたら、次々に向かってきた魔物が逃げて行った。遠巻きに見ていた者たちもみんな』
レオが自信を持っていう。
「瘴気の森の魔物は雷が苦手なのかな?」
ノエルが首を傾げる。
『そうかもしれないですし。もしアリの氷も苦手なら、神属性の攻撃が苦手ということになるのかもしれませんね』
ベアの推測にみんなで、おおーと声をあげる。
それがわかれば……わかれば?
うーーん、瘴気の森の魔物、夜バージョンは神属性が苦手といえる。
何か糸口になるかな?
現在わかっている、瘴気の森のこと。
・瘴気の森の中に安全地帯である集落がある
・集落はジョギさまという大きなフクロウの護りがある
・ジョギさまは精霊と精霊である悠のことを知っている
・ジョギさまは困っていることを解決したら、悠について教えてくれる
・夜になると魔物が凶暴化することに困っている。
(解決はハードルが高すぎると思ったので、原因を突き止めるところで話はつけてある)
・確かに夜になると魔物は凶暴化する
・瘴気の森の夜の魔物は雷か神属性の攻撃に弱い
これだけの情報で突き止められるかな?
一度ユオブリアに戻って、第一大陸のことを調べないとかもしれない。
情報が少なすぎるから。
もふもふ軍団は食べっぷりがいい。
見ていて気持ちがいい。見ているだけでお腹いっぱいになる。
兄さまも合流して、食事を終える。
寝つけなくて、テントを出る。
広場は静まりかえっていた。あんまり静かで怖くなるくらい。
星がチカチカ輝いている。
ジョギさまと会えて話ができるとか、そんな偶然はないか。
明日、集落のいろんな人にできるだけ、日常のことやらなんでもいい話を聞いて。
それで一度家に帰ろう。文献をあたって……。
こういうのはアダムが得意なのに。
ってアダムは不得意のことのほうが少ないか。
っていうか、不得意なことってなんだろう?
それも思いつかないぐらい、なんでもできる人だ。
アダムは強い。
けどいなくなった。
接触したというモンティス公、廃妃も、時を同じくして行方不明。
やっぱり関わりがありそうだよね。
接触してみんないなくなって、偶然ってほうがあり得ない。
・廃妃が意識を取り戻し、アダムを捕らえて何かしようとしている
・モンティス公が、アダムを捕らえて何かしようとしている
・アダムがモンティス公を使って何かしようとしている
そんな可能性が考えられる。
アダム、どこにいるの?
何してるのよ?
みんなあなたのことを心配しているのに……。
空では星屑がチカチカと輝く。
精霊の星・エトワーさま。
可愛いながらも凛とした声が蘇る。
『星は知の書なりけり。ゆえに希望のごとく輝いて見える』
星は希望、か。希望だから……輝きながらもとても遠く小さくしか見えないのかしら?
星を見てため息を落としたわたしを見ていた兄さまに、わたしは少しも気づいてなかった。




