第1213話 課外授業⑤狙い
「わたしは第二大陸で生まれ、魔法を使える人が多い、そんな中で育ってきました。
今回他の大陸を訪れて、ツワイシプ大陸がどんなに恵まれているか、目の覚める思いでした」
特に厳しいのが第四大陸だ。あの寒暖差で人が住んでいられることの方が信じられない。
「土地が厳しい。だから思想も大地に根づいています。創世記による大陸が割れた時にいた聖霊を信仰しているといってもいいと思いました。
神さまや魔物の最高ランクのドラゴンより、精霊に重きが置かれていると思いました」
みんなは〝聖霊〟を指すと思っているだろう。呼び方が同じだからね。
詳しく話すと禁忌に触れてしまうので、わたしは細かいことは言わずにそのまま流した。
「わたしは聖獣、そして神獣の加護があると思われています。
ドラゴンが懐き、水の精霊の祝福も受けたようです。
小さい頃行ったダンジョンでドロップしたクラッシャー。魔力を司りなんでも壊すことができるものですが、これで隷属の首輪を壊したことからも注目されています。
他大陸では奴隷がいます。
他大陸では獣憑きは奴隷に落とされるようです。
わたしは他大陸で痒いところに手が届く人族なんだと思います。
聖なる面からも、神からも、精霊からも、高ランクの魔物からも、奴隷、それらの面で、何かできるかもしれない位置にいるようです。
そんなわたしが国にいれば何かの役にたつ、そう思われているように感じます」
わたしはチラリと先生に視線を走らせる。
「だ、そうだ。アネリスト、オスから見て、シュタインの意見はどうだ?」
「そうですね、概ね当たっているのではないでしょうか?」
とおっとり言ったのはアネリストの王子。
「シュタイン嬢は自分を過大評価しすぎなのでは?」
そう言ったのはセインの公子だ。
「ええ、そう思わないと、狙われるなんてあり得ないでしょう?」
セインの公子は吹き出す。
「違います。シュタイン嬢はただやりすぎたんです」
「やりすぎた?」
「誰彼構わず牙を剥くから、制裁を受けているんですよ」
やっぱりセイン、あんたの国かとわたしは先生と目を合わせた。
「という意見もある。どうだ、納得したか?」
先生は質問したA組の子に尋ねる。
「僕の知らないこともあるのだろうから一概には言えないですけど、シュタインさんが悪いとは思えません」
「だとよ、シュタイン。これが聞けただけでも、この質疑応答はよかっただろう?」
そう言ってもらって確かに嬉しいけど。
セインは帰り道、絶対仕掛けてくる。わたしにはそう思える。
そこにリキやアーロンを巻き込みたくない。アネリストの王子はどうでもいいけど。
「先生、わたしは答えました。答えたら、わたしの意見を聞いてくださるってことでしたよね? わたしは明日、一人で下山したいです」
「狙いがシュタイン嬢だけなのだとしたら、他の者が一緒でも被害はないのではありませんか?」
セインの公子がニヤリと笑う。
「絶対にわたし以外に手を出しませんか?」
冷たく聞き返す。
「酷いな。まるで私がシュタイン嬢を襲わせているみたいじゃないですか」
絶対そうだよね?
「……シュタインの提示については、明日の朝、決めるとしよう」
「……わかりました」
わたしは自分のテントに入って、レオとアリにセインの公子を見張って欲しいとお願いした。絶対に誰かとコンタクトを取ると思うから。
レオたちは合点承知と言って、テントを出ていく。
「シュタイン嬢、少し話せませんか?」
そんな時、わたしのテントを訪ねてきたのはアネリストの王子だった。
もふさまを抱きあげて、アネリストの王子と少し歩く。
生徒たちの喧騒がギリギリ聞こえるところで王子は足を止めた。
「私はあなたに嫌われているようだ。私は何かしたかな?」
「第四大陸でバッカスがアネリストを嫌っていました」
王子は意表をつかれた顔をした。
「なぜかはわかりません。あなたのお母上が予言の女神と呼ばれているとか。それと何か関係があるのかしら?」
柔らかい笑みを浮かべているけど、驚いているようだ。
「それは重要じゃないんですけど。わたしはバッカスと敵対しています。
アネリストも同じく敵対しているなら、そしてアネリストの目的がユオブリアやわたしではないのなら、共同線を張るのもいいかと思っていました。勝手に。
でもあなたはわたしが許せない禁忌を犯した。だからあなたの手は取りません」
目を大きくしている。
「誤解があるんじゃないかな。私は何もしていません」
「レオン先生と何の話をしたんですか?」
「え?」
彼は驚いていた。
「教鞭を取られる女性だけど、哀しみに支配されていた。気が少しでも晴れたらいいと思い話はしましたが……それだけです」
「気が晴れたらと、わたしの話をしたんですか? それこそわたしとあなたは接点がないのに」
もふさまは飽きたのか、腕から抜けて地面に着地する。
「彼女は話したことを覚えていたんですね……」
話したことを覚えてないと思っていたわけ?
「ドラゴンを手なづけた少女。聖獣と神獣の加護があり、精霊の祝福も受けた。精霊って元からいらした聖霊様じゃなくて、後からきた精霊さまの、ですよね?」
禁忌の方も知ってるんだ。
「そんなあなたは他大陸では有名です。せっかくユオブリアに来たのだから、あなたと親しくなりたいと思うのは普通のことでしょう」
「ただ親しくなりたいなら普通でしょうね。でもあなたが〝力〟を使って親しくなりたいとするなら、それは普通の域から外れます」
優しそうな仮面が外れる。
「力って、何です?」
「ご自分が一番よくわかっているでしょう? 精神的な攻撃です。あなたの思い通りになるように」
賭けだけど、大体そんなところだと思う。大雑把に言っておく。
わたしはわかっているんだと。レオン先生に何かしら精神的なものを仕掛けた。
「攻撃? 攻撃なんて、私は」
「人には意思があります。別のものが入り込んできたら、それは全部〝攻撃〟です」
「では私はいいことをしたんですね?」
意表をついて王子は笑った。




