第1214話 課外授業⑥アクセサリー
「レオン先生は全てを投げ出したくなっていた……自分の人生までも。
その思いを変えることができたんですね、僕の力で」
やっぱり、アネリストの王子の持っている力は、精神的に促すことのできる何かであるらしい。
そっか……レオン先生が身を投げ出しそうだから、それをストップさせたんだね。
先生は〝したいこと〟を曲げる形になったわけだから、それは精神への〝攻撃〟だった。わたしはいつかのロサの時と同じように精神への〝攻撃〟を吸い取り、わたしが解呪した。変化して。
「そういえば、代わりにあの時落ちられたようですが、ご無事でよかった」
「お遣いさまがいらしたので」
突っ込まれないうちに話題転換を。
今なら〝力〟を認めたのだから答えるかも
「ケイトには何をしたんです?」
王子はふっと笑う。
「大きく何かを変えることはできません。あなたと親しくなるために同じ班になりたいと思った。班員の中で気持ちが一番動きそうな彼女に、班を交換してくれたらと願いを込め、我慢はしないように忠告しただけです」
ニコッと笑った。
「ちなみに、思ってもみなかったことをさせるような力は、僕にはありません」
……嫌なやつ。
たとえ何をしたとしても、それは彼がやらせたことじゃなくて、元々ケイトの中にあったことだというわけね。
「親しくなり、あなたはわたしに何をさせたいの?」
「あなたというアクセサリーをつけると、王位継承者として認められる可能性が高くなる。母が私に王位を継がせるために今まで苦労してきました。この留学もそうです。母の期待に応えようと思い、あなたを得ようと思いました」
はー。
「わたし思うんだけど、あんたたちってなんでそんな他力本願なの?」
「はい?」
ガインの時も思った。何で王になるのに〝アクセサリー〟を求めるの?
「あんたが王の器って自分で示せばいいのに、何でそこで〝アクセサリー〟を求めるのよ?」
王子は困惑している。まったく。
「もともとアクセサリーが重要なわけじゃないでしょ? アクセサリーを得る力があると知らしめられるから認められるんであって。アクセサリーに力があるわけじゃなくて、得られるその過程が重要なの。王の器だって、自分で認めさせなさいよ」
目をぱちくりさせたけど……。
「あは、あははははははははははははははは」
王子は笑い出した。え、狂った?
「なるほど、君はすごいね。本気で君を得たくなったよ」
は?
「これから他力本願ではなく、君に挑むことにするよ」
なんか明るくいって、踵を返す。
え。え。なんか置いてかれた感半端ないんだけど。
「はーーー。もふさま、戻ろっか」
『リディア、娘がいるぞ』
娘?
もふさまの視線の先を見ると、木陰から踏み出したのはケイトだった。
「……ケイト」
「食事の用意ができたよ」
「わかった。今行く。呼びにきてくれたの? ありがとう」
「私あんな嫌なこと言ったのに、何でリディアは普通でいられるの?」
「普通? 気まずくはあるよ、もちろん。でも正論だった。
わたしD組のみんなに甘えてた。バッカスに狙われてるんだもん、絶対的守りがある学園はともかく、課外授業には参加するべきじゃなかった。
なのに、自分の参加したい意識ばかりに気がいって、そのことに気づいてなかった。ケイトが教えてくれた。これから気をつける」
「……私あの時、なぜか気持ちを押さえられなかった。ひどいこと言った。
みんな、そんなことを言うなんていつもと違うって言ってくれたけど、私わかっちゃった。私の中には今までもそういうひどい気持ちがあったこと」
「…………」
「ひどいっていうか、自分を守りたくて、相手を傷つけてもいいからって考え。
今落ち着いてから、自分がそういう考えなことに落ち込んでる。
相手を傷つけてもいいっていうのは、私がおかしかった、ごめん」
「わたしも気づいてなくてごめん。ケイトもおかしいところがあったから、おあいこだ」
そう背中を叩くと、ケイトはもう一度小さくごめんと呟いた。
ふたりでキャンプ地に出て行くと、わたしたちを見てホッとする顔の面々。
気遣ってケイトにわたしを呼ばせに行ってくれたんだね。
わたしたちはわいわいぎゃあぎゃあ言いながら、夕飯のごった煮を一緒に食べた。
後片付けをしながら、誰かとすれ違えば一言、二言話す。
夜、外で。同じ年の子たちと、笑いあいながら話して。
アラ兄やロビ兄が課外授業は特別って言っていた意味がわかる気がした。
わたしが参加してしまったのは間違いだったけど、わたしは今日のこの時間を感謝した。
夕飯の後は生徒を集め、先生の話があった。
昔遠征に行った時の話で、緊迫した時の様子を聞いている時は隣の子と手を握ってた。
生き残る約束をしたのに、半分以上の友が命を落とした。
先生はその時、誰にもこんな思いをしてほしくないと思ったそうだ。
ユオブリア自体は長いこと戦争をしていないと思ったけど、国境で仕掛けられたり、友好国の要請で応援に行くこともあったようだ。
そこで出会う人たちは未来が少しでも良くなるようにと、国のため、未来のため、自分の全てを賭けて戦った。その結果、今のユオブリアがあり、国を守るべく立ち上がった人たちは人数が減っていった。
先生は一線を退いてから考えた。このまま若い命を、守りたいと立ち上がった者たちの命をいたずらに散らしてはいけないと。どんなことが訪れても、生き残る、そんな生き方をしてほしいと思い、伝えていけないかと模索してきた。
先生のその方法が魔法戦の教師だった。
それぞれがそれぞれに先生の思いを受け止めていると、就寝の合図。
みんなが自分のテントに帰ろうとしている時だった。
アリが走ってきた。
『リディア、セインがくる。ユオブリアの子供を見せしめに血祭りにあげるって』
もふさまが大きくなった。首を伸ばし目をつむり、気配を探っているようだ。
『まだ少し距離がある』
もふさまがわたしに言った。
大きくなったもふさまにみんなが驚いてる。
わたしは拳を握った手を上にあげ、ぐるぐると天に円を描く。
「敵襲ー、敵襲ー」
固まった顔でその様子を見た子たちも、手を上にあげ「敵襲ー」と叫びながら手を回した。
敵襲の輪が広がっていく。
先生を見つけた!
「先生! 敵襲です。セインがユオブリアの子供を見せしめに血祭りにあげるって」
先生は慌てずに言った。
「応援を呼ぶ。5分逃げ切れ。みんな伝えろ」
魔法戦の初期に習ったこと。緊急事態の伝達だ。
手をぐるぐるして敵襲を伝える子。先生の言葉を伝える子。
先生は大股でもふさまが見ている方に歩いていく。
「班で固まって、お互い補佐をしながら逃げろ。班長は点呼」
「先生、オス公子がいません!」
リキの班。ラエリンとケイトもいる。ふたりにいいの?という思いを込めて見つめると、ふたりともしっかりと頷いた。
わたしは目を瞑り、フィールドを確定する。
「風の防御カーテン」
魔法攻撃は防げるけど、剣を持った人などは入ってきてしまう。
続いて防御系の魔法をできる子たちが魔法を連発した。




