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彼は可愛い幼馴染みでした

「今日は一緒に学校に行かないからね」


 朝から私の家に来て幼馴染みは拗ねながら、頬を膨らまし言いました。

 可愛いの一言です。

 朝からこんな可愛い彼を見られるなんて幸せです。


 細い柔らかいショートの髪に毛先だけパーマがかかっており、大きな二重の目と長い睫毛、小さな鼻に口角の上がったピンクの唇。

 彼はまるで女の子のような見た目です。


「どうしたの? こーちゃん」


 彼はこーちゃん。

 本当の名前は虎太郎(こたろう)

 名前は男の子っぽいのに見た目は可愛い女の子です。

 その彼が私の可愛い幼馴染みです。


「だってヒメちゃんが悪いんだよ?」

「私?」

「僕だって、、、」


 こーちゃん?

 どうしたの?

 プルプル震えて言いたいことを我慢している彼はもう、たまらなく可愛い小型犬です。


「どうしたの? こーちゃん」


 私はこーちゃんを抱き締めました。

 こーちゃんより少し背の高い私は抱き締めることが癖になっています。


「ヒメちゃん。僕は一人でも大丈夫だから。ヒメちゃんがいなくてもへっちゃらなんだ」


 こーちゃんがいつもと違います。

 私の腕の中から逃れようと暴れています。

 いつもは私の気が済むまで大人しく抱き締められているのに。

 こーちゃんは私の腕から抜け出し、私から距離をとります。


「僕は男の子なんだよ? ヒメちゃんは女の子なんだよ?」

「うん。分かってるよ」

「それならどうしてクラスメイトの女の子に女子と話をしているみたいで話しやすいって言ってたの?」

「それはこーちゃんのことじゃなくて、、、」

「僕は可愛い女の子じゃなくて格好いい男の子でしょう?」


 こーちゃんが私の伝えたいことを遮って言わせてくれませんでした。

 こーちゃん、勘違いしてるよ。

 私達はあの時、こーちゃんの話をしていたけどいきなりテレビドラマの話になってたのよ。


 そのドラマの主人公はファッション雑誌の編集者でその主人公が好きな人が言った言葉がヒドイよねって話になってたんだよ。

 だから私が言っていたのはテレビドラマの主人公の男の人のことなのに、、、。


「だから、こーちゃんは可愛いんだけどクラスメイトと話をしていたのは、、、」

「ヒメちゃんのバカ。僕は男の子なんだよ? 格好いいって言われたいのに」


 こーちゃん。

 話を聞いてよ。

 でもこーちゃんが可愛いのは本当だもん。


「無理だよ。こーちゃんは可愛いもん」

「それなら男らしい僕を見せてあげるからね」

「楽しみにしてるわ」

「できないと思ってる?」

「こーちゃんに男らしいなんて思ったことがないもん。こーちゃんは可愛いがお似合いよ」


 私の言葉にこーちゃんはムッとしています。

 そんなこーちゃんも可愛いです。


「知らないからね。ヒメちゃんが僕を男らしいと思って惚れても、遅いんだからね」

「どうして遅いの?」

「僕には好きな人がいるからだよ。だから惚れないでよ」

「どんな人なの? こーちゃんの好きな人なら可愛い子なんだろうね」

「とっても可愛い子だよ。だからヒメちゃん。もう一度言うよ。男らしい僕を見ても惚れないでよ。僕には好きな人がいるんだからね」


 こーちゃんはそう言ってウインクをしました。

 可愛いです。

 こーちゃんから男らしい要素なんて想像ができません。


 こーちゃんったら私に、他の女の子に、こーちゃんをとられて悔しいって思わせたいの?

 私は後悔なんてしないわよ。

 だって可愛いこーちゃんだよ?

 ほら、今だって我が家の猫のエリザベスに癒されて愛くるしい笑顔を見せているのに?


 私より女の子に見えるこーちゃんなのに?

 私より可愛いって言われるこーちゃんなのに?

 私より少しだけ身長が低いこーちゃんなのに?


 こんな可愛いこーちゃんが男らしくなったらどうなるんだろう?

 可愛いこーちゃんがいなくなったらどうなるんだろう?

 可愛いこーちゃんが好きなのになぁ。


 私の名前は(ひめ)

 身長は男子の平均くらいあります。

 髪はショートカットで手入れをしていないからボサボサです。

 そんな私のボサボサの髪に櫛を通してくれるのが私の友達のリンちゃんです。


「ヒメちゃん。虎太郎(こたろう)くんはヒメちゃんに男の子としてみて欲しいんだよ」


 リンちゃんに朝の出来事の話をしました。

 リンちゃんは私の後ろの席から髪を櫛で優しく通しながら言いました。

 そんなリンちゃんに背中を向けていた私はリンちゃんの方を向きます。


「こーちゃんは小さな頃からあんな風だよ? 私より泣き虫で、私よりおねだり上手で、可愛くて守りたくなる存在なの」

「でも虎太郎(こたろう)くんは昔の小さな子供じゃないんだよ?」

「私からすれば変わらないよ。今も昔も」

「ヒメちゃんは虎太郎(こたろう)くんだって大きくなって子供じゃないんだよ?」

「でもこーちゃんは可愛いの。それに可愛いは褒め言葉だよ?」

「それならヒメちゃんが男の子のように格好いいって言われるのはどう思うの?」

「それは、、、嫌だね」

虎太郎(こたろう)くんもヒメちゃんと同じだと思うよ?」

「そっか。でも、こーちゃんは可愛いんだもん。リンちゃんもそう思うでしょう?」

「そうだけど。虎太郎(こたろう)くんが男らしい所を見せてくれるんでしょう?」

「そうなの。男らしいって何だと思う? 今日の朝の一人で登校するって言ってたのも男らしいのかな?」

「そうかもよ。ヒメちゃんがいなくても一人で登校できるよって言いたかったのかもね」

「それって男らしいじゃなくて小さな子供が初めて一人でおつかいをするのと同じだよね?」

「でもそれが虎太郎(こたろう)くんは男らしい所だと思ってるのよ」

「こーちゃんはやっぱり可愛いね。子供みたいって言ったら頬を膨らまして怒るんだろうな」

「ヒメちゃん。一生懸命の虎太郎(こたろう)くんをいじめちゃダメだよ」


 リンちゃんは小さく笑って私の髪を櫛で通し終わるといつものように私の前髪を斜めに分けてヘアピンをつけてくれます。

 鈴がついているヘアピンです。

 私が動くと可愛い音がリンリンと鳴ります。


「ねぇ、リンちゃん。このヘアピンはリンちゃんが買ったの?」

「ん? このヘアピンは虎太郎(こたろう)くんが私に渡してきたのよ」

「こーちゃんが?」

「そうだよ。この鈴があればヒメちゃんの居場所がすぐ分かるからだって言ってたよ」

「いつも一緒にいるのに鈴って必要なの?」

「本当の理由は違うと思うんだ」

「本当の理由?」

「そう虎太郎(こたろう)くんの本当の気持ちだよ」

「こーちゃんは私の居場所が分かればいいのよね?」

「そうね。まるでペットの首輪につける鈴みたいね」

「私がこーちゃんのペット?」

「ペットが何故、首輪をつけるのか分かればヒメちゃんのその鈴の意味も分かるかもね」


 リンちゃんは私に鈴の本当の理由を教えてくれるつもりはないみたいです。

 だってリンちゃんは大好きなアイドルの雑誌を机から取り出したからです。

 リンちゃんは大好きなアイドルの雑誌を見ると自分の世界に入ってしまうのです。

 私の声なんて聞こえなくなるほど雑誌に夢中になります。


 リンちゃんが教えてくれないのなら自分で考えます。

 我が家のペットは猫のエリザベスだけです。

 エリザベスの首輪にはノミを寄せ付けない効果があり、鈴もついています。

 ノミを寄せ付けない為にこのヘアピンがあるのでしょうか?

 やっぱり私はこーちゃんにとってペットなのでしょうか?



「ヒメちゃ~ん」


 お昼ご飯の時にこーちゃんが叫びながら私に手を振りました。

 しかしすぐに手を振ることを止め静かに私に近づいてきました。


「こーちゃん?」

「ヒメちゃん。これからお昼ご飯は友達と食べるからね。それを言いに来たんだ」

「そうなんだ。分かったよ」


 そしてこーちゃんは静かに帰っていきました。

 最初のテンションと全然違います。

 こーちゃんは友達に今日の虎太郎(こたろう)は変な奴だなって言われていました。


「何? 今のは?」

「落ち着けば少しは男らしく見えるからじゃないのかな?」


 私の疑問にリンちゃんが答えてくれました。

 こーちゃん。

 落ち着けばいいってものじゃないよ?

 それに無理をしてて辛そうに見えたよ?



 そして放課後になりました。

 こーちゃんが教室まで私を迎えに来てくれるはずです。

 しかし、今日は来ません。


 リンちゃんは部活でいないので仕方なく一人で帰ります。

 いつもは隣にいるこーちゃんがいなくて少し寂しいです。


「ヒメちゃん」


 私が上履きから靴に履き替えている後ろからこーちゃんが私を呼びました。


「こーちゃんが私を迎えに来てくれなかったから少しだけ帰るのが遅くなったじゃん」

「ごめんね。ヒメちゃん」


 こーちゃんは本当に申し訳なさそうに謝ってきました。


「悪いと思うなら一緒に帰ろうよ」

「それはできないんだ」


 こーちゃんはそう言ってうつむきました。

 どうしたの?

 こーちゃん。


「こーちゃん?」


 私はこーちゃんの手を握ります。


「ダメだって」


 こーちゃんは私の手を振り払いました。


「こーちゃん?」

「僕には好きな人がいるからヒメちゃんは僕に触れたらダメなんだよ?」

「あっ、だから私と一緒に帰れないんだね。彼女と一緒にいたいんだね」


 そして私は帰ろうとこーちゃんに背を向けます。


「ヒメちゃんのバカ」


 こーちゃんはそう言って私の制服の裾を引っ張りました。


「こーちゃん?」

「ヒメちゃん。僕は大好きなんだ」

「そんなに好きなら早く彼女の元に戻りなよ」

「あっ、そうだね」


 そして、こーちゃんは彼女の所へ戻っていきます。

 こーちゃんの背中がいつもより大きく見えました。


 家に帰って部屋でのんびりしているとエリザベスが私の膝の上に乗ってきました。

 私はエリザベスの喉を撫でます。

 隣の家のこーちゃんの部屋を見るとちょうどこーちゃんが帰ってきました。


 私はエリザベスの前足を持ち、こーちゃんに向かってエリザベスの前足を使って手を振りました。

 こーちゃんは勢いよくカーテンを閉めました。

 こーちゃん?


 エリザベスの前足をいつまでも持っていた私の腕にエリザベスは引っ掻き傷をつけました。

 ごめんねエリザベス。嫌だったよね?

 こーちゃんも嫌だったのかなぁ?


 こーちゃんが男らしくなるのは私から離れていくということなのでしょうか?

 少しだけ寂しいです。


 こーちゃんには変わらないでほしいです。

 可愛いこーちゃんでいてほしいです。

読んで頂き誠にありがとうございます。

全部で3話ですので展開は早いです。

最後までお付き合い頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おはようございます。 子犬みたいなアイドルの顔を思い浮かべながら読ませていただきました。(年甲斐も無く、ちょっと娘とハマっているグループがいるので) こうちゃん、子どもが拗ねてるみたいで…
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