彼は可愛い幼馴染でした
「今日は一緒に学校に行かないからね」
朝から私の家に来て幼馴染は拗ねながら、頬を膨らまし言った。
可愛すぎよ。
朝から、こんなに可愛い彼を見られるなんて幸せだよ。
細い柔らかいショートの髪に毛先だけパーマがかかっており、大きな二重の目と長い睫毛、小さな鼻に口角の上がったピンクの唇。
彼はまるで女の子のような見た目なの。
「どうしたの? こーちゃん」
彼はこーちゃん。
十六歳の高校一年生。
本当の名前は虎太郎。
名前は男の子っぽいのに見た目は可愛い女の子のよう。
その彼が私の可愛い幼馴染なの。
「だってヒメちゃんが悪いんだよ?」
「私?」
「僕だって、、、」
こーちゃん?
どうしたの?
プルプル震えて言いたいことを我慢している彼はもう、たまらなく可愛い小型犬みたい。
「どうしたの? こーちゃん」
私はこーちゃんを抱き締める。
こーちゃんより少し背の高い私は抱き締めることが癖になっているの。
「ヒメちゃん。僕は一人でも大丈夫だから。ヒメちゃんがいなくても、へっちゃらなんだ」
こーちゃんが、いつもと違う気がするよ。
私の腕の中から逃れようと暴れるこーちゃん。
いつもは私の気が済むまで大人しく抱き締められているのに。
こーちゃんは私の腕から抜け出し、私から距離をとる。
「僕は男の子なんだよ? ヒメちゃんは女の子なんだよ?」
「うん。分かってるよ」
「それなら、どうしてクラスメイトの女の子に女子と話をしているみたいで話しやすいって言ってたの?」
「それは、こーちゃんのことじゃなくて、、、」
「僕は可愛い女の子じゃなくて格好いい男の子でしょう?」
こーちゃんが私の伝えたいことを遮って言わせてくれない。
こーちゃん、勘違いしてるよ。
私達はあの時、こーちゃんの話をしていたけど、いきなり話が変わってテレビドラマの話になっていたのよ。
そのドラマの主人公はファッション雑誌の編集者で、その主人公が好きな人に対して言った言葉がヒドイよねって話になってたんだよ。
それが、さっきからこーちゃんが言っていた、女子と話をしているみたいで話しやすいっていうセリフなのよ。
だから私が言っていたのは、テレビドラマの主人公の男の人のことなのに、、、。
「だから、こーちゃんは可愛いんだけどクラスメイトと話をしていたのは、、、」
「ヒメちゃんのバカ。僕は男の子なんだよ? 格好いいって言われたいのに」
こーちゃん。
話を聞いてよ。
でもこーちゃんが可愛いのは本当だもん。
「無理だよ。こーちゃんは可愛いもん」
「それなら男らしい僕を見せてあげるからね」
「楽しみにしてるわ」
「できないと思ってる?」
「こーちゃんに男らしいなんて思ったことがないもん。こーちゃんは可愛いがお似合いよ」
私の言葉にこーちゃんはムッとしている。
そんなこーちゃんも可愛いの。
「知らないからね。ヒメちゃんが僕を男らしいと思って惚れても、遅いんだからね」
「どうして遅いの?」
「僕には好きな人がいるからだよ。だから惚れないでよ」
「どんな人なの? こーちゃんの好きな人なら可愛い子なんだろうね」
「とっても可愛い子だよ。だからヒメちゃん。もう一度言うよ。男らしい僕を見ても惚れないでよ。僕には好きな人がいるんだからね」
こーちゃんはそう言ってウインクをした。
可愛い、こーちゃん。
こんなに可愛いこーちゃんから男らしい要素なんて想像ができないよ。
こーちゃんったら、他の女の子にとられて悔しいって、私に思わせたいの?
私は後悔なんてしないわよ。
だって可愛いこーちゃんだよ?
ほら今だって、我が家の猫のエリザベスに癒されて、愛くるしい笑顔を見せているのに?
私より女の子に見えるこーちゃんなのに?
私より可愛いって言われるこーちゃんなのに?
私より少しだけ身長が低いこーちゃんなのに?
こんな可愛いこーちゃんが男らしくなったらどうなるんだろう?
可愛いこーちゃんが、いなくなったらどうなるんだろう?
可愛いこーちゃんが好きなのになぁ。
私の名前は姫。
十六歳の高校一年生で、こーちゃんと同じだよ。
身長は男子の平均くらいある。
髪はショートカットで手入れをしていないからボサボサ。
そんな私のボサボサの髪に櫛を通してくれるのが、私の友達のリンちゃん。
「ヒメちゃん。虎太郎くんはヒメちゃんに男の子としてみて欲しいんだよ」
リンちゃんに朝の出来事の話す。
リンちゃんは私の後ろの席から髪を櫛で優しく通しながら言う。
そんなリンちゃんに背中を向けていた私はリンちゃんの方を向く。
「こーちゃんは小さな頃から、あんな風だよ? 私より泣き虫で、私よりおねだり上手で、可愛くて守りたくなる存在なの」
「でも虎太郎くんは昔の小さな子供じゃないんだよ?」
「私からすれば変わらないよ。今も昔も」
「でも虎太郎くんだって大きくなって子供じゃないんだよ?」
「それでも、こーちゃんは可愛いの。それに可愛いは褒め言葉だよ?」
「それならヒメちゃんが男の子のように格好いいって言われるのはどう思うの?」
「それは、、、嫌だね」
「虎太郎くんもヒメちゃんと同じだと思うよ?」
リンちゃんの言葉を聞いて少しだけ、こーちゃんに対して申し訳ない気持ちになった。
「そっか。でも、こーちゃんは可愛いんだもん。リンちゃんもそう思うでしょう?」
「そうだけど。虎太郎くんが男らしい所を見せてくれるんでしょう?」
「そうなの。男らしいって何だと思う? 今日の朝の一人で登校するって言ってたのも男らしいのかな?」
「そうかもよ。ヒメちゃんがいなくても一人で登校できるよって言いたかったのかもね」
「それって男らしいじゃなくて小さな子供が初めて一人でおつかいをするのと同じだよね?」
「でもそれが虎太郎くんは男らしい所だと思っているのよ」
「こーちゃんはやっぱり可愛いね。子供みたいって言ったら頬を膨らまして怒るんだろうな」
「ヒメちゃん。一生懸命の虎太郎くんをいじめちゃダメだよ」
リンちゃんは小さく笑って私の髪を櫛で通し終わると、いつものように私の前髪を斜めに分けてヘアピンをつけてくれる。
鈴がついているヘアピン。
私が動くと可愛い音がリンリンと鳴るの。
「ねぇ、リンちゃん。このヘアピンはリンちゃんが買ったの?」
「ん? このヘアピンは虎太郎くんが私に渡してきたのよ」
「こーちゃんが?」
「そうだよ。この鈴があればヒメちゃんの居場所がすぐ分かるからだって言ってたよ」
「いつも一緒にいるのに鈴って必要なの?」
「本当の理由は違うと思うんだ」
リンちゃんが人差し指をリンちゃん自身の唇に当てる。
まるで秘密だというように。
「本当の理由?」
「そう虎太郎くんの本当の気持ちだよ」
「こーちゃんは私の居場所が分かればいいのよね?」
「そうね。まるでペットの首輪につける鈴みたいね」
「私がこーちゃんのペット?」
「ペットが何故、首輪をつけるのか分かればヒメちゃんの、その鈴の意味も分かるかもね」
リンちゃんは私に鈴の本当の理由を教えてくれるつもりはないみたい。
だってリンちゃんは大好きなアイドルの雑誌を机から取り出したから。
リンちゃんは大好きなアイドルの雑誌を見ると自分の世界に入ってしまうの。
私の声なんて聞こえなくなるほど雑誌に夢中になる。
リンちゃんが教えてくれないのなら自分で考えるしかないわ。
我が家のペットは猫のエリザベスだけ。
エリザベスの首輪にはノミを寄せ付けない効果があり、鈴もついている。
ノミを寄せ付けない為に、このヘアピンがあるの?
やっぱり私はこーちゃんにとってペットなのかな?
◇
「ヒメちゃ~ん」
お昼ご飯の時に、こーちゃんが叫びながら私に手を振っている。
しかし、すぐに手を振ることを止め静かに私に近づいてきた。
「こーちゃん?」
「ヒメちゃん。これからお昼ご飯は友達と食べるからね。それを言いに来たんだよ」
「そうなんだ。分かったよ」
そして、こーちゃんは静かに帰っていった。
最初のテンションと全然違う、こーちゃん。
そんなこーちゃんは友達に、今日の虎太郎は変な奴だなって言われてた。
「何? 今のは?」
「落ち着けば少しは男らしく見えるからじゃないのかな?」
私の疑問にリンちゃんが答えてくれた。
こーちゃん。
落ち着けばいいってものじゃないよ?
それに無理をしてて辛そうに見えたよ?
そして放課後になった。
こーちゃんが教室まで私を迎えに来てくれるはず。
しかし今日は来ない。
リンちゃんは部活でいないので仕方なく一人で帰る。
いつもは隣にいるこーちゃんがいなくて少し寂しいよ。
「ヒメちゃん」
私が上履きから靴に履き替えている後ろから、こーちゃんが私を呼ぶ。
「こーちゃんが私を迎えに来てくれなかったから少しだけ帰るのが遅くなったじゃん」
「ごめんね。ヒメちゃん」
こーちゃんは本当に申し訳なさそうに謝ってきた。
「悪いと思うなら一緒に帰ろうよ」
「それはできないんだ」
こーちゃんはそう言って、うつむいた。
どうしたの?
こーちゃん?
「こーちゃん?」
私はこーちゃんの手を握る。
「ダメだって」
こーちゃんは私の手を振り払う。
「こーちゃん?」
「僕には好きな人がいるからヒメちゃんは僕に触れたらダメなんだよ?」
「あっ、だから私と一緒に帰れないんだね。彼女と一緒にいたいんだね」
そして私は帰ろうと、こーちゃんに背を向ける。
「ヒメちゃんのバカ」
こーちゃんは、そう言って私の制服の裾を引っ張る。
「こーちゃん?」
「ヒメちゃん。僕は大好きなんだ」
「そんなに好きなら早く彼女の元に戻りなよ」
「あっ、そうだね」
そして、こーちゃんは彼女の所へ戻っていく。
こーちゃんの背中が、いつもより大きく見えた。
家に帰って部屋でのんびりしていると、エリザベスが私の膝の上に乗ってきた。
私はエリザベスの喉を撫でる。
隣の家のこーちゃんの部屋を見ると、丁度こーちゃんが帰ってきた。
私はエリザベスの前足を持ち、こーちゃんに向かってエリザベスの前足を使い、手を振った。
それなのに、こーちゃんは勢いよくカーテンを閉めた。
こーちゃん?
エリザベスの前足をいつまでも持っていた私の腕に、エリザベスは引っ掻き傷をつけた。
ごめんねエリザベス。嫌だったよね?
こーちゃんも嫌だったのかなぁ?
こーちゃんが男らしくなるのは私から離れていくということなのかな?
少しだけ寂しいな。
こーちゃんには変わらないでほしいのに。
可愛いこーちゃんでいてほしいのに。
読んで頂き誠にありがとうございます。
全部で3話ですので展開は早いです。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。




