第251話 悪球打ち
(今の真凡ちゃん、ボール球を読んで踏み込んで打ったよね?
……あの後輩2人を見ていると、来年の湘東学園はもっと凄くなるのが嫌でも分かるから、嬉しくもあるけど、悲しくもあるね)
4回裏、ノーアウトランナー1塁3塁で6番の本城に対し、初球からシュートを投げるアメリカの投手。本城はそれを見逃し、カウントは0-1とストライク先行が続く。
(僕が1年遅れて生まれてたら、もう1年一緒に野球が出来たのかな。……いや、僕の生まれる日が違っていたら、一緒に野球をすることも無かったかもしれないから考えるだけ無駄だね)
2球目に本城はバントの構えだけして、ボール球を誘った。カウントは1-1となり、不思議と本城は次の球を打てる気がした。
(……思っていたより、スクイズを警戒されているのかな?前の打席で、犠牲フライを打ってるのに何で?)
3球目は目一杯外されたボール球で、2-1と打者有利のカウントになる。本城は何故スクイズが警戒されているのか分からなかったが、次の投球が来た時にその理由を察する。
(カノンが走ってる!?あ、違う。帰還出来るギリギリまで、第二リードを取ってるんだ)
4球目も外れ、ここでアメリカのキャッチャーが持ち前の強肩を活かして3塁へ投げるも、奏音はセーフになる。ようやく奏音がプレッシャーをかけ続けていることに気付いた本城は、それに今まで気付かないほど余裕が無かったことに気付き、視野がそんなに狭くなっていたのかと自分で自分に驚いた。
(……向こうは満塁にしようとするだろうね。ノーアウトランナー1塁3塁より、ノーアウト満塁の方が守りやすいし。でも意図的な敬遠はタブー扱いになっているから、ストライクゾーンギリギリのボール球かも。
私は、この打席で1回もバットを振って無い。ボール球なら、気持ちの入っていない球が来るかもしれない)
カウント3-1で、バットを捕手に気付かれないよう握り直した本城は、低めと外角に絞ってボール球を待つ。すると読み通り、ストライクになるか微妙な速球が低めに投げられた。
(湘東学園で野球を続けて、1番野球観を変えられたのはボール球も打てる時は打った方が良いということだよ!)
そのボール球を捉えて、本城はセンター方向に弾き返す。1打席目の時よりも大きく飛んだ打球は、センターの頭を越えた。
3塁ランナーの奏音はホームに還り、1塁ランナーの伊藤もホームに突っ込む。本塁はクロスプレーにもならず、伊藤は生還して日本は3点目を獲得。試合は3対3と、日本が同点に追い付いた。
「ナイスラン!真凡ちゃんも本城さんも、凄かったよ。2人ともボール球の決め打ちを成功させるとか、後で絶対に話題にもなるやつだし」
「そのボール球の打ち方を教えたのは、カノンじゃない。
別にストライクゾーンに来た球だけを打つ競技じゃないとか、配球が読めるなら打った方が良いとか、結構勧めてたわよね?」
「時と場合によるし、ボール球を打ちに行くこと自体はそんなに良い事でもないとも言ったはずだよ。でも今回は、見事に読み切ったね」
本城さんのタイムリーツーベースヒットで日本は2点を追加し、同点になった。ホームベースで真凡ちゃんが還って来るのを待って、ホームイン後にハイタッチ。2人で意気揚々とベンチに戻るけど、まだ追加点のチャンスだ。
ノーアウトランナー2塁で、7番の白木さんが打席に立つ。そして8番の大橋さんの打順には、篠宮先輩が代打で出された。さっきの打席で大橋さんはヒットを打ったけど、まぐれのヒットだと岡沢監督は見抜いていたみたい。
大橋さんに代打が出るということは、投手もここで交代だね。芳田さんの成績は4回3失点で確定したし、その芳田さんよりも、友理さんの方が抑えられると見ての交代かな。
ただ、友理さんのお化けスライダーもアメリカ打線に通じるかは分からない。それならここでもう1点を取って、逆転しておきたい。
白木さんは、サイン通り右打ちを敢行。セカンドゴロになって、本城さんは3塁に進んだ。ワンナウトランナー3塁で、篠宮先輩か。気持ちの問題だけど、篠宮先輩なら犠牲フライを打ってくれそうだよね。
「……相手ピッチャーの、球速が落ちてる?」
「んー、2点を取られてなおもピンチだからね。いや、打たれ弱いタイプというよりかは、セットポジションが苦手なのかも」
「クイックは速いわよ?」
「速いからだよ。無理にモーションの短縮をしているから、ランナーがいると本来の持ち味を発揮出来ないタイプだと思う」
真凡ちゃんと、相手投手のことを分析しながら篠宮先輩を応援してると、無事に篠宮先輩はライトフライを打つ。差し込まれた感じだけど、それでもフライには出来る辺り篠宮先輩の打撃も森友さんに劣ってないよ。
犠牲フライになって、日本はさらに1点を追加。4回裏が終わって、3対4と日本がリードをする展開になった。