第243話 神戸ガールズ
韓国対日本の試合は3対4で5回裏を迎え、ノーアウトランナー1塁3塁の状況でバッターボックスには大村さんを迎えた。そしてネクストバッターズサークルに入った裕香ちゃんは、何か言いたげに私を見つめて来る。言いたい内容は、大体察することが出来るね。
そして大村さんは、超スローカーブを捉え切れずにピッチャーフライ。大きく曲がるし、速球を見た後であの遅さの変化球は純粋に打ち辛い。ワンナウトランナー1塁3塁になって、裕香ちゃんが打席に立つ。
……大村さんを打ち取ったことで、若干意識が逸れた間隙を狙い私は2塁へ盗塁する。球速が遅いなら、それだけで私を止めることは出来ない。と言いながらも、相手キャッチャーの肩とスローイングが良かったからタイミング的にはそれほど余裕が無かった。
ワンナウトランナー2塁3塁になって、カウント1-0から裕香ちゃんは2球目のスローカーブを空振る。タイミングが取りずらいし、大きな変化だし初見での攻略というのは難しい。だからこそ私は、裕香ちゃんが何かすることが読めた。
そのことを、湘東学園のサインで3塁ランナーの本城さんに教える。向こうも私の意図が伝わったのか、バッター勝負のサインが返って来た。こういう時に、同じ高校のメンバーを固めて配置しているメリットは感じるね。
裕香ちゃんは、全国大会で3連覇を果たした神戸ガールズの中核メンバーだ。野球は、1人で出来るものではない。私の世代に裕香ちゃんと真弘ちゃんと勇奈ちゃんが居なかったら、特に2年生の時の全国制覇は難しかったんじゃないかな。
裕香ちゃんは、単に走攻守が揃っている選手じゃない。守備面では間違いなく世代最強のショートだと思うし、相手が強い時ほど、何かしてくれるバッターだ。相手が軟投派で、打ち崩し辛い時でも、何かしてくれると期待することが出来る。
カウント1-1から3球目。2塁にいるとよく見えるけど、韓国の中継ぎは変化の少ないカットボールのような球を投げて、裕香ちゃんはバントの構えをした。
裕香ちゃんのバントの構えを見て、即座に突っ込むことが出来る本城さんはやっぱり凄い。私は若干スタートを遅らせて、打球の行方をしっかりと見ておく。
韓国はスクイズが来たと思い、ファーストとサードがダッシュしている。しかし裕香ちゃんは落ち着いて、投手とファーストの間を抜くようなプッシュバントを行なった。その打球を見て、私は3塁へ走る。
韓国のセカンドは、打球を捕ってから一瞬、送球に迷う。本塁は本城さんがセーフになるタイミングで、3塁は普通のランナーならアウトになりそう。だけど2塁ランナーは私。そして1塁への送球は、さっきの私の印象が残っているはずだから微妙なタイミングに思える。
このコンマ1秒の迷いが、1塁をセーフにした。セカンドは捕球した後、3塁方向をまず向いた。そして3塁でアウトにすることが難しいと判断すると1塁を見るけど、こちらも微妙。それでも投げないわけにはいかないし、既に送球のモーションには入っていた。結果的に1塁はセーフとなり、内野安打となる。
1点を追加し、なおもワンナウトランナー1塁3塁の場面で、続くバッターは篠宮先輩。神戸ガールズでは1つ上の世代のキャプテンとして、3年生と1、2年生の間に出来ていた軋轢を無くした人だ。人の気持ちを推し測るのが上手な人だし、ここぞという場面では頼りになった。
篠宮先輩は、キッチリとライトまで飛ばして犠牲フライにする。ライトの人はバックホームするけど、コントロールが全然だし投げるまでの時間が長い。今回の韓国代表のオーダーで分からないのは、あの4番を何でDHじゃなくてライトで使っているのかだね。もしかしてDHの人は、もっと守備が駄目なのかな。
バックホームの隙を突いて、裕香ちゃんも2塁へと進塁する。日本対韓国の試合は3対6と、再び3点差に開いた。
「ナイス犠牲フライです。今のは狙って打ちましたか?」
「流石に、あの遅さの球を流し打ちするのだから狙ったに決まっている。ヒットを打つのは確かに難しいが、犠牲フライを打つなら楽な投手だな」
篠宮先輩と一緒にベンチに戻って、ベンチの面子とハイタッチ。まだツーアウトランナー2塁だけど、内河さんの打球はセカンドの好守に阻まれてスリーアウト。ふらっと上がった打球だったけど、後方に飛びながらキャッチは凄いね。
この試合はあのセカンドの働きが目立つし、前情報以上に動けているから一二塁間や二遊間は抜き辛そう。その後の6回は試合が動かず、7回表には福春さんから代わって浦田さんがマウンドに登る。
浦田さんは、ワンナウトからヒットを打たれるも何とか無失点で抑えた。左投手のリレーが続き、韓国打線の攻撃は散発的なものに終わる。7回裏には私の敬遠から2点を追加し、3対8となって9回表。
7回から投げ続ける浦田さんが最終回も踏ん張って、3イニングを無失点に抑えた。日本対韓国の試合は、日本の勝利で終わり、日本はベスト8進出を決める。次の対戦相手は、開催国のオーストラリアだ。




