第240.5話 予選の免除
湘東学園は秋の県大会で、予選を免除されている。甲子園に出場している高校は、日程的に秋の予選の試合日と被ることがあるからだ。そしてこれは、甲子園出場チームの新チームの始動が遅れるということを意味する。
統光学園は夏の甲子園で準決勝まで残り、他の甲子園出場校と違わず秋の新チームでの出発は遅れた。特に右のエースである友理と、左のエースである新開がU-18W杯で離脱しているのは痛手だった。
県大会の2回戦を14対0と大勝して勝ち進んだ湘東学園の面子が注目するのは、その統光学園の初戦。梅村が統光学園の初戦のスコアを確認していると、春谷が話しかける。
「……統光学園の初戦は、18対7か」
「薮内さんが先発して、炎上していますね。まだ1年生で130キロ近い球速を出す左腕ですが、相手も強かったです」
「野手はよく打ってるけど、エラーも多い。公式戦で初めて試合に出た人も多いだろうし、4回戦までに事故る可能性は高いよ」
「統光学園が、湘東学園の位置のくじを引いていたらかなり危なかったですね。……統光学園は3回戦の相手と4回戦の相手候補が、さほど強くないのは幸いですね」
統光学園は初戦で、5回コールド勝ちはしたものの、内容はそれほど良く無かった。相手が予選を勝ち抜いた高校とはいえ、決して強豪校とは言えない相手に7失点をしたからだ。それには準備不足が大いに関係していた。
「とはいっても選手層は厚いし、向こうの山を勝ち抜くのは統光学園だと思うよ」
「問題は、私達の方かもしれませんしね。3回戦の相手の金澤高校は今年の夏の準決勝で横浜高校相手に負けた高校ですが、新エースを中心にした新チームは練習試合や公式戦で今のところ全勝です」
「それに加えて、向中高校が4回戦で待ってるのは酷いくじだよ。
……負ける気は、さらさらしないけどね」
「詩野ちゃーん!真凡ちゃんが表紙だった!凄くない!?」
梅村と春谷が話しているところに『月刊高校野球 U-18W杯完全ガイド版』を購入した西野が声をかける。表紙には奏音ではなく、新鮮味のある伊藤のスイング中の写真が採用されていた。
「アジア予選で、出塁率8割は相当なものだから真凡が表紙なのも分かるよ。……こうしてカノンと真凡を雑誌で見ても、そこまで遠くに行ったという実感は無いよね」
「あ、それは分かるかも。あと10日で、帰って来るんだよね?」
「韓国に負ければ、4日後には帰って来ますよ?」
「それはあまり考えたくない」
雑誌には湘東学園のメンバーである本城や奏音や伊藤のことが詳細に描かれており、それでも同学年である伊藤が有名人になったという実感は湧き辛いと梅村は言い、西野は同意する。奏音達が戦力として復帰するのは最長で10日後になるが、春谷に今から最短だと4日後になると言われ、西野はそれに対して考えたくないことだと言う。
韓国と日本の関係は、端的に言うと悪い。しかし十数年前、韓国ルールが作られる前と後で比較すると、韓国人のマナーや態度というのは確実に良化していた。
韓国ルールが作られた理由は単純で、韓国の選手の暴走や観客のマナーの悪さに世界中から批判が集まったからだ。そのきっかけはある年のU-18W杯のアジア予選で、最初は台湾のホームランに韓国人の三塁線審が異議を唱え、ホームランが取り消しになったことだった。
これがアジア予選参加国に問題視され、日本側も意見を言った。すると次の日本対韓国の試合で、韓国側の観客達がレーザーポインターを大量に持ち込んだ。今までも日本が韓国に対して敵対行動を起こす度に試合に持ち込まれたレーザーポインターだが、この時だけは数が尋常では無かった。
試合は日本がエラーを繰り返し、接戦の末に負けた。レーザーポインターを集中的に浴びた日本の選手の数名は、視力の低下を訴えた。これも世界中で問題視されたが、この時はまだ爆発的な韓国批判までとは行かなかった。この件が注目されたのは、韓国代表が起こした更なる問題行動のためだった。
それはアジア予選を全勝で勝ち抜いた韓国代表のメンバーが、表彰式で日本や台湾、その他のアジア予選参加国の国旗を破ったり踏みつけたりしたことだった。この件はSNSでもあっと言う間に拡散し、大騒動に発展した。
韓国の協会やチームはその後、謝罪をしたものの、騒ぎは収まらなかった。ここに来て対日本戦で、レーザーポインターを使用しての勝利をしたことが話題を集めたからだ。また4年に1度のW杯でも、韓国のレーザーポインターは度々問題になっており、ようやく1つの処置が行なわれる。
『国際試合で韓国が試合を行なう場合に限り、観客席にレーザーポインターやそれに類するものを持ち込んだ場合、罰金5万ウォン』
もちろん最初は韓国という文言が本当に必要なのかどうかの協議もされたが、このふざけた文言が通る程度には韓国が国際社会から嫌われていた。問題を起こしていない国々に配慮し、最終的に韓国戦限定のルールとなる。
世界中に喧嘩を売り続ける韓国に対し、世界が冷や水をかけるつもりで作った韓国ルールの効果は、大きかった。
韓国ルールが作られて以降、韓国の観客や選手のマナーというものは改善されていった。しかしそれでも、日本に敵意のある韓国人や、韓国に敵意のある日本人の数はなかなか減らなかった。
梅村は西野の買って来た雑誌を手に持ち、ペラペラと韓国代表を分析したページまでめくる。韓国代表は他の国の代表より細かく分析されており、評価は辛口になっていた。