第233話 手札
U-18W杯は甲子園のスター達が集う。そして相手も、甲子園のスター以上の実力者達が勢揃いしている。ここで重要なのが連投規制という制限であり、安易に強い投手を投入し続けると後で痛い目を見る。使える投手がいなくなって、野手が登板することになるようなのは稀だけどね。
全員が強いチームというのは理想だけど、それでもその中で強弱はあるし、投手に関しては如何に手持ちの札を上手く使うかだね。相性の良し悪しもあるし、指揮官次第になる。2回の攻防はお互いに0点で終わって、3回表は3番の本城さんから始まった。
ジェニファーさんの立ち上がりは良く無かったようで、回が進むに連れてストレートの勢いが増しているような感じがする。それでも本城さんがスプリットを上手くセンター前へ弾き返して、ノーアウトランナー1塁。
こういう状況でも、敬遠されないというのは素直に嬉しい。ただこういう場面だと、四球覚悟で厳しいコースに変化球を多投されそうかな。
1球目と2球目、低めに外れたスプリットを見送ってカウントは2-0となった。私個人のデータとして、変化球よりストレートのホームラン率が高いというのはアジア予選で分かっているはずだし、ジェニファーさんの変化球は大きく落ちる。ボール球になる高レベルの変化球まで芯で捉えるのは、はっきり言って難しい。
ジェニファーさんが2球種だけでも通用しているのは、変化量が桁違いだからだね。3球目のカーブは上手く合わせられず空振り。ビデオで散々見たけど、実際に見るとえげつない角度で曲がって落ちている。
4球目も同じカーブが来たので、軽く合わせてライト線へ流す。本城さんは3塁まで走り、ノーアウトランナー1塁3塁とチャンスを広げた。
ここでバッターは、先程の打席でヒットを打っている大村さん。何とか追加点が欲しいところで、大村さんの打球は守備の良いショートのいる三遊間に飛び、6-4-3の併殺を食らった。その間に本城さんは本塁に還って、日本代表は3点目を挙げる。
……最低の最低限、かな。勝ち越したことに変わりはないけど、ランナーがいなくなったのは痛い。
「3回裏の途中で、友理さんに代えるのね」
「50球までなら、連投が出来るからね。1番球数が多かったら中3日が必要だけど、2番手以降なら連投出来るのは大きいよ」
ベンチに戻ると、DHのせいかいつも以上に口数の多い真凡ちゃんに話しかけられる。指名打者は守備中に暇なイメージを持っている人も多いけど、身体を冷やさないようにストレッチや素振りをする人は多い。
普段守備に就いていると打てる人がDHになると極端に打てなくなることもあるし、DHを嫌がる人がいるのも分かる。真凡ちゃんはレフトのスタメンの時と試合の感じ方が変わって戸惑っていたし、DHよりかは代打とかの方がまだ打ちやすそうだね。
逆に本城さんはDHが好きなようで、かなりDHに向いているタイプだと思う。ここら辺は岡沢監督も分かっていると思うけど、一応進言しておこうかなと思いながら後続のバッターを応援する。
ツーアウトになってから、続く裕香ちゃんは四球を選ぶも、内河さんが三振してこの回は1点止まりだった。3回表が終わって、3対2と1点のリードだね。
3回裏は大槻さんが三者凡退で抑えたので、友理さんは4回裏から投げることに。逆にイングランド代表は、ジェニファーさんが完全に掴まるまで投げるつもりなのか、4回表で50球を超えていても投げさせ続けていた。
……3回までの大槻さんの球数は、46球。この球数を超える中継ぎがいれば、そっちが中3日になるというルールは1番重要なルールだと思う。ちなみに1番球数が多かった投手が2人いた場合は『1番球数の多い投手』が複数人いる扱いになるので、2人とも中3日という扱いになる。
友理さんは相変わらずスライダーのコントロールに苦しんでいたけど、今日は調子が良いのか良い感じに縦のスライダーで空振りを誘えていた。試合は5回表になって、真凡ちゃんがヒットを打ち、本城さんがライトフライに倒れた所でジェニファーさんも交代。
中継ぎで登板して来た投手は、欧州予選で無失点無四球だった人。私を抑えるためだけに、私の前で投手交代をしているけど、よくある化け物への対処法だし、私のようなバッターには効果的だと思う。
確かこの人が持っている球種は、スライダーとフォークとシンカーとシュートとカットボールだったかな。優紀ちゃんのように多球種を投げ分けることが出来て、最速138キロは勘弁願いたい。
ジェニファーさんはそうでも無かったけど、この人はストレートが綺麗なバックスピンじゃなくて少し動くし、初対戦でホームランを狙って打てる投手では無さそう。
2球ファールを打って追い込まれて、決めに来た初見のフォークを上手く合わせて右中間へ飛ばす。真凡ちゃんは一気にホームを陥れて、私は3塁まで進んだ。タイムリースリーベースヒットだ。




