第211話 7回の攻防
真凡ちゃんに対して、根岸さんはアウトコースを中心に攻める。単純なことだけど、智賀ちゃんはアウトコースが得意で、真凡ちゃんはインコースが得意だ。これには、体格が大きく関係している。
腕の短い真凡ちゃんに、アウトコースの球は打ち辛い。逆に腕が長い智賀ちゃんは、窮屈なインコースの球を打ち辛い。もちろん、真凡ちゃんも打ち辛い球を打ち辛いままにして放置はしていない。ちゃんとアウトコースの球を、流し打ちする技術というのは身に着けている。
ただ、それは相手投手のストレートに力が無い場合だね。県予選の時、真凡ちゃんが三村さんの重い球に手古摺ったのはアウトコースのストレートを流し打ちするには威力のあり過ぎる球だったからだ。
もちろん、パワーを付けるために真凡ちゃんも筋トレはしている。素振りは呼吸の如く毎日続けているし、1年生の頃よりも打球を飛ばす力は増した。それでも、根岸さんのストレートを押し返すには力が足りなかった。
真凡ちゃんの打球はサードゴロになり、ワンナウト。これで勝負してくれるかなと思っていたら、根岸さんは苦虫を噛み潰したような顔でワンバウンドの球を投げる。
……まともな勝負は、しないつもりのようだね。しかもワンバウンドする球なのにも関わらず、変化がかかっていたことから大きく外れる変化球を連投するつもりだろう。森友さんが後ろに逸らしたけど、ランナーがいないなら関係無い。
それに、振り逃げで出塁するのも四球で出塁するのも出来上がる状況的には一緒だ。残念ながらどこに大きく外れるボール球が来るか分からない以上、長打にするのは難しい。
2球目、外角低めに大きく外れるカーブに何とかバットを合わせるも、結果はファール。ファールフライを捕られそうになって、ヒヤッとしたよ。その後は大人しくして、フォアボールで出塁する。
ワンナウトランナー1塁になって智賀ちゃんが打席に立つけど、ゾーンには入っていないね。今まで1日に2回もゾーンに入ったことは無かったから、打つのは厳しそう。
何とか盗塁をしようと試みるけど、根岸さんの牽制が上手いのとクイックが早いので盗塁も無理だ。結局この回、智賀ちゃんと本城さんは共に凡退して湘東学園は追加点を挙げられなかった。
「……最終回だけど、スタミナの方は大丈夫?」
「まだそんなに多くの球数は放ってないし、大丈夫。この回で、決着を付けるよ」
「うん。代打攻勢で来るかもしれないけど、今日のカノンの調子なら抑えられるよ」
「縦スラが、今日は面白いぐらいに落ちるしね。ラストのアウト3つ、気を引き締めて行くよ」
7回裏、大坂桐正の攻撃は9番から。代打の1番手で試合に出て、そのまま守備に就いた人だけど、レギュラー陣と守備の方でもそんなに変わりは無いように見える。
初球、ツーシームを投げるとカキンと良い音が響き、打球はセンターへ。センターを守るのは、1年生の光月ちゃんだけどしっかりとキャッチしてワンナウト。
あとアウト2つで大阪桐正に勝てる。そう勝ちを意識しても、私のパフォーマンスは落ちない。上位に戻って1番バッターがそのまま打席に入るけど、落ち着いて低めに縦スラを集めた。
(セーフティ!対応するよ!)
大阪桐正はワンナウトランナー無しになり、1番の箕田がセーフティバントを仕掛ける。前の打席でもセーフティバントを仕掛けられているため、木南は迷わずに突っ込んだ。
その木南を見て、箕田は薄く微笑む。突っ込んで来る木南の脇を狙って、箕田はプッシュバントを決めた。
(えっ!?うそっ、捕れない!?)
ピッチャーとサードの間を狙って転がされた打球に木南は飛びつくも、グラブの数センチ先を打球が転がる。ショートの美織が回り込んで打球を処理するも、1塁はセーフとなった。
そして2番の東畑は、初めからバントの構えを行なう。一度梅村はマウンドの奏音へ声をかけ、奏音は方針を口にした。
「……セーフティは読んでいたけど、相手が上手かったね。送りバントは、させようと思っているけどどうする?」
「いや、強ストレートで打ち上げさせるよ。バントは失敗させて、悪い流れは断ち切りたい」
「りょーかい。一応、バスターの方も警戒させておくね」
送りバントを簡単に成功させないために、奏音はスピンを全力でかけるストレートを投げる。1球目、2球目と東畑は打ち上げてしまい、その打球はファールになった。カウントが0-2となっても、東畑はバントの構えを解かず、スリーバントを決行する。
「見送って!」
3球目。奏音の130キロ台後半のストレートを東畑は上手く三塁線に転がし、1塁へ駆ける。一方で湘東学園側は、梅村の叫びで打球の処理を見送った。
コロコロと転がる打球は、三塁線のライン上でピタリと止まる。急いで打球を処理すれば1塁はアウトだったが、三塁線を越えればスリーバント失敗で送りバント自体が失敗していた。その賭けに、湘東学園は負けた。
ワンナウトランナー1塁2塁で、大阪桐正はクリーンアップを迎える。3番の森友が打席に立ち、バットを構えた。




