第208話 リード
2回表に私のホームランで先制して以降、点取り合戦になるかと思ったらそんなことは無かった。後続の智賀ちゃん、本城さんは三振してしまい、奈織先輩はライトフライに倒れる。一方で優紀ちゃんは根岸さんにヒットを許すものの、次の大村さんをセカンドゴロで併殺打に打ち取ると、続くバッターもショートゴロでスリーアウト。
お互いに点が入らないまま、4回表を迎える。この回の先頭バッターは、2番の詩野ちゃんから。出来れば先頭バッターが出塁して欲しいけど、難しいかな?
「セーフティ!?」
「上手い!」
何とか出塁して欲しいなと思っていたら、詩野ちゃんはセーフティバントを決行して上手く三塁線へ転がす。久美ちゃんが驚きの声を上げたけど、味方が驚いているんだから完全に相手の意表を突いたね。左バッターは全員が練習した、スタートダッシュも上手く決めている。
「……あー、駄目だ。相手の方が上手いや」
「藤波さん、バントはされ慣れてますからね。それを覚悟の上で詩野さんもセーフティバントをしたのだと思いますが……」
しかし藤波さんのチャージの方が早く、1塁はギリギリアウトになる。詩野ちゃんの足は遅くは無いけど、素早いフィールディングの藤波さん相手にダッシュ勝負で負けた感じ。
というかサードもチャージは速かったし、藤波さんを加えた大阪桐正の内野陣を相手にバントを決めるのは難しそう。送りバントですら、潰されていたチームが多々あるぐらいだし。
ワンナウトになって、打席には真凡ちゃんが立つ。真凡ちゃんと相対すると、藤波さんのギアが一段上がる所を見るに、既に真凡ちゃんのことを大阪桐正側は強打者として認識しているということかな。
バットを折られるほどの、威力あるストレートに対して小柄でパワーの無い真凡ちゃんは完全に力負けしてしまう。ストレートとカットボールの2球で追い込まれた後、ストレートを打ちに行っても後ろへ飛ぶファールとなった。
「……またバット折れた?」
ここで真凡ちゃんはバットを凝視したため、ネクストバッターズサークルで待機していた私は思わずまた折れたのかと呟いてしまう。だけど真凡ちゃんはバットの交換をせず、そのまま打席に居座り続けた。
カウントは0-2のまま、真凡ちゃんに対して4球目。藤波さんは続け様にストレートを投げ、真凡ちゃんは打ちに行く。またもやバットは折れ、折れたバットの先はマウンドへと飛んだ。それを処理した藤波さんは、ボールには当然届かない。
そして打球は、転々と三遊間を転がる。ショートはバットが折れたからか、一瞬反応が遅れたため、1塁はギリギリセーフとなった。打球が完全に死んでいたから、一瞬の判断の遅れが生死を分けたね。
1塁上から私に向けて笑顔を向けて来る真凡ちゃんに、私は笑顔を返す。とは言え、流石にこの打席は敬遠されるかな。
ワンナウトランナー1塁。この場面で打席を迎えた私は、敬遠をされる。春の履陰社戦の時ほど、ブーイングや野次が少ないのは単純に大阪桐正ファンが多いからか、私が肯定したからか。
……今回の甲子園で既に4本のホームランを打っている打率10割バッターを相手に、敬遠しないという選択肢は無い。相手だって勝つために必死だ。これぐらい、想定内だ。まあ、藤波さんでも勝負を避けるというのは残念極まりないけど。
ストレートのフォアボールになり、ワンナウトランナー1塁2塁というチャンスで打席に立つのは智賀ちゃん。バットを構えてから、微動だにしていないのは少し怖い。智賀ちゃんは私が敬遠された後に、超集中状態、いわゆるゾーンに入ることが何回かあったけど、これは完全に入ってるね。
初球、智賀ちゃんはあっさりとカットボールを合わせて右中間へ流し打ちをする。真凡ちゃんはホームへ還り、1塁ランナーの私も余裕でセーフになった。智賀ちゃんは3塁まで進もうとしてアウトになったけど、タイムリーツーベースで湘東学園はさらに2点を追加。3対0と、3点のリードになった。
しかし4回裏。先頭バッターの東畑さんがショートへの内野安打を打つと、森友さんもライト前へ運んでノーアウトランナー1塁3塁に。ここでバッターは、4番の根岸さん。
……私が敬遠されたから敬遠しても良いと思うけど、満塁で大村さんは嫌だな。さっきの打席は運良く併殺打になったけど、私が居なかったら間違いなく大村さんはU-18W杯日本代表の4番に選ばれているような人だ。
湘東学園は1回目の守備のタイムを使って、内野陣全員が集まっている。……ここは、勝負するんじゃないかな?
「智賀ちゃんは、いつもよりライン際に寄って。右中間に来るフライは、私が全部捕るから」
「はい!」
内野陣が集まっている間に、外野陣も集まって守備位置について話す。根岸さんは左打ちで、優紀ちゃんの球が遅い以上、引っ張り方向の打球になる可能性の方が高い。なので智賀ちゃんには、あらかじめ一塁線寄りに守るよう言っておく。
このピンチで4番5番の被害をどれだけ抑えられるかは、詩野ちゃんと優紀ちゃんにかかっている。私達は、私達の出来る限りのことをしていこう。




