第198話 大会2日目
友理さんが初日に完全試合を達成したからか、大阪桐正の試合があるからか、私が出るからか。大会2日目を迎えた甲子園は朝から超満員で、異様な熱気で包まれている。今日の最高気温は36℃だから、午後すぐのマウンドは地獄のような暑さだろう。
「私達は第3試合だから……午後2時スタート?」
「……そのぐらいだ。たぶん、1番暑い時間帯だから熱中症には気を付けてね。特にピッチャーは危ないし、水分補給をしたくなったらすぐに言うこと」
その超暑いマウンドに立つ予定の優紀ちゃんは少し億劫な表情をして、詩野ちゃんは注意を促す。春にも甲子園に来ているから、甲子園の独特な雰囲気には何となく慣れているような気がするね。
……春は、準決勝まで勝ち残った。その経験は生きているし、これからどんどん活用していくと思う。そうこうしている内に、今日の第1試合である咲進学園対大阪桐正の試合が始まった。
「……速いですね。今の球が、140キロです」
「140キロを出すピッチャーとか、それだけで打ち辛いのに変化球を織り交ぜられると並みの打線には手が出せないね」
「やっぱりカノンさんでも、カノンさんは打ち辛いですか?」
「???
ああ。投手の私を野手の私が打てるかという話なら、100%打てるよ。まだ私自身、投手歴は短い方だしね。藤波さんの速球も、打てる自信はあるよ。ナックルと高速スライダーだけは微妙だけど」
智賀ちゃんと一緒になって双眼鏡をのぞき込むけど、藤波さんのストレートは速い。この速球を打撃練習の時、大坂桐正打線は打つことができるから、同じ球速の私が抑え切れるかは怪しいかな。
「フォーク、カットボールは一級品。ツーシームもそこそこ動くとなれば、投手面は私の上位互換だね」
「K/BBの値なら、カノンさんが圧倒的じゃないですか。コントロールなら、カノンさんの方が上です」
「……K/BBって、三振と四球の割合でしたっけ?」
「そうです。正確には奪三振数を与四球で割った値ですね。4以上ならコントロールの良い投手と言っても良いです」
私が藤波さんのことを私の上位互換だと言うと、即座に久美ちゃんが否定してくる。コントロールの指標の1つである「K/BB」の値は、私が6.96で藤波さんが3.81と勝っている。でもまあ3.5から4ならコントロールはまずまず良い、という指標だし、どちらかと言うと「K/BB」は奪三振を取る能力の指標になっていると私は思う。
ちなみに久美ちゃんは4.3で優紀ちゃんは2.86だけど、これは純粋に優紀ちゃんの奪三振能力が足りて無いだけだね。打たせて捕るピッチングの優紀ちゃんと、三振を狙いに行く久美ちゃんとで差があるのは当然だし、実際には2人のコントロールに差はあまり無いから、コントロールの指標として使えるのかは怪しい。
試合の方は淡々と両軍が無得点で進み、迎えた4回裏の大阪桐正の攻撃。まだノーヒットなのが不気味過ぎるし、序盤はファンサービスでもしているのだろうか?
咲進学園のエースは最速128キロのストレートにスライダー、カーブ、シンカー、チェンジアップと多彩な変化球を投げられるから、軟投派にしては速い直球を持っているという印象。4回に大阪桐正打線は4点を取るけど、本格的に打ち始めてからも手を抜いている印象を受ける。
5回裏には6点、6回裏には2点を取り、最終的なスコアは0対12。藤波さんは5回終了時にマウンドを降り、6回からはライトを守っていた2年生の根岸さんが投げる。春の選抜では4番を打っていたけど、今日は7番だから投手としての練習も本格的にしていたのかな?
私に似た起用法で根岸さんが最終回まで抑えて、大阪桐正は夏の初戦を危なげなく勝利。明らかに3回までは手を抜いていただろと言いたくもなるけど、点を取ってから手を抜くのとどちらが失礼なのだろうか?
「圧勝、でしたね。春の時からメンバーの入れ替えはあまりありませんが、春のデータは使え無さそうです」
「夏までに、明らかになっている弱点というのはある程度潰せる時間があるからね。藤波さんや森友さんもあれから成長しているし、2回戦で負けるのもあり得無さそうだよ」
第2試合は南福岡の沖田学園と北北海道代表の北勝高校が対戦し、5対4で沖田学園の勝利。これで大阪桐正は次戦で沖田学園と戦うことになる。
そして第3試合は、私達の出番だ。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 三塁手 木南聖
2番 捕手 梅村詩野
3番 左翼手 伊藤真凡
4番 中堅手 実松奏音
5番 右翼手 江渕智賀
6番 一塁手 本城友樹
7番 ニ塁手 鳥本奈織
8番 遊撃手 鳥本美織
9番 投手 西野優紀
3番に真凡ちゃんを起用しているのは、私の前に現時点での最高の出塁能力を持つ打者を置きたかったからだね。仲良く外野組をクリーンアップに並べるのが、効率の良い打線だと判断してのことだ。あとは将来的に聖ちゃんを1番固定にしたいという理由もあり、この打順になっている。
対戦相手は南北海道代表の朝日川大付属。北海道民の方には申し訳無いけど、今日1日で南北の北海道代表校は敗退することになりそうだ。




