付与Ⅱ
ラウルスを見送り、鍛冶場へ戻ろうとしたフェイムの目に入ったのは、見覚えのある姿だった。
「――ごめんなさいね。予約が多すぎて、新規の注文は受け付けていないのよ」
「そんな……」
いくつもの展示品が陳列されている、ワイト鍛冶工房の販売フロア。そこで母親のリドラと話をしていたのは、シュルト大森林で助けた少女だ。
予約が取れないと知った彼女は、落ち込むというよりは動揺しているように見えた。そして、少女はあの壊れた魔杖を取り出す。
「じゃあ……せめて、修理だけでもしてもらえませんか?」
どうやら、彼女は修理と購入両方の目的で工房を訪れていたようだった。
「あら、これは魔杖なの?」
「はい……でも、壊れてしまって」
少女は俯く。森で見せた悲しそうな表情を思い出したフェイムは、つい彼女たちに近付いていった。
「あら、どうしたの?」
フェイムに気付いたリドラが尋ねる。名前を呼ばないのは、お客に工房主だと気取られないようにだろう。
「あ! さっきの――」
リドラにつられてフェイムのほうを振り向いた少女は、目を丸くして驚きの声を上げた。
「知り合いなの?」
「……ちょっとな」
母親の問いかけを流すと、フェイムは少女に話しかける。
「場所を変えるぞ」
「え……?」
戸惑う少女を連れて、フェイムは自分の工房へ戻る。少女は困惑した表情のままだったが、工房の扉を開くと歓声を上げた。
「何これ! 魔法の武具がこんなに……!?」
試作品や作成途中の武具がごろごろと転がっている様を見て、彼女は声を弾ませた。目につく剣や杖を、興味深そうに一つずつ眺めていく。
それでも、彼女は決して武具を触ろうとしない。そのことに、フェイムは密かにほっとした。魔杖を持っていただけあって、その危険性が分かっているのだろう。
「……気が済んだか?」
その嬉しそうな表情を見せられては、中断させるのも忍びない。そんな思いから、フェイムは彼女の見物が終わるのを見守っていた。
「あ――ごめんね。待っててくれたんだ」
そのことに気付いたのだろう。少女は気まずそうに謝る。そして、はっと不安そうな表情を浮かべた。
「ねえ……ここ、鍛冶師の工房でしょう? 勝手に入ってよかったの? ひょっとして、あなたはお弟子さんだったの?」
「いや……」
今さらどう切り出したものかと、フェイムは説明に困る。やがて、彼は少女が腰に吊るしている魔杖に視線を向けた。
「――探査」
そして、鍛冶師の特技の一つを発動させる。魔法の武具であれば、手に取るだけで大体のところが分かるフェイムだが、それ以上の情報を得られるため、重宝している特技だ。
「え――?」
フェイムがなんらかの特技を使ったことに気付いたのだろう。少女がきょとんとした表情を見せた。
「火炎球の付与魔術がなされた魔杖。推定起動回数は二千三百回。魔力残量は七パーセント。付与魔術がなされた時期は……四百年ほど前か。古いな」
「それ……って……」
ついに、少女はフェイムの正体を悟ったようだった。ポカンとした様子の彼女に、フェイムは気まずさを堪えて名乗る。
「俺はフェイム・ワイト。この工房の主で……鍛冶師だ」
「ええぇぇぇぇぇっ!?」
少女の賑やかな叫び声が、工房を揺らした。
◆◆◆
「鍛冶師って、もっと年季の入ったおじさんだと思ってたわ……」
「……よく言われる」
「あ、期待外れって意味じゃないわよ? むしろ、話しやすくて嬉しいもの」
お互いに自己紹介をした二人は、鍛冶場の隅にある机を挟んで向かい合っていた。リーゼと名乗った少女は、遠方の国からやってきたらしい。
「よく考えたら、複数の魔法の武具を持っている時点で、あなたが普通じゃないと気付くべきだったわ」
リーゼは苦笑を浮かべる。辺境に到着するなり、彼女は武具屋や鍛冶工房を訪ね回ったのだという。だが、フェイムが作成した武具が一般に流通しているはずがない。
「それを言うなら、あんたもだろう。付与術師の固有職持ちなんて、初めて見た」
……そう。リーゼは特殊職である付与術師の固有職持ちだったのだ。魔道具を扱うことに特化し、一般的な魔法を苦手とする特異な魔法職。
魔杖の威力を増幅させたことも、もはや寿命が来ていた魔道具をなんとか扱えていたことも、その特殊性に起因するものだった。
「そうね、私も自分以外には見たことがないわ」
彼女はふふん、と誇らしげに胸を張った。しかも、神子に転職させてもらったのではなく、生まれつきの固有職持ちらしい。そのことにフェイムは驚かざるを得なかった。
「生まれつきの固有職持ちにしては……あんたはまともだな」
その驚きから、つい本音が漏れる。すると、リーゼは拗ねたような表情を浮かべた。
「……どういう意味よ」
「いや……先天的な固有職持ちには、傲慢な奴が多いイメージがあるだけだ。あんたは別だと、そう言いたかった」
少し焦って答えると、彼女はなぜか苦笑を浮かべた。
「これでも、けっこう苦労したのよ。他の固有職持ちと違って、魔道具がないと力を発揮できないから」
最初は、ただ力の弱い魔術師だと扱われていたのだと言う。彼女自身もそう思っており、固有職持ちにしては不遇な目に遭っていたらしい。
「何がハズレ固有職よ……! 私を雇用しようとした貴族も騎士団も、あからさまに残念そうな表情を浮かべていたわ」
思い出して悔しくなってきたのか、彼女はぐっと拳を握りしめる。
「そのうち、ようやく付与術師の特性に気付いたんだけど……魔道具なんて、それこそ貴族や富豪しか手に入れられない貴重品だもの。だから、なんとか魔道具のコレクターだという貴族に雇用されて……」
そう語る彼女の表情は暗い。あまりいい思い出ではなかったのだろう。そのことが、彼女の人間性を陶冶したのであれば皮肉な話だ。
「その魔杖も、その貴族から手に入れたのか?」
「ええ。そのために色々と苦労したけど……」
そして、彼女は壊れた魔杖を取り出す。そんな来歴があるのなら、余計に辛いことだろう。だが、フェイムでもこの魔杖を修復することはできない。それは事実だった。
「私は付与術師であることを誇りに思っているし、ハズレ固有職だなんて思ったこともない。相性のいい魔道具さえあれば、魔術師を凌駕することだってできる。そう信じてるの」
彼女は真剣な口調で言い切る。その眼差しからは決意が窺えた。
「じゃあ、この街へ来たのは魔道具を手に入れるためだったのか」
フェイムは納得する。付与術師が魔道具を手に入れることの意味は、他の固有職持ちとは一線を画すからだ。
「ええ、それが目的の一つよ」
「一つ?」
その言い方にフェイムは首を傾げた。それ以外に、なんの目的があるというのか。
「ええ。もう一つは……」
すると、彼女は真剣な顔でフェイムを見つめた。ともすれば、それは魔道具を求めていた時よりも緊迫した表情に思えた。
「――この街にいる大陸最高の魔術師。『辺境の魔女』を倒すためよ」
「え……?」
その言葉に、フェイムは目を瞬かせた。ミルティ・フォアハルト。『辺境の魔女』とも『辺境の賢者』とも呼ばれる、ルノールの街が世界に誇る才媛の一人だ。
魔法の大家であるため、鍛冶師であるフェイムも相談をしたり、相談を受けたりすることがあり、その性格も知っている。
穏やかで気の回る彼女は、妬まれることこそあれ、人の恨みを買うこととはおよそ無縁であるように思えた。
「倒すって……何か恨みがあるのか?」
彼女の人となりを知るフェイムは、不思議そうに尋ねる。すると、リーゼは首を横に振った。
「そうじゃないわ。ただ……あの『辺境の魔女』に勝てば、付与術師がハズレ固有職だなんて、そんなことを言う奴はいなくなると思って」
「……」
予想外の理由にフェイムは沈黙する。方法はともかく、その動機に限って言えば、まったく理解できないものではなかった。それは、辛酸を嘗めてきた彼女の付与術師としての誇りに関わるものなのだろう。だが……。
フェイムの沈黙をどう受け止めたのか、リーゼはふっと視線を逸らす。
「……分かってるわ。これが身勝手な考えだってことくらい」
「そうだな」
そんなリーゼの呟きを、フェイムは容赦なく肯定した。だが、その上で言葉を付け加える。
「それが分かっているなら……一度、『辺境の賢者』に相談してみるか」
「……え?」
あまりに予想外の言葉だったのだろう。彼女はぽかんとした表情でフェイムを見つめていた。
「どうして……」
そう訊かれても、フェイムにもはっきりした理由は分からなかった。それは魔杖を大切に扱っていた彼女への好感か、それとも付与術師という固有職に対するシンパシーか。なんであれ、彼女をここで見放す気にはなれなかった。
「俺も興味がある。ただ、応じてくれる可能性は低いが……」
フェイムは言葉を濁した。魔法研究や人材育成など、様々な分野で活躍している『辺境の賢者』は極めて多忙の身だ。まして、理由が理由なだけに、そうそう面会はできないだろう。
だが。彼女には、すべての魔法職を自分の妹や弟のように考え、教え導こうとする懐の広さがある。運が良ければ応じてくれる可能性はあった。それに、彼女であれば、上手く事を収めることだってできるだろう。
そんな思いと共に、フェイムは椅子から立ち上がるのだった。
◆◆◆
ルノール魔法研究所内にある、とある実験場。魔法事故に耐えられるようにと、ひたすら頑丈に作られた施設の中では、二人の女性が向かい合っていた。
「あなたが付与術師のリーゼさんね? 賢者のミルティです」
自己紹介をすると、『辺境の賢者』ミルティは穏やかに微笑んだ。これから一戦をするとは思えない、優しげな笑顔だ。
「……」
対してリーゼはと言うと、あまりの驚きに言葉を返すこともできないようだった。おそらく、『辺境の魔女』という響きから老婆の姿を想像していたのだろう。それは、初めて彼女と相対した者がよく陥る現象だった。
「リーゼ、大丈夫か」
呆けた様子のリーゼに、フェイムが声をかける。彼は立会者としてこの場にいるのだが、さすがに放っておくわけにもいかない。
「ええ、大丈夫よ」
はっとした様子のリーゼは、フェイムに言葉を返すと、改めてミルティに向き直った。
「付与術師のリーゼです。今日は戦いに応じてくれて、ありがとうございます」
そして、ぺこりと頭を下げる。ミルティに勝負を挑んだ彼女だが、別に隔意があるわけではない。その態度に、フェイムは密かにほっとした。
「私のほうこそ、付与術師と知り合いになれて嬉しいわ」
一方のミルティはと言えば、敵意の欠片も感じられない微笑みを浮かべたままだ。それは余裕から来るのか、それとも性格のためか。そのせいもあって、二人がこれから試合をするなどとは、微塵も思えない雰囲気だった。
「それじゃ、ルールを確認するわね。このペンダント――」
言って、ミルティは胸元のペンダントトップを指先でつまむ。それと同じものが、リーゼの首にもかけられていた。
「この防御結界を先に破壊したほうの勝ち。それでよかったかしら?」
「はい」
本番が近付いてきたからだろう、リーゼは緊張した面持ちで頷いた。彼女はかなりの重武装をしており、腰の両側と右手に合計で三本の魔杖、左手には魔法の短剣を持ち、彼女の周囲には四体の浮遊盾がふよふよと浮かんでいる。
それ以外にも付与魔術のなされた腕輪や髪飾りなどを身に着けた彼女は、もはや魔法の武具の塊だった。筋力の関係で鎧こそ身に着けていないが、その価値を金銭に換算すると、小さな国程度は買えてしまうかもしれない。
そして、それらはすべてフェイムが揃えたものだ。ミルティに対する敵意など微塵も持ち合わせていないフェイムだが、自分が作った魔法の武具が『辺境の賢者』にどの程度通用するのか確かめたい。そんな思いがあったからだ。
「それじゃ、始めましょう?」
二人は少し離れると、真面目な面持ちで向かい合った。その余波に巻き込まれないよう、魔法研究所の職員であるもう一人の立会人と共に、フェイムは施設の壁際まで下がる。
そして……戦いの幕が上がった。
◆◆◆
「行くわよ!」
戦いの火蓋を切ったのは、リーゼの火炎放射だった。付与術師の特技である『付与魔術強化』を使用した魔杖は、通常の倍近い火炎の奔流を生み出す。
「氷の壁」
対して、ミルティは厚い氷の壁を生み出した。押し寄せる火炎が氷を融かし、湯気がもうもうと巻き上がる。
「っ――!」
と、水蒸気が唐突に大きく揺らめいた。同時にリーゼが浮遊盾を動かしたことで、ミルティの放った風裂球は盾に阻まれる。
そして、反撃とばかりに、リーゼは腰に差していた別の魔杖を取り出す。ミルティへ向けられた魔杖の先から白い光の波動が放たれ、広範囲攻撃として彼女を襲う。
「――対魔法障壁」
対して、ミルティは自分を囲むように魔法障壁を作り出した。勝敗条件はペンダントによる結界の破壊だが、それ以外の防御結界を展開してはならないという取り決めはない。
目が眩むような光魔法による範囲攻撃を受けたミルティだったが、彼女を包む魔法障壁は燦然と輝き、まったくダメージを受けていないことが分かる。
「それならっ――」
リーゼは左手を閃かせると、魔法の短剣を放った。ただの短剣としても使用できるが、自在に宙を舞い、自動的に相手を攻撃する機能があるのだ。
次に、彼女は腰に巻いていた金鎖をさっと取り外した。装飾品に見せかけているが、相手を捕縛する魔法鎖だ。リーゼが投げつけると、細かな金鎖だったそれは巨大化し、短剣と同様に空中へ舞い上がった。
「まだまだっ!」
さらに、彼女は両手に魔杖を持つと、右手の杖から火炎放射を、左手の杖から雷撃を放つ。同時に腕に嵌めたバングルが輝き、ミルティの頭上に氷塊を生み出す。
「これだけの数を、同時に……!?」
初めて、ミルティの表情に驚きが浮かんだ。付与術師の特技の一つ、『並列操作』だ。自動的に効果を発揮するものはともかく、意識的に起動・操作しなければならない魔道具を同時に操作することは難しい。鍛冶師のフェイムでさえ、満足に制御できるのは二種類までだ。
だが、リーゼは最低でも五つ。緻密な制御が不要なものであれば、十種類以上の魔道具を同時に制御することができた。
「――!」
炎と雷、そして氷塊が、三方からミルティに向かって殺到する。さらに、背後へ回り込んだ魔法の短剣が背後を、金鎖が地を這う蛇のように下方から彼女を襲った。だが……。
「さすがだな……」
「まあ、所長ですからねぇ」
フェイムの呟きに、隣にいた研究所員がにこやかに答える。ミルティの魔法障壁は、リーゼの攻撃を受けても揺らぐ様子がなかった。炎や雷の攻撃は止み、空を舞う短剣と金鎖による攻撃だけが残る。
「――重力場」
ミルティが発した重力魔法によって、その二種の武器も地上へ縫い付けられた。それでもガタガタと動いているのは、リーゼが必死で抵抗しているからだろう。なんらかの特技を使ったのか、魔剣たちは重力に抗って少しずつ動きを取り戻し……。
「――やめて」
と、突然リーゼが口を開く。その顔はなぜか拗ねているように見えた。
「私に花を持たせる必要なんてないわ。……『辺境の魔女』の実力を見せて」
「……そうね。私よりキャリアが長い先輩に失礼だったかしら」
どうやら、ミルティは手心を加えていたらしい。生まれつきの魔法職であるリーゼだからこそ、そこに気付いたのだろう。
「っ!」
そして。今度こそ、短剣と金鎖が動かなくなった。重力場の出力を引き上げたのだろう。さらに、彼女はなんらかの魔法を構成して――。
「……え?」
フェイムは首を傾げた。自分の周囲に魔法障壁が展開されたのだ。見れば、隣の研究所員にも、リーゼにすら障壁が張られている。フェイムがその理由に思い至った時には、すでにミルティの魔法は完成していた。
「――雷霆渦」
目が眩むような青白い光の渦が彼らを呑み込み、耳をつんざく轟音が重なり合う。この渦から生きて帰ることのできる存在などいない。そう思わせるに足る凄まじさだった。
ミルティは雷属性の魔法を得意としており、雷術師の固有職資質も持っているらしいが、この荒れ狂う雷を見ればそれも納得できた。
「それに……」
フェイムは自分の周囲に目を凝らす。彼女が展開してくれた魔法障壁は、凶悪な雷渦の中にあっても、まったくダメージを通さなかった。
圧倒的な雷の大渦と、その暴威から全員を守り抜く強固な魔法障壁。ミルティは、それらを同時に行使してみせたのだ。どれだけの技量があればこんな妙技ができるのかと、もはやフェイムは呆れるしかなかった。
「これが『辺境の魔女』……」
そして、それはリーゼも同じことだったらしい。彼女は戦闘中だということも忘れたのか、呆然と立ち尽くしていた。
「……リーゼさん、大丈夫?」
やがてミルティが声をかけると、リーゼははっと我に返ったようだった。
「まだ続けるなら、もちろんお相手するけれど……」
この戦いのルールは、どちらかがペンダントの魔法障壁を破壊するまで。そういう意味では、まだ戦いの決着はついていない。だが……これだけ圧倒的な実力を見せつけられて、誰が継戦を望むというのだろうか。
「いえ……結構です」
もしミルティが魔法障壁を張ってくれていなければ、彼女は命を落としていた。それが分かっているのだろう。リーゼは彼女らしくない、しょんぼりした様子で答えた。
「こんな無名の私に付き合ってくれて、ありがとうございました」
「リーゼさん、そんなに卑下することはないわ。五つの魔道具を同時に操作するなんて、私にはできないもの」
「――そうですよ。それに、そもそも所長は大陸最高の魔術師ですからね。これまでの挑戦者のことを思えば、むしろ善戦したほうです」
ミルティの言葉を補足するように、立会人の研究員が口を開く。慰めの言葉に反発するかと思われたリーゼは、意外と素直に言葉を受け入れたようだった。どうやら、圧倒的な実力差に毒気を抜かれたらしい。
「それじゃ、対決はおしまいね」
そう告げると、ミルティは周囲を見渡した。実験場が傷んでいないかをチェックしたのだろう。そして、彼女は再び視線をリーゼに戻した。
「ところで……リーゼさん。この後、何か予定は入っているかしら?」
「え? いえ、予定はありませんけど……」
「よかったら、少しお話をしない? 付与術師は、私もよく知らない魔法職だもの。とても興味があるのよ」
「は、はい……」
予想外の提案だったようで、リーゼは困惑した様子で頷く。すると、ミルティは嬉しそうに微笑んだ。その様子からすると、彼女の本命はこっちだったのだろう。やけにあっさり挑戦を受けたわけだと、フェイムは密かに納得した。
「それじゃ、お茶の用意をしてくるわ。少し休んだら、応接室へ来てちょうだいね」
そう言い残すと、彼女は実験場を後にする。その後ろ姿を見つめていたリーゼは、やがてフェイムのほうを向いた。
「ねえ、フェイム。ひょっとして……こうなるの分かってた?」
「……」
その問いかけに、フェイムは無言で視線を逸らすのだった。




