想定外
その日も、リキシアとノクスは依頼を受けるためにギルドへと足を運ぶ。
朝も早いからか、ギルドの中はまだ人も少なかった。
「エレナさん、おはようございます」
「あら、おはようございます、リキシアさん」
「朝早くからお疲れ様です」
エレナが、顔を上げてリキシアたちに挨拶する。
「今日は何かいい依頼ありますか?」
「そうですね。一つ、良さそうな依頼が入っていますよ」
エレナはそう言うと、一枚の依頼書をリキシアに手渡した。
「東部の森の廃坑での依頼です。最近、廃坑の深部から魔蜘蛛の群れが浅い階層まで出てきて集まっているようでして」
「廃坑の外まで出てきている個体も居るようなので、放置するのは危険なためそれを討伐して欲しいとの依頼ですね」
「依頼の危険度はEランク。魔蜘蛛自体はFランクのモンスターですが、群れだと数が多いので注意が必要です」
「なるほど、、、。魔蜘蛛の群れですか」
「ええ、そうです。本来は二人以上のパーティーでの受注が推奨されていますが。リキシアさんは契約術士でノクスさんがご一緒なのでパーティーを組まなくても受注できますよ」
エレナがノクスに視線を向けると、ノクスはそれに応えるように尻尾を振る。
エレナはそんなノクスの様子を見て微笑んだ。
「あ、そうだ。報酬の話を忘れていましたね」
「依頼の報酬は、魔蜘蛛の討伐数に応じてお支払いします。具体的には、えっと、、、」
エレナは依頼書の記載を確認している
「あ、これですね。魔蜘蛛一体に付き2ゴールドとなっています」
「よし、分かりました。その依頼を受けることにします」
「それでは、よろしくお願いします。お気をつけてくださいね」
「それと、危険もあるかもしれないので、奥までは行かなくて大丈夫ですよ」
「それでは、行ってらっしゃい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リキシアとノクスは、森の中を進んでいる。
しばらくすると、廃坑の入口が見えて来た。
今は、入口の付近には魔蜘蛛の気配はないようだった。
「ノクス、行こうか」
リキシアの言葉に、ノクスが一声吠えて応える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一人と一匹は、廃坑の中をしばらく進んでいく。
すると、少しだけ開けた広い空間に出る。
「あ、ここ少し広くなってるわね」
リキシアは、周りを見渡す。
辺りは、魔導灯の淡い光で照らされているが、薄暗い。
普段と比べて、視界の悪い状態での戦闘になりそうだ。
その時、ノクスが低く唸る。
リキシアがハッとしてノクスの視線の先に目を向けると、暗がりにいくつかの赤い目が光っている。
気配は複数。
おそらく、話にあった魔蜘蛛の群れだろう。
「ノクス、戦闘準備よ」
リキシアはそう言いながら、剣を引きぬく。
魔蜘蛛の群れが、こちらに近づいて来る。
3匹、、、いや、4匹はいるようだ。
「行くわよ、ノクス」
その声と同時に、ノクスが魔蜘蛛の一体に飛び掛かる。
「氷よ集いて、槍となれ」
「氷槍、三連」
「穿て!」
三本の氷の槍が、それぞれ魔蜘蛛に飛んでいき、突き刺さる。
三体の魔蜘蛛は深手を負ったようだが、まだ死んではいない。
ノクスは、既に一体を仕留め、すぐに次の魔蜘蛛へ飛びかかる。
リキシアも、今度は剣を構えて距離を詰める。
ノクスの爪が一体の魔蜘蛛を切り裂き、とどめを刺す。
リキシアも剣を一体の魔蜘蛛に突き刺すと、魔蜘蛛は力なく地に伏した。
最後の一体。
リキシアの後ろから襲い掛かろうとするが、そこにノクスが割って入りとどめを刺す。
群れとは言え、Fランクの魔物。
この程度なら、ノクスと一緒だと危なげなく戦えるようになってきた。
「やったね、ノクス」
「魔蜘蛛が四体。ふふ、今日の稼ぎは8ゴールドかな」
「これで、今日もちゃんと美味しいものが食べられるね」
リキシアの言葉に、ノクスも嬉しそうに尻尾を振る。
その時、広間の奥から、何かが飛び出して来た。
新手の魔蜘蛛だ。
五匹、、、いや、六匹はいる。
「まだ居るの?」
「、、、ノクス、やるよ」
リキシアは、剣を構えなおす。
しかし、今回の魔蜘蛛の群れは様子が少しおかしかった。
こちらに勢いよく突き進んでくる。
しかし、リキシアもノクスも無視して、廃坑の入口の方へと一直線に走り抜けていった。
「え?どういうこと?」
リキシアは、魔蜘蛛の群れが走り去っていった方角に目を向けて怪訝な顔をする。
その時、隣でノクスが低く唸って一歩前に出た。
リキシアもその様子に気が付き、振り返る。
すると、廃坑の奥へと続いていた道から、何かの影が姿を現す。
リキシアの一回りは大きいであろう巨体。
硬そうな灰色の鱗に覆われた四つ足の魔物。
ゆっくりとこちらに近づいて来る。
(ナビ、あの魔物は?)
《回答--種族:鉱石竜 危険度:Cランク》
「Cランク、、、」
「でも、私とノクスなら、、、」
リキシアはもう一度剣を構えなおす。
だがその時、再びナビの声が頭に響く。
《補足--状態:瘴気浸食》
《瘴気浸食の作用:強化/理性の消失》
《瘴気浸食により、危険度がBランク相当へ上昇していると推測》
《推奨行動:即時離脱》
「Bランク、、、!」
リキシアの瞳に、強い警戒の色が浮かぶ。
そして、状況を理解するための一瞬の間。
「、、、ノクス、逃げるよ!」
リキシアは、身を翻して入口へ走り出す。
しかしその時、背中に悪寒が走る。
同時に、考える間もなく咄嗟に左に跳んだ。
さっきまでリキシアがいた位置を、鉱石竜の太い腕が叩きつける。
「、、、っ!速い!」
リキシアは、さらに後ろに跳んで距離を取る。
(速力は負けてる。逃げ切れない)
(なら、やるしかない、、、)
完全な想定外。
そして、目の前に居るのは明らかな格上。
それでも、やるしかない。
リキシアの瞳に、確かな意志が宿る。
そこに、恐怖の色は一切見えなかった。
「行くよ、ノクス」
ノクスも覚悟を決めたのか、リキシアの言葉と同時にすでに走り出している。
そして、勢いよく鉱石竜に飛び掛かった。
「炎よ集いて、槍となれ」
「炎槍、五連」
「穿て!」
リキシアもそれに合わせて魔法を放つ。
鉱石竜は、五本の炎槍の内三本を尻尾で弾き飛ばすが、残りの二本は直撃する。
しかし、鉱石竜が大きなダメージを負った様子はない。
「あの鱗、、、やっぱり硬い!」
鉱石竜が、体に爪を突き立てようとするノクスを振り飛ばす。
ノクスは、飛ばされながらもそのまま着地すると再び鉱石竜を睨む。
次の瞬間、鉱石竜が今度は向うから、リキシアに向かって跳びかかって来る。
相変わらず、その巨体からは想像もつかない素早さだ。
「魔力よ集いて壁となれ。障壁展開!」
リキシアは後ろに跳び退りながら障壁を展開する。
鉱石竜の太い腕が、障壁に叩きつけられた。
その瞬間、障壁が砕け散る。
「噓でしょ?」
「障壁の意味ないじゃん、、、」
リキシアはそうぼやきつつ、走り回りながら詠唱する。
「雷よ集いて、槍となれ」
「雷槍、五連」
「、、、いや、六連!」
今度は、雷属性の魔力で槍を生成する。
六本目。
精神への負担が一段と大きくなる。
頭痛と、疲労がリキシアはを襲う。
その間も、ノクスが鉱石竜を牽制して注意を引いてくれている。
「まだよ、、、」
「イメージ、、、。もっと鋭く、もっと激しく」
リキシアは、創造した雷槍に、さらに魔力を込めて凝縮させる。
ただでさえ酷い負荷が、さらに酷くなる。
それでも、頭が割れそうな痛みを無視して、口を開く。
「、、、穿て!」
六本の雷槍が、色々な包囲から取り囲むようにして、鉱石竜に向かって飛んでいく。
同時に、ノクスが飛びのいて鉱石竜から距離を取る。
次の瞬間。
二本は途中で叩き落されたが、残りの四本が直撃する。
そして今度は、鉱石竜が明確な苦痛の声を上げる。
鱗の一部が焦げて抉れている。
「、、、よし!」
リキシアの顔にわずかな笑みが浮かぶ。
ノクスはすぐさま、追撃しようと鉱石竜に飛び掛かる。
リキシアも、次の詠唱をすぐに始めようとする。
「炎よ集いて、、、」
その時、鉱石竜の瞳に怒りの色が浮かび、咆哮を上げる。
鉱石竜の纏う禍々しい空気が一段と重くなる。
「槍となれ、、」
次の瞬間。
飛び掛かったノクスを、鉱石竜の脚が叩き飛ばした。
ノクスは、近くの壁に叩きつけられ、呻き声を上げる。
詠唱をしていたリキシアが一瞬固まる。
「、、、ノクス!」
鉱石竜はノクスの方を向いている。
あのダメージ。
そして壁際。
「ダメよっ!」
その瞬間には、リキシアの体は動いていた。
地面に倒れ伏すノクスに、脚を振り上げる鉱石竜。
その間に、リキシアが滑り込む。
鉱石竜の脚を、剣で正面から受け止める。
「、、、っ!」
とは言え、彼女はただの人間。
特別鍛えてもいない、18歳のただの少女。
その体は、当たり前のように軽々と吹き飛ばされる。
「炎よ集いて、、、」
吹き飛ばされたリキシアの体は、ボロボロになっていた。
爪が掠ったのであろう左腕には切り傷が。
頭からもわずかに出血し、美しい銀髪に鮮やかな赤色が添えられている。
「槍となれ、、、」
「炎槍!」
再びノクスに向き直ろうとしていた鉱石竜に、炎槍が直撃する。
たった一本の炎槍。
鉱石竜には、大したダメージも入っていない。
しかし、再びノクスに向かって脚を振り上げていた鉱石竜は、その動きを止めてリキシアの方を向く。
そして、リキシアの方に身体を向けて睨みつける。
リキシアの視界の端で、ノクスがよろめきながら起き上がろうとしているのが見える。
いつもの力強さはないが、それでも低く唸っている。
「ノクス」
「死に急ぐような馬鹿はやめなさい」
「あんたは、逃げるのよ」
「大丈夫。あんたなら出来るわ」
鉱石竜は、相変わらずリキシアを睨んでいる。
「来なさい、馬鹿」
リキシアの顔に、僅かな笑みが浮かぶ。
そして次の瞬間、リキシアが動いた、、、
<本日のおまけ>
所持金:4ゴールド
*変動なし
何やらピンチのように見えるのですが(;・∀・)
一体この先はどうなってしまうのでしょう、、、
それに、リキシアの戦っている様子を見ていると、不思議と違和感を感じてしまうような(゜-゜)
まぁ、ただの気のせいかもしれませんが、、、(・∀・)




