『旅』の始まり(改訂版)
--最後に見たのは、大切な人たちの泣き顔だった。
「先生、、、みんな」
掠れた声で呼ぶ。身体は怠く、もう腕を上げることもままならない。
ベッドの傍では、先生が手を握ってくれている。
周りには、一緒に育った大切な仲間たちが、見守ってくれている。
「先生はここに居るわよ。大丈夫だからね」
先生はそう答えると、私の手を握る力を強める。
「、、、うん」
先生は笑っているが、その瞳には涙が光っていた。
いつもはみんなの笑い声で騒がしい空間が、今日だけは静まり返っている。
誰かのすすり泣く声だけが、小さく響いていた。
元々は、ただの元気な一人の女の子だった。
孤児院の皆とたくさん遊んで、貧しくも楽しく暮らしていた。
こんな未来が、まだまだずっと続くと思っていた。
それが、病気になって。
気が付いたら、ベッドから起き上がることすらできなくなっていった。
「、、、ごめん」
気が付くと、小さくそう呟いていた。
「リキシア、なんで謝るのよ」
先生が、涙で震える声でそう言った。
「私、約束したのに。大きくなって、たくさん仕事頑張って、先生と皆を守るって。この『家』を、ちゃんと守るって」
そうだ。
まだやりたいことなどたくさんあった。
育ててくれた先生を、大切な仲間を、この手でずっと守りたかった。
私の大切な『居場所』を、守りたかった。
「約束、守れそうにないや」
死ぬことは、不思議と怖くない。
それよりも、『守る』と言う誓いが、まったく果たせずに終わることが、ただただ苦しい。
「約束なんていいのよ。貴女がここに居てくれただけで、それで良いのよ」
先生が、リキシアの頭を優しく撫でる。
「私たちは、貴女と出会えて幸せよ。だから、、、」
その言葉に、ほんの少しだけ救われたような気がした。
約束は果たせなかった。
でも、そんな風に言ってくれる人が居るならば。
この人生も、悪くなかったなんて思える。
「、、、ありがとう」
それが、彼女の最後の言葉だった。
瞼が閉じ、身体からは力が抜ける。
誰かの泣く声が、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
それでも、彼女が再び目を開くことはなかった。
--こうして、一人の孤児の「旅路」が果てに辿り着いた
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--目を覚ました。
頭上に広がる晴天から、温かな日差しが降り注ぐ。
「ん、、、。あったかい」
それが、二度目の人生で初めて口にした言葉だった。
見知らぬ空。
見知らぬ身体。
「私は、一体」
孤児院の上で目を閉じ、最期を迎えたはず。
それが今は、見知らぬ場所で目を覚ました。
その時、頭の中に声が響く。
《魂の定着を確認》
《--転生処理を完了》
《個体名:リキシア 種族:人族 年齢:18歳 職業:未定》
《初期職業を選択してください。選択肢:魔導士、剣士、斥候、聖職者、契約術師》
《適正職業:契約術師》
「職業?何を言っているの?それに、、、転生?」
今の状況に、頭が追い付かない。
自分は、確かに死んだはずだ。
しかし、この頭の中の声は、確かに『転生』と言った。
「まさか、別の世界に来たって言うの?」
その問いに応えるためか、また頭の中で声が響く。
《個体名リキシアは、別世界から当世界への転生個体です》
《転生前の世界について検索---詳細不明》
「転生、、、か」
そう小さくつぶやく。
まだ困惑は消えないが、不思議と怖さはない。
分からないことだらけ。
けれど。
どこか、ワクワクしている自分が居る。
「えっと、、、『頭の中の声』さん?、、、なんて呼べばいいの?」
《特定の呼称は存在しません》
「え、でも呼びにくいよ。うーん、それじゃあ。『ナビ』って呼んでも良い?」
《リキシアからの要望を確認。受諾》
「良いってことかな?
じゃあさ、ナビ。職業について聞きたいんだけど。契約術士ってさ、どんな職業なの?」
契約術士。
先ほどナビから職業の選択肢を聞いたとき、その言葉に一際強い興味を惹かれた。
そして、ナビも先ほど、契約術士を「適正職業」と呼んだ。
《質問を受諾》
《契約術士:精霊や魔獣と契約を結び共に歩む存在》
「精霊や魔獣と契約を結ぶ。
それって、人じゃない存在とも友達になれるってこと!?」
契約術士の説明を聞き、どこか心が躍るのを感じる。
人だけではなく、他の種族とも友達になれる。そんなの、ロマンしかない。
彼女の中から、先ほどまでの困惑や不安が吹き飛び、代わりに新しいことへの興味が湧きあがる。
《契約:魂の繋がりの構築。相手の承諾が条件》
《契約を結んだ存在との意思疎通が可能な場合も存在》
《結論:「友達」の概念に相当する関係性の構築も可能》
「そっか!それならナビ。私は契約術士を選ぶ!」
リキシアは、前の人生での「友達」を思い出していた。
彼らと築いたような関係を、人ならざる者とも結べるかもしれない。
その事実は、リキシアにひどく魅力的に聞こえた。
《リキシアの要望を受諾。初期職業を「契約術士」に設定》
《初期スキルの修得処理を開始。「契約」、「共鳴」、「属性魔法」》
《「契約」:対象との契約の実行。契約の破棄は不可》
《「共鳴」:契約対象との意思の共鳴を構築。意思疎通の精度は共鳴率に依存。共鳴率は契約対象との信頼度により変動》
《「属性魔法」:魔力への属性--火、氷、風、土、雷--付与を可能化。出力の強弱、自由度は使用個体の力量に依存。術式による補助が可能》
「魔法!!魔法を使えるの!?」
リキシアの声が弾む。
かつて住んでいた世界に、そのような摩訶不思議な力など存在しなかった。
しかし、それと似たようなものは、本の中の作り話で読んだことはある。
それが、自分が実際に使えるなど、興奮しない方がおかしい。
「でも、ナビ。私この後、どうすればいいのかな。ここがどこかも分からないのに」
実際、今どこに居るのかも分からない。
服は着ているし、腰には剣がある。
剣は、かつての世界で、少しだけ振るったことはある。
とは言え、騎士に憧れて、孤児院によく訪れてくれていた引退騎士のおじいさんに、少し教わった程度だ。
別に、強いわけでもない。
《質問を受諾》
《現在地点は、人の国--「エルディア王国」--の都市のひとつ、「ミレアの街」の近辺》
《北へ徒歩30分程度》
「なるほど。街は近いのね。」
どうやら、新しい人生が始まって早々に行き倒れることはなさそうだ。
「でも、街へ行ったところでどうすればいいの?」
《質問を受諾》
《推奨行動:冒険者ギルドミレア支部での冒険者登録》
《冒険者:当世界の仕事の一つ。依頼達成による金銭の獲得が可能》
「なるほどね。冒険、、、か」
冒険、、、その言葉に、リキシアの胸が躍る。
新しい健康な体で、新しい世界を巡り歩く。
何とも楽しそうな、魅力的な話だ。
「それなら、早速行ってみようか」
リキシアは、立ち上がって伸びをすると、歩き出した。
爽やかな風が、彼女の背中に優しく吹いている。
まるで、リキシアの新しい旅立ちを祝福して背中を押すように、、、
《リキシアの現在の進行方向:南》
《ミレアの街:現地点から北に徒歩30分》
《結論:現在の進行方向は、目的地の真逆》
リキシアは、そのナビの言葉に立ち止まる。
どこかばつが悪そうに頭をかくと振り返り、向かい風に向かって歩き出した。
初めまして、作者のたっけんです(/・ω・)/
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そして是非、二話以降も呼んでみてください♪




