Page11 ———Something feels off.———
講義終わり、そのまま何となく学食に流れた。
珍しく、三人だけだった。
「いや絶対付き合ってるって」
席に座るなり、西野が言った。
「またその話?」
高瀬が呆れたように水を飲む。
「だって気になるじゃん」
「他人の恋愛事情好きすぎだろ」
「青春は他人の恋愛でできてるの!」
「偏りがすごい」
三浦が静かに笑う。
西野は机に頬杖をついたまま続けた。
「でもさー、普通に考えておかしくない?」
「何が」
「毎回一緒にいるし、二人で出かけてるし、手も繋いでるんでしょ?」
「まあ、それだけ聞くと完全に恋人だな」
「でしょ?!」
高瀬は少し考えるように視線を逸らした。
「でも、なんか違和感あるんだよな」
「違和感?」
「いや……上手く言えないけど」
高瀬は言葉を探す。
「あいつ、恋愛してる感じしなくね?」
一瞬だけ、西野が止まる。
「……それはちょっと分かるかも」
「だろ?」
「なんか、“付き合ってること”をやってる感じ」
三浦が静かに目を細める。
「成立させてる、って言い方の方が近いかもね」
その言葉に、西野が顔をしかめる。
「何それ。怖」
「怖い?」
「だって恋愛って、そんな感じじゃなくない?」
「まあ普通は感情が先だからね」
三浦は淡々と言う。
「好きだから一緒にいる」
「会いたいから会う」
「そういう順番」
「でもあいつは逆っぽい」
高瀬が続ける。
「“恋人ならこうする”を先にやってる感じ」
西野が少し黙る。
言われてみれば、と思った。
あいつはいつも、
“正しい返答”を探しているように見える。
楽しいかと聞かれても、
好きかと聞かれても、
すぐには答えない。
考えてから返す。
まるでテストみたいに。
「……でもさ」
西野が小さく言う。
「それって、楽しいのかな」
高瀬は肩を竦める。
「本人は問題ないって思ってそうだけど」
「いや、最近ちょっと違くない?」
三浦がぽつりと言う。
二人がそちらを見る。
「前はもっと、“正解だけ返してる”感じだった」
「今は少し迷ってる」
静かな声だった。
「迷うようになったってことは、考え始めてるってことでしょ」
西野が少し考え込む。
「……それって良いことなの?」
「どうだろうね」
三浦は笑う。
「でも少なくとも、“普通”には近づいてるのかも」
「普通ねえ」
高瀬が苦笑する。
「普通の恋愛って一番意味分かんねえけどな」
「お前この前彼女いたじゃん」
「いたけど」
「説得力ゼロ」
少し笑いが起きる。
空気が軽くなる。
その流れのまま、西野がふと呟いた。
「でもさ」
「佐伯先輩もよく分かんないよね」
「あー……」
高瀬が曖昧に頷く。
「なんか、全部分かってやってそうで怖い」
「でも時々、先輩の方も分かってない顔するよ」
三浦が静かに言う。
「多分あの人、自分が観察してるつもりでいるけど」
「最近ちょっと振り回され始めてる」
西野が目を丸くする。
「え、そうなの?」
「うん」
三浦は少しだけ笑った。
「だって普通、“分からない”って言われ続けたら、そのうち気になるでしょ」
その言葉に、二人は少し黙る。
学食のざわめきだけが周囲に流れていた。
「……なんかさ」
西野がぽつりと呟く。
「二人とも恋愛してるっていうより」
一拍置く。
「恋愛を観察してるみたい」
誰もすぐには否定しなかった。
それが妙に正しい気がしたからだ。
三浦が窓の外を見る。
少しだけ目を細めて、
静かに呟く。
「でも最近、あいつちゃんと迷ってるよ」
その声だけが、
ざわめきの中に静かに残った。
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