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Page9 ———Different?———

 家に着いた頃には、外はすっかり暗くなっていた。


 エンジンを切る。


 急に静かになる車内で、小さく息を吐いた。


 しばらく動けなかった。


 スマホの画面には、さっき送った返信が残っている。


『大丈夫です』


 それだけ。


 いつも通りの返事。


 問題はない。


 なのに、どこか落ち着かなかった。


 画面を閉じる。


 考えても答えは出ない気がして、車を降りた。


 玄関を開ける。


「おかえりー」


 リビングの方から母の声が飛んできた。


「ただいま」


 靴を脱ぎながら返す。


 そのままリビングに入ると、母と姉が夕食の準備をしていた。


「今日遅かったね」


「友達と話してた」


「ふーん」


 それだけ言って、母は味噌汁をよそう。


 姉がちらりとこちらを見た。


「……何その顔」


 一瞬、動きが止まる。


「顔?」


「なんか考え込んでるみたいな」


「別に普通だけど」


「いや、普通じゃない」


 即答だった。


 姉は昔から妙に鋭い。


「ぼーっとしてるっていうか」


「上の空っていうか」


「何かあった?」


 母まで会話に入ってくる。


「何もない」


「そう?」


 疑っているというより、本当に不思議そうだった。


 それが少しだけ居心地悪い。


「……あ」


 姉が何か思いついたみたいに笑う。


「彼女?」


「は?」


「違うの?」


 否定しようとして、少しだけ言葉が止まる。


 その一瞬を、姉は見逃さなかった。


「え、何その間」


「いや、違うけど」


「でも何かいるんだ」


「いるっていうか……」


 説明しようとして、やめる。


 自分でも上手く説明できる気がしなかった。


「何それ、気になる」


 母が面白そうに笑う。


「別に大した話じゃない」


「そういう言い方する時って大体大した話なんだよね」


 姉が呆れたように言う。


 昔から、こういうところだけ妙に勘がいい。


「で、どんな人?」


「……ゼミの先輩」


「年上なんだ」


「へぇ〜」


 母と姉が同時に反応する。


 少し面倒になってきた。


「別に付き合ってるとかじゃないから」


「じゃあ何」


 その質問に、少しだけ詰まる。


 最近、そればかりだと思った。


「……よく分からない」


「何それ」


 姉が笑う。


 でも、その後ふと真顔になる。


「でも、あんたがそういうことで悩むの珍しいね」


 胸の奥が、少しだけ引っかかる。


「悩んでるわけじゃ」


「いや、悩んでる顔してる」


 静かな言い方だった。


 からかう感じではなく、確認するみたいに。


「昔からあんたって、あんまりそういうの気にしなかったじゃん」


「恋愛とか興味なさそうだったし」


「……そうかも」


「なのに今は違う」


 その言葉に、うまく返せなかった。


 違うのだろうか。


 自分では、まだよく分からない。


「まあでも」


 母が穏やかに言う。


「会いたいって思うなら、いいんじゃない?」


 その言葉に、また思考が止まりそうになる。


 会いたい。


 その感覚を、自分は持っているのだろうか。


「……分からない」


 小さく呟く。


「またそれ?」


 姉が笑う。


「今日それ何回目?」


 自分でも分からなかった。


 最近、本当にそればかり言っている気がする。


 分からない。


 考えても、答えが出ない。


 でも。


 考えずにはいられなかった。


 食卓に座る。


 母と姉の会話が続いている。


 テレビの音も聞こえる。


 いつもの家の風景。


 変わらないはずなのに。


 僕だけが、少し変わり始めているような気がした。

Page9読んでいただきありがとうございます!

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