20.平和な賑わい
レイアードが警衛へ連行したザードレ。
その後の取り調べにより、色々な所で人間や鬼人、獣人をからかい、傷付け、盗みをはたらいていたようだ。予想以上に余罪が出て来る。
ひどい場合は、相手にケガをさせたりもしていたことがわかった。レイアードの推測通り、被害届も多数出ている。
そして、とうとう今回は小人を死に至らしめた訳だ。
ザードレが何をどう言い訳しようと、ゼルアクスという被害者であり目撃者がいる。ぼんやりした状態ではあったが、正式な証拠として扱われることになった。
もし「ゼルアクスが目撃した時が魂だけなら、証拠としては不採用」となっていたら、ドリーダが「目撃証言の補足」として過見の術を行っていただろう。
だが、ぼんやりはしていても記憶は確かだったので、ドリーダの手をわずらわせることもなく済んだ。
全ての捜査が終了した後、相応の罰がくだされるだろう。どういう判決が出るにしろ、ザードレが自由に外を出歩く日はもう来ない。
ザードレが盗んでティオリーに渡した薬「鬼の眠り粉」だが、今回の件を詳しく調べた結果、調合者まではたどり着けなかったが、持ち主が判明した。
珍しい物コレクターのたぬきの獣人で、闇市で見付けて購入したようだ。今回の事件とは一切関係ない。
だが、問題はある。
彼は薬を扱う免許など、何も持っていない。だが、劇薬指定されているものなので、免許も資格もない者が持つことは許されない薬だ。
なので、こちらも罰がくだされることになる。
コレクターの性として、あくまでも興味本位で手に入れただけ。もちろん、使うつもりはなかった、と証言している。
しかし、こればかりは物が悪かった。無免許で所有してはならないものなのだから。違法薬物の所持と同じになる。
ザードレのせいで罪に問われることになってしまい、持ち主にすればとんだとばっちりだ。
しかし「持っていてはいけない薬」だとわかっていたようなので、この結果については自業自得である。
さらに、闇市についても捜査の手が伸びていくだろう。以前から目は付けられていたが、ますます捜査が強化されることになる。
こうして、ザードレが関わった件は順次解決していった。
☆☆☆
ゼルアクスが元に戻った次の日。
ドリーダとアルルーラが、改めてノンシュ薬局へ来局した。
ソティアの森から薬局まで無事に帰っては来たものの、事情が事情だけにばたばたしていたので、日を改めて頼んでいた薬草をもらいに来たのだ。
「ああ、それなんだけどねぇ」
ゼルアクスが、二人の姿を見て申し訳なさそうに言う。表情はともかく、体調については問題なさそうな様子だ。
「眠り薬の効果を消すためにまいた中和剤の粉が、あちこちにかかっていたんだ。薬草としての効果には、特に影響はないんだけれど」
中和剤をまいたのはミクテスだが、これはシャルリアに言われ、緊急事態だったからしたこと。誰の責任でもない。
「影響がないのであれば、こちらとしてはそれでも別に構わないが」
「対価をもらうのに、汚れた薬草を渡す訳にはいかないよ。もう一度採って来るから、待ってもらいたいんだ」
「律儀な男だな」
日常生活は雑だ、とよくシャルリアがぼやいているが、薬草や薬に関しては愚直な程に真面目。
こんな彼だから、よその薬剤師も信用して、薬草を買いに来るのだ。
「時間に追われている訳ではない。せっかくの申し出なので、ありがたく新鮮な薬草をもらうことにしよう」
ドリーダの言葉に、ゼルアクスもほっとする。
「うん、ありがとう。すぐに行って来るから」
「そうだ、アーちゃんも先生と一緒に行けば?」
「え?」
ミクテスからの突然な提案に、アルルーラはきょとんとする。
「昨日、ミクテスが一緒に行くって話してなかった? 穴場を教えてもらうとか、薬草講習とかって」
「それは、昨日の話。先生が今日行くのは、アーちゃん達の分が中心だから。それに、調合室の掃除がまだ完全に終わってないんだよね。粉が思った以上に細かくて、なかなか全部取り除けなくてさ。かなり舞い上がってたからね。という訳で、オレはそっちにかかってるから。アーちゃんが行って場所を覚えておけば、次に急いで必要って時に、うちを通さずに入手できるだろ」
「あまりそれをされちゃうと儲けが減るので、うちとしてはお勧めしたくないんだけど。今日は事情が事情だしね」
横でシャルリアが苦笑する。
「だが、薬草のある場所を把握しておくのは、後々役に立つ。よし、アルルーラ、行って来い」
鶴の一声。
「ええっ、師匠……」
みんなして、アルルーラを行かそうとしているみたいだ。
昨日、ミクテスが「みんな知ってる」と話していたのを思い出すアルルーラ。もしかして、気を遣われてるのだろうか。
「アルルーラ、いやじゃなければおいで」
たぶん……いや、絶対に何もわかっていないゼルアクスが、のほほんと誘う。
「あ……は、はい」
ゼルアクスから誘われては、アルルーラも断れない。と言うか、断りたくない。こんな機会は滅多にないだろうから。
わ、ふたりきり、だよね? ど、どうしよう。変なこと、言ったりしないかしら。昨日、ミクテスにあれこれからかわれたけど、それ以上に変なことを言ったりやらかしたら……。うー、ゼルさんなら気にしない、わよね。
「えっと、あの、行って来ます……」
先に出て行くゼルアクスを追って、アルルーラも頬を紅潮させながら薬局を出て行った。
「やれやれ。我が弟子ながら、全くもって辛気くさい。あんな調子でぐずぐずしているから、今回のように横から連れて行かれてしまうのだ。さっさと手中に収めればいいものを」
「はは……ドリさんが言うと、ちょっと怖いなぁ。別の何かを狙ってるみたいに聞こえるよ」
ミクテスがくすくすと笑う。
「おーい。ゼル、いるか」
言いながら、一足違いでレイアードが現れた。
「先生は採取に出られました。二、三時間は戻られないかと」
「ああ、そうか。じゃ、仕方ないな」
「レーさん、二日酔いの薬ならすぐ調合できるよ」
「今日は別の用だ。昨日の件で……ってか、お前、俺がいつも飲んだくれてるように言うな。知らない誰かが聞いたら、誤解するだろ」
それを聞いて、ミクテスが首をかしげる。
「え、誤解じゃないでしょ」
「このやろ」
レイアードがミクテスを捕まえようとし、ミクテスはその手を器用にかいくぐる。
「賑やかなことだ」
昨日は別の理由で騒がしかったが、今日は平和な賑やかさだ。
「ではな」
シャルリアにいとまを告げて、ドリーダは外へ出た。
入れ違いに、客らしい人間とねこの獣人が薬局へ入って行く。
見上げた空は、よく晴れていた。





