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拝啓、○○に出会いました。  作者: 緋色
四章

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22/22

お仕置

「こおおおおおのおおおおおっ!」

「鬼さんこちらですよー」

 街道に響く、怒声と軽快な声。

 乱舞する炎の双剣、受け流す銀色の槍。

 馬車の中で起こった騒動は、ロゼッタに煽りに煽られたラドニーが切れたことにより、文字通りの場外乱闘となっていた。

「表へ出ろお!」

「お代をいただきますが、よろしいですかー?」

 とは、乱闘開始時のラドニーとロゼッタのやり取りである。

 おかげで、馬車は街道の脇に寄せられて小休止となっている。

 街道にほかの人目がなく、見世物などになっていないのが幸運であった。

 剣と槍がぶつかり合う音を背景に、アイゼンとジェラは木陰でのんびりとそれぞれ本を読んでいる。

 ジェラが呆れのため息をついた。

「……飽きずによくやるわね」

「元気なのはいいことだ」

「子供じゃないんだから」

 ジェラが思案げに呟いた。

「……馬車は失敗だったかしら」

「ジェラなら長距離の移動手段も持っていそうだものな」

 アイゼンが思い返しながら言う。

 彼の脳裏に浮かんでいるのは、以前に魔法陣で一瞬にして別の場所へ飛ばされたことだ。

 アイゼンが何を想像したのか察したジェラは、微妙な表情をした。

「念入りな準備がいったりするし、面倒なのよね。他の移動手段も考えてるけど、ちょっと詰まっているところもあるし」

 ジェラは本に落ちる枝葉の影を、指で撫でた。

「まあでも、とことこ行くのも、嫌いじゃないわ」

「同感だ」

 そんな静かなやりとりとは裏腹に、ラドニーとロゼッタの戦いは、草原の肌を削り取らんばかりに加熱していた。



(この……!)

 態度とは裏腹に重い一撃と奔放な動きに、ラドニーはつけ入る隙を見出せずに歯噛みする。

「ほらほら、どうしたどうした、ですよー」

「くっ!」

 こちらは何度も危うい一撃を躱して冷や汗だらけだというのに、ロゼッタは弄ぶような態度を隠しもしない。

 それが挑発ともなり、ラドニーの調子を狂わせる。

 しかし、そんな中でもどこか冷静な部分はあって、ロゼッタの戦術を解析しようとする。

 まず、その槍は見た目の二倍以上の重さがあるらしく、下手に受けるとそれだけで消耗する。

 そしてそれを悠々と振り回すほどの膂力はさらに威力を倍加させるし、多少の無軌道な動作すら可能にして、次を読みづらくする。

 さらにはその、膝下まですっぽりと覆う長い紺のスカート。

「なんだそのひらひら! 足さばきが読みにくすぎるぞ!」

「いやん、脱げと?」

「そういうことを言っているんじゃない!」

 ほれほれ、とスカートの裾にまで煽られているようで、それにも腹が立つ。

 心を乱されながらも、ロゼッタの動きを読み取ろうとする――強くなるために。

 そして目指すのは、以前の再現だ。

 初めてロゼッタと相対した時、危機の最中に発現した、刹那の見切り。

 それを成すためには、相手の魔力の流れを追跡することが必須。

 破魔眼を起動させて、ロゼッタの全身を覆う魔力を見定めようとする。

 ロゼッタは水色の魔力の膜に覆われていた。

 自分のように漏れ出しているそれとは違い、制御されている魔力。

 そこに技量の差をまたもや感じ取り、けれど劣等感を振り払って、右手の剣を振るう。

 突き出されてきた穂先の上をすべるように切り込んだものの、槍が振るわれて巻き込まれ、後ろを向かされた――ように見せかける。

 身体の影で、左の剣にまとった炎を肥大化させ、振り向きざまにロゼッタめがけて打ち出す。

 至近距離からの不意打ちだった。

 しかし次の瞬間、ラドニーの視界に映ったのは、いつのまにかロゼッタとの間に浮かんでいた水の膜、その先のロゼッタの笑みだった。

 炎が水の膜に着弾すると、霧が爆発的に広がってラドニーの視界を奪う。

「何っ……!?」

 咄嗟に飛びのくラドニー。

 逃がすまい、と霧から突き出される槍先。

 身を低くして踏み込み、双剣で足を払おうとして――破魔眼の視界には、水色の輪郭がないことに気づく。

「残念でしたー」

 そうして、その声は後ろから投げかけられた。

 同時に感じる、首筋に突きつけられた槍。

「……くっ」

 ラドニーは負けを認めて、破魔眼を解除せざるを得なかった。

 ロゼッタのしたことは単純だ。

 煙幕を張って、槍を投げつける。

 ラドニーの後ろに回り込み、投げた槍を受け取って突きつけたのだ。

 迂闊としか言いようがない。

 自分が炎を使えるのと同じく、相手にも同じような手があると、まるで予想していなかったのだから。

 槍が引かれる気配を感じ、ラドニーはぎこちなく後ろを振り返った。

 勝者となったメイドは、銀色の槍を同じ色のチョーカーとして首に戻し、手の上に水の球を作り出していた。

 そうしてそのまま、もう二つほど水の球を生み出してお手玉する。

「ふっふー。私に槍以外を使わせたことは褒めてあげまーす」

 振り上げた手の動きのまま、水の球はロゼッタの背後に飛び去ると、霧雨となって消えて小さな虹を映し出す。

 そしてロゼッタはそれを背に、スカートの裾をつかんで一礼した。

「優雅でつよつよ完璧メイド、勝者のロゼッタでございましたー」

「くううっ……!」

 演出と共に名乗りをあげられて、ラドニーは歯噛みした。

 厳然たる結果で、それはラドニーも認めなくてはならない。

 しかし、剣を持ったままの拳が悔しさに震えるのはどうしようもない。

「わ、わたしもイヤリングほしいのに……!」

「……争点はそこだったの?」

 その呆れた声は、近寄ってきたジェラが発したものだった。

 同じくアイゼンも近寄ってきており、それに気づいたラドニーは、ぎくり、とした。

 悔しさが一瞬で不甲斐なさと申し訳なさに変わる。

 しかしアイゼンは言うのだった。

「貴重な敗北を積めたようで、なによりだ」

「……それは」

 言われ、ラドニーはその事実を苦く飲み込んだ。

 かつてアイゼンと手合わせし、そして一瞬で敗北した時にも言われたことである。

 負けたことは確かにみっともない。

 しかし、みっともなくても生きている。

 そして次に生かせるのは、とても貴重なこと。

 だからラドニーは、ロゼッタに向き直った。

「……次は勝つ」

「えー、メンドイのでやですー」

「おいっ!」

「だってラドニー様、よわよわで退屈なんですものー」

「こ、こいつ……!」

 歯噛みするラドニーの後に続いたのは、ジェラの面白そうな声だった。

「へえ。だったら、強い相手なら楽しめるってわけね?」

「……はわ?」

 疑問顔のロゼッタがジェラの視線を追うと、それはアイゼンへと行きついた。

 途端に顔がひきつるロゼッタ。

 ジェラは、決まりきったような事柄を述べた。

「アイゼン、鍛えてくれない? このメイド、最近たるんでるみたいだから」

「いえいえいえいえいえ、滅相もないでございます! わ、私のお腹、腹筋ばっきばきですよー、見せてもいいです!」

「そっちはどうでもいいのよ。大丈夫、ハンデあげるし」

「……ハ、ハンデ?」

 ジェラの視線が転じる。

 そこには、唐突な話題の変化について行けず、呆気にとられているラドニーがいた。

「ラドニーと組んでの二対一よ」

「全然足りないですー!?」

「失礼な!? わたしだって少しは戦力になる! ……はずだ! いや、というかどうしてそんな話になるんだ!?」

 ジェラの口元に浮かんだのは、物騒な笑みだった。

「護衛をほったらかしにしてじゃれあっている二人には、ちょうどいいお仕置きだと思わない?」

 その言葉に、腕を組んで考えたアイゼンは一言。

「そうかもしれんな」

「ヒィィィィッ……!?」

 確定した事態に、完全に腰が引けておののくロゼッタ。

 その表情はラドニーが見たことがないほど悲壮なもので、急激に迫った現実に、意識がやっと追いつくには十分だった。

 背筋を這いあがってくる寒気を、無理やり武者震いと思い込む。

「いや、これは好機だ……! 胸を借ります、アイゼン!」

「存分に貸そう」

「抱きしめてもらえるだけなら望むところなんですけどー!?」

「健闘したらご褒美にしてもらえるかもね?」

「な、なら頑張りますー」

「あ、ずるいぞロゼッタ!?」

 そんなやりとりを皮切りに、再度双剣を構えるラドニーと、渋々チョーカーを槍に戻すロゼッタ。

 そして、静かに広めの場所に歩み出るアイゼン。

 アイゼンは、歩みを止めて振り返った。

「えええい!」

「やー!」

 その瞬間、炎をまとった双剣を構えたラドニーと、銀色の槍を突き出しながらのロゼッタが、アイゼンめがけて突進する。

 ロゼッタの槍はアイゼンの左腕に抱え込まれる形で止められる。

 ラドニーの双剣は、叩きつける瞬間に現れた白い障壁に阻まれた。

 白い障壁をアイゼンが押すと、一瞬の抵抗もできずにラドニーは大きく後ろに弾き飛ばされる。

 ロゼッタはそれに構う余裕はない。槍に渾身の力を込めるも、押しもできず引きもできないのだ。

 アイゼンの踏み込みの気配を感じて、ロゼッタは咄嗟に槍をチョーカーに戻す。

「ほう」

 槍の感触が手から失われて、感心の声を上げるアイゼン。

 ロゼッタはそれに構わず再度チョーカーを、アイゼンに穂先が向く形で槍に変化させる。

 アイゼンはその変化の速度以上の速度で後ろに飛び退り――そこを、足元が不安定になったと見て取ったラドニーの横薙ぎの一閃が見舞う。

 そして、それに合わせてロゼッタが挟み込むように槍を振るう。

 左右から剣と槍の振りに挟撃される形となったアイゼン。

 しかし、アイゼンの手が弧を描き、ロゼッタの槍を頭上へ、そして身体の逆側へ下ろしながら流す。

「え!?」

「なにっ!」

 結果、ロゼッタの槍の振り抜きは、まるでアイゼンを通過したように、逆側にいたラドニーの双剣に叩きつけられた。

 二人の一瞬の動揺の間に一歩進んで、がら空きのロゼッタの横に回り込んだアイゼンは、その肩を押した。

「わへっ」

「うわっ!?」

 ラドニーを巻き込んで倒れるロゼッタ。

「何をやってるんだ、ロゼッタ!」

「えー、だってですー」

「だってじゃない!」

 巻き込まれた形になったラドニーは、濃密な一瞬で精根尽き果てたように脱力したロゼッタと、のしかかってくる槍の重さで動けなくなってしまった。

 ラドニーは手をあげて訴えた。

「ア、アイゼン! 相談を! 作戦会議をさせてください!」

「わかった」

「もう休憩なんて、早すぎじゃないかしら」

 ラドニーの要望を素直に承諾するアイゼンに対し、厳しいジェラ。

 戦いとも呼べないほんの一瞬の出来事だったので、「確かに」とラドニーも同意しそうになる。

 が、それでもラドニーは言わずにはいられない。

「外野は黙っててくれ!」

 答えたのは、少女に似合わない肩をすくめる動作だった。

「もう寝たいですー」

「いつまでだらけている気だ!」

 なんとかロゼッタの下から這い出て、肩を揺するラドニー。

 渋々、身体を起こすロゼッタ。しかしまだやる気には満ちないのか、ぺたりと座り込んだままだ。

「でも、対策なんてあるんですかー?」

「とにかく押し切る!」

「それ対策じゃないですー」

 ロゼッタの瞳が「なにこいつ、メンドイ」というジト目になっていた。

 あからさまなそれに、流石にラドニーも安直すぎたと気づき、思案する。

 まず考えついたのは、ありきたりな話である。

「……ばらばらに攻めていたら駄目だ。合わせる必要がある」

「うーん、言うは易しですけどねー」

 眉をひそめるロゼッタに、つい頷きそうになるラドニー。

 小回りの利く双剣と、重い両手槍。

 そもそも、タイミングを合わせにくい。

 先ほどの挟み込みも、ロゼッタの振りのほうが早く、その差を利用された形であった。

「そもそもさっきの振り、途中で止められなかったのか」

 ラドニーの疑問に、ロゼッタの表情がむくれたものになった。

「あっという間だったんですけどー。そういうラドニー様こそ、躱せなかったじゃないですかー」

「う、すまん」

 失言に気づき、謝るしかないラドニー。

 ロゼッタの槍の軌道はアイゼンの向こう側で見づらく、急に頭の上から降りかかってきたように見えた。

 しかもロゼッタの振りの威力に、アイゼンは腕の円運動の力を上乗せしたようで、速度も増していた。

 だから躱せなかったという言い訳はできるが、今それを言っても相談は進まない。

 心底面倒くさそうに、ロゼッタはため息をついた。

「手応えあるんだかないんだか。なんだか大木や風を相手にしている感じですー」

 その表現に、ラドニーは思わずアイゼンを見た。

 彼はゆっくりとした速度で演武をしており、その揺らぎのない姿勢をジェラに見学されていた。

「あえてのんびり動いてるってことかしら」

「ああ。その瞬間の姿勢に、ぶれがないかを確認している」

 そんなアイゼンに、ロゼッタの例えは的確であると、改めて思う。

 抗えない自然。

 そんな強大な相手に挑む心境ではある。

 とても歯が立つとは思えず、そんな表現を思い浮かべることすら恐れ多いと思ってしまう。

「……けれど、だからこそ挑む価値がある」

「真面目ですねー」

 敵前逃亡寸前のロゼッタの表情ではあったが、それでも考え込んではいるようである。

「……私が前衛、ラドニー様が遊撃という形ですよねー、結局」

「……うん。その役割を徹底してみるか。あと、アイゼンは予想もつかない動きをしてくるから、いちいち驚かないように、とかかな……」

「そういう殿方、嫌いではありませんがー」

「おいっ!」

 相談とも言えない相談ではあったが、一応の結論を出して立ち上がるラドニーとロゼッタ。

 片方は意思も固く、片方は面倒くさそうな表情を隠しもしない彼女たち。

 それを見て取ったのか、アイゼンは演武をやめて軽く身構え、ジェラは離れていく。

「うー、やっぱりやですー」

「今更そんなこと言うんじゃない!」

 自らが言い出した役割に尻込みするロゼッタを、叱咤するラドニー。

 そうしながらも、じりじりと動いてアイゼンを囲むように位置取りする二人。

「やけくそのやーですー!」

 言葉そのままの表情で、それでも鋭く重い槍をアイゼンに突き出すロゼッタ。

 それを踏み込みとともに手のひらで押し流すアイゼン。

 ロゼッタは縮まった距離にひりつく気配を感じつつも、アイゼンがいる側の肩に水球を浮かび上がらせ――アイゼンめがけて高圧で発射する。

 刃となった水は、何もない空間を切り裂いて、地面に虚しく食い込んだ。

 アイゼンに横に回り込まれたロゼッタは、思わず悲鳴を上げる。

「もういやですー!?」

「泣き言を漏らすな!」

 アイゼンの背後に回り込む形で位置取ったラドニーが、双剣を挟み込むように振るう。

 当たったかに思ったが、やはりアイゼンの姿は視界から消えた。

 後ろに宙返りすることで、ラドニーの頭上を越えて、回り込もうとしていたのだ。

 その瞬間、ロゼッタの周囲に生み出されていたいくつもの水球が、それぞれアイゼンの軌跡を追いかけるように高圧で打ち出される。

 そしてロゼッタ自身は、アイゼンの着地地点に槍を突き出すために、ラドニーとすれ違う形で踏み込もうとする。

 しかしアイゼンは空中に生み出した防御障壁を蹴り、予想の落下軌道を裏切る形で着地する。

 ロゼッタの水の刃はすべて空を切る。

 しかもアイゼンからすると、攻撃直後で硬直しているラドニーを、ロゼッタの壁にした位置取りとなった。

 そして押されるラドニーの背。

 たたらを踏んだラドニーはロゼッタにぶつかりそうになるが、ロゼッタは槍から片手を離すと、ラドニーの手首を取った。

 何をする気だ――そう口に出す前に、ラドニーの身体が水平に振り回される。

 その軌道にはアイゼンがいて、ラドニーは咄嗟に蹴りを繰り出すものの、それは空しく躱された。

 しかし、アイゼンが飛び退ったことで間合いが離れて、一旦は落ち着けたことになる。

 意外と丁寧に地面に降ろされたラドニーは、さすがにアイゼンから目をそらせないものの、ぼやくのだった。

「……わたしは武器じゃないぞ」

「この際、使えるなら何でもいいですー」

「……それは確かに」

 言葉を交わしながらも、再度間合いを保ちつつ、じりじりと包囲の形に動き出すラドニーとロゼッタ。

 しかし、アイゼンはそれ以上待たなかった。

「今度はこちらから行くぞ」

「……えっ!」

 ロゼッタの反応を見てから、アイゼンは動いた。

 一瞬後には、蹴りを繰り出そうとしているアイゼンが目の前にいて、ロゼッタは咄嗟に槍を盾にし――それごと吹き飛ばされる。

 ラドニーはその瞬間を見逃さなかった。

 剣を振るって炎の弾幕を打ち出し、それを追いかけるようにアイゼンめがけて突進する。

 そしてラドニーは見た。

 炎の弾幕の中を、ゆるりと避けながら歩いてくるアイゼンの姿を。

(これがわたしの目指すべき……!)

 拳、肘、膝、足裏、と突き出されてくるアイゼンの技。

 まるで時間が止まったような感覚の中、ラドニーは無心でそれらをすり抜けていく。

 そのさなか、感覚の端に水色の存在を認識した。

 アイゼンを誘導するように立ち位置を変えていき、そちらに背中をさらさせることに成功する。

 ロゼッタが全力で突き出す槍に呼応するように、破魔眼を起動。

 アイゼンのわずかな攻勢の予兆も見逃さぬよう、万全で備えながらロゼッタの槍に合わせて双剣を突き出す。

 タイミングは完璧のはずだった。

「ひんっ!?」

「なっ……!?」

 ロゼッタが唐突に悲鳴を上げて体勢をぐらつかせ、ラドニーの視界が閃光で埋め尽くされなければ。

 白い視界の中、突き出した双剣の先が重く激突した。

 それは何度も打ち合わせた槍の先であり、明確な失敗を伝えてくる。

 明滅する視界の中、深く沈みこんで挟み撃ちを躱したアイゼンの姿。

 そうして、そこから竜巻のように打ち上げられた後ろ回し蹴りを、ラドニーは防げなかった。

 巻き込まれ回転し、立っているのがやっとのロゼッタにぶつけられる。

「うわっ……!」

「きゃうっ……!?」

 そうしてもんどりうち、まるで抱き合うように地面に転がったのだった。



「……なんて無様な護衛たちなのかしら」

 横たわるラドニー、それにのしかかるようなロゼッタに、近寄りながらのジェラは手厳しい。

 どっと襲ってきた疲れに抗せず、息を荒くしたラドニーは、先ほどのように弁解するしかなかった。

「これでも頑張ったほうだ……というかアイゼン、何をしたんですか、最後?」

 それがラドニーにはわからなかった。

 突然ロゼッタが体勢を崩したこと。

 そして、自分の視界が不意の閃光に襲われたこと。

 特に閃光は、放射されたというよりは自分にだけ向かってきたような感じだった。

「ラドニーは破魔眼で魔力が見えるだろう? だから、そこに向けて瞬間的に魔力を解放したのだ」

「……な、なるほど」

 直接魔力を見ることができる自分に対して、その魔力の爆発を見せた、ということなのか。

 それが破魔眼用の目くらましとなった、と知ってラドニーは唸ってしまう。

 まさかこんな弱点があったとは、と猛省する思いだ。

 つい視線を落とした先には、目を回しているロゼッタの姿。

 その頬を、しゃがみこんでつついたのはジェラだった。

「そしてロゼッタには、イヤリング越しに大出力の思念を叩きつけて朦朧とさせた、ってわけね」

「……うーんん」

 頬への刺激で、やっと目の焦点が合ってきたロゼッタだった。

 アイゼンはどこか誇らしげに腕を組んだ。

「使えるものはなんでも使ってみた」

「……あんたねえ」

 頭痛をこらえる表情でジェラは立ち上がり、目を細めてアイゼンを睨んだ。

「想定外の使い方、やめてくれるかしら。壊れたらどうすんのよ?」

「こういう試行錯誤が、次の発明につながるのではないのか」

「そういうのは工房でやりたいし、あらかじめ知っておきたいのよ」

 堪えた様子のないアイゼンに、毒気を抜かれて呆れるジェラ。

「とにかく、これ以上は変な使い方しないようにね。どうしてもの時は、まずあたしに相談。返事は?」

「わかった」

 素直なアイゼンに、とりあえずは頷いて見せたジェラ。

 そうして、その指先は先ほどまで本を読んでいた木陰を指す。

「じゃあ、どんな試行がありそうか、まずは教えてちょうだい」

「わかった」

「もう少ししたら出発だから、さっさと回復しなさいよ」

 ラドニーとロゼッタに言い捨てて、アイゼンとともに歩き去るジェラ。

 その言葉が、護衛してもらう立場からのものだと、頭では理解できる。

 しかしそれが、自分よりよほどリーダーらしい振る舞いに見えて、ラドニーは苦く頷いた。

「……ああ」

「ふにー」

「って、お前はどこを触っている!?」

「この枕で寝かせてくださいー」

「こ、こらぁ……っ!」

 ロゼッタをはがす作業に追われながら、ラドニーはさっきまでの戦い、そして――自分の立ち位置を振り返るのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

他作業に時間を取られて更新が滞るため、一旦ここで完結といたします。

続きの構想自体はあるため、完全エタりはしない見込みなので、気長にお待ちいただければ幸いです。


その間、他作品「ストーカー系女子とアンニュイ系男子の攻防戦」という恋愛小説(ラブコメ・シリアス要素・群像劇テイスト)が完結済みですので、こちらを是非。

https://ncode.syosetu.com/n6993la/


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