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働かなくても良い世界に身をおいて  作者: 〇新聞縮小隊
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<東京都某所>

「おい、これ以上人口が増えたら、食料が足りなくなるぞ」と、奥田忠司が言うと、同じ部屋にいた盛岡春樹が振り向いた。

 二人は都内の大きな邸宅の一室で、ウォールナットで作られたどっしりした机を挟んでいた。

 この邸宅は都内にあるにも拘わらずとても大きな敷地に建てられており、家からは見えないところまで庭がある。

 これも、ベーシックインカム法案が通ってすぐに、土地や賃貸物件を持て余していた所有者から安く買いたたいた奥田の父親のお陰だ。まぁ、元から資産家の家ではあったので、元々の家も大きかったのだが、ベーシックインカム制度を機に敷地を大きく広げたのだ。

 いわゆる上流社会の住民であり、代々親の会社を継ぐ事で日本でも有数の家格を持つ二人だった。

 

「バカだなぁ。人工食料を与えればいいだろう?もう牧場や農場もAIしか働いていないんだから、どんなものを作ろうと、製品に何を加えようと食品表示の義務もなくなったんだし、一般の国民は分からないと思うぞ。俺たちの様な上流層のみが、自然食品を食べればいいんだよ」

「あ、そうか。でも、味が変わったとか、いろいろ反発されないか?」

「スーパーに並んでる食品についてCMやマスコミが人工食品だと流さなければ誰にも分からんし、旨味成分は分かってるんだから、それをAIに作らせて、全ての食品に混ぜ込めば、おいしいおいしいって喜んで買うはずだぞ」

「なるほど!で、自然食品は俺たちの様な者だけが食べるんだな」

「そうだよ。で、この方法だと添加物をたくさん入れて、病気になりやすくして、増えすぎた人口をコントロールできるし、一石二鳥だな」

「お前、鬼畜だな」と言った岡田と、それを聞いた盛岡は顔を見合わせて、二人とも大笑いをした。




 その半年後、奥田と盛岡の予測通りに、実際に市場に流れる食品はほとんどが人工食料になってしまったが、世界の住民の殆どは、「さすがAIだ。栽培方法や飼育方法が理想的なのか、前よりおいしくなった」とそれらの食品を喜んで消費していた。

 そして発がん率は爆発的に増え、元々抗がん剤で財をなした上流層の住民は更にお金を手に入れてウハウハだった。

 病気の多発で人口も徐々に下降しているが、それは年配者や働き盛りなのに働けない者たちが主で、タケノコの様にポコポコ生まれて来る赤ん坊は未だ増えていた。


 みのりが7歳になった時、小学校へ入学するために受験をしなければならなかった。

 新しくなった世界では、両親が働かなくなって家にいる事が多いので、幼稚園等は必要なくなって、義務教育の学校というのは小学校しかない。


 2000年前後にたくさんあった大学など、ほとんどがその姿を消していた。まず、少子化が進み、日本人学生の数が減り、日本政府が返す義務のない奨学金を外国人にのみ適用してなんとか学生の数を保っていたが、大多数を占めていた日本人学生の人数が大きく減った事もあり、学力等が著しく落ちてしまった為、数年後には外国人留学生にとって魅力のある大学の数が減って行ったのがその原因だ。


 現在、日本で公立の大学は1校のみ。

 赤門で有名な大学がその名を日本大学と変えた大学のみだ。

 日本以外の世界各国でも大学の数は極端に減った。

 私立の学校は幼稚園から大学院まで様々あるが、費用がとても高くつくので、ベーシックインカムだけで生活している者には夢のまた夢だ。


 日本では、全ての国民は7歳になった時、小学校の入試を受ける。

 その試験に受かれば6年間小学校へ通えるが、受からなければ最初の2年だけ通い、文字と計算を教わるのみになる。

 元々、日本という国は江戸時代頃でも教育に力を入れていた国なので、教育に重きを置く傾向にあった。一般家庭でも親たちは、自分の子供により良い就学環境を整えてやりたいと考える傾向が強く、小学校受験に備える様子供たちに発破をかける。そしてそれらの親の心理に応えるべく塾が乱立している。

 塾は、AIではなく、人間が働く数少ない職場なのだが、子だくさんの家庭では子供たち全員の塾代を捻出するのが難しい。

 ベーシックインカムだと、7人くらいいる子供の内、1~2人くらいしか塾にやる事ができないのが普通なのだ。それも教育熱心な日本という国だから塾に通わすなどという発想があるが、元々教育熱のなかった他の国の子供たちとなると、塾になど入れてもらえないのが普通だ。

 また、そういう国では学校で勉強したいと思う子も少ない。


 みのりは塾へは通わせてもらえなかったが、長男のあおいが塾に通わせてもらった内容を次男に教え、次男が下の弟妹に教えることである程度の知識を得ていた。

 まずは、ひらがなとカタカナ、足し算、引き算を覚えろと言われ、他の兄弟と一緒に家や図書館で勉強した。

 あおいは小学校の宿題が多く、弟妹の勉強を見てあげたくても、その時間がなかったのだ。

 それでも、あおいが塾時代に得た参考書などを捨てずに活用し、次男だけには大まかな内容を伝えていてくれた。それ以降、次男が兄弟全員の塾の先生の様なものだった。弟妹に勉強を教える事で親からもらえる小遣いが、太郎にとって魅力的だったことが幸いして、面倒くさがらず弟妹にちゃんと教えてくれたのだ。


「りんごが3つ、みかんが2つ、バナナが5つあります。その内、りんご2つを売り、パイナップルを更に1つ買いました。残りのフルーツの合計はいくつ?」と教科書に問題が書いてあった。

 両手の指を総動員して計算していく。

「9つ」

「みのりはエライね。正解だよ」と次男の太郎が褒めてくれた。

 太郎は小学校受験に失敗し、今はどこにも通ってないが、ゲームをしたり、ネットを通して見る無料のアニメや映画の合間に、妹や弟の面倒を見てくれる。

「俺は学校で勉強するより、こうやってゲームする方がいいと思うけどな」と言いながらも、親から頼まれて勉強を見てくれるのだ。


「みのり、明日はいよいよ入試だけど、緊張するなよ。落ちても働かなくていいし、勉強しなくていいし、ゲームやり放題になるから悪い事なんて何もないぞ」と励ましてくれる。

「ありがとう。太郎にぃ」


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