捕らわれるもの
屋敷に辿り着き、ヘルガは、侵入できる場所を探す。
「あそこからなら、行けそうだな・・・・・」
ヘルガが見つけたのは、荷物小屋。
小屋の屋根から、屋敷に乗り移るために、静かに歩みを進めた。
予定通り、小屋に辿り着き、屋根に上がる。
しかし、そこには、エンデの姿があった。
「ここで、何をしているの?」
暗闇の中、一人佇むエンデ。
異様な雰囲気を醸し出している。
ヘルガは、腰の後ろに隠していた短剣に触れた。
━━このガキが、例のガキだな・・・・・・
騒がれては、面倒だと思い、一気に間合いを詰め、エンデを殺しにかかる。
短剣を持ち、あと一歩で、殺せると思った瞬間、背筋が凍るほどの恐怖を感じた。
咄嗟に、バックステップを踏み、距離をとるヘルガ。
しかし、エンデが、その後を追い、距離を詰めていた。
「チッ」
思わず舌打ちをし、逃げる為の行動を起こす。
短剣で切りかかり、エンデが怯んだ隙に、脱出するつもりだ。
しかし、エンデの動きが、ヘルガを上回る。
切りかかった腕を掴み、ヘルガを引き倒す。
そのままの勢いで、屋根の上から落下したヘルガは、受け身を取れず
地面を転がった。
屋根の上から、見下ろすエンデ。
ヘルガは、屋根から落とされた衝撃で、まだ、動けない。
だが、『逃げるなら今しかない』。
その思いから、必死に立ち上がろうとするが、エンデが阻む。
『バインド』
エンデの言葉に従い、周囲の草の蔦が伸び、ヘルガに纏わりつく。
「グッ、なんだこれは!?」
立ち上がりかけた体は、再び地面に倒される。
ゆっくりと屋根の上から、降りてくるエンデ。
その背中の翼に、今更ながらヘルガは、気が付く。
「お前、何者なんだ!」
エンデは、何も答えず、翼を消した。
そこに、タイミング良く、マリオンの兵士達が現れた。
「マリオン様から、命令を受けて参りました」
「わかった。
侵入者は、この人だよ」
蔦に絡まり、身動きが取れず地面に横たわるヘルガを、兵士達が睨みつける。
「後は、お任せください」
「うん、宜しく」
ヘルガは、兵士達によって連行された。
一人、その場に残ったエンデは、屋敷に向かって歩き出す。
屋敷の入り口では、エヴリンが待っていた。
「遅いわよ!
心配したんだから!」
「うん、ごめん」
エヴリンは、エンデを上から下まで見た後、確認する様に問う。
「怪我していないわよね?」
「大丈夫、問題ないよ」
「そ、ならいいわ。
夜も遅いし、お風呂に入るわよ。
それから、心配かけたんだから、今夜は、私の抱き枕になりなさいよね」
「え~」
「つべこべ言わない!
これは、決まった事。
心配をかけたんだから、言うこと聞きなさい!」
エヴリンは、強引にエンデの手を引き、屋敷の中に戻って行く。
エヴリンは、どうしても、エンデを離したくなかった。
元々、弟を溺愛してきたエヴリン。
だが、その弟は殺された。
しかし、今、目の前には、瓜二つのエンデがいる。
━━この子だけは、絶対に私が守るんだから・・・・・・
弟、マッシュと同じ外見の少年。
その子を殺される訳には、いかない。
それに、今、手を離すと、エンデが消えてしまいそうで、不安だった。
お風呂から、上がってエンデは、直ぐにエヴリンに捕まり、
部屋まで、連行される。
しかし、エンデを一人にしておけないと、考える人物は、もう一人いた。
ルーシア。
彼女も、エンデの風呂上がりを待ち伏せしていたのだ。
そして、娘の前で、通路を塞ぐ様に立つ。
「2人で、どこに行くのかしら・・・・・・」
━━一番厄介な人に、見つかってしまったわ・・・・・
案の定、ルーシアが離れる訳もなく、
その日、エンデは、エヴリンを合わせた3人で
川の字になって寝る事になった。
その日の深夜・・・・・・
マリオンは、兵士達を連れ、地下牢にいた。
「全てを吐いてもらうぞ」
両手、両足を壁から伸びた鎖に繋がれ、身動きの取れないヘルガに、言い放つ。
しかし、ヘルガは、無言で顔を逸らす。
その瞬間、ヘルガの右手に激痛が走る。
「うがぁぁぁぁぁ!!」
手の甲には、レイビアより細い、長い針のようなものが突き刺さっていた。
「早く吐いたほうが、身の為だぞ」
「チッ・・・・・」
ヘルガは、舌打ちをするだけで、何も話そうとしない。
「そうか・・・・・やれ」
マリオンの合図に従い、ヘルガの前に、火鉢が置かれた。
その中には、先程の先端が針のように尖った鉄の棒が、突っ込まれていた。
その中の1つを、厚手の手袋をはめた兵士が掴む。
真っ赤になった針先を、ヘルガに向ける。
「や、やめろ!」
ヘルガの言葉を無視し、熱した鉄の棒を、二の腕に突き刺す。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
『ジュウゥゥゥ』と肉の焼ける匂いが、地下牢に広がる。
兵士は、間髪入れず、右腕のひじの関節にも、突き刺した。
「ウガァァァァァァ!!!」
悲鳴を上げ、肉の焦げる匂いが蔓延するが、兵士達が躊躇する気配もない。
額から、変な汗を流すヘルガに、マリオンが問いかける。
「少しは、話す気になったか?」
ヘルガは、渾身の力を振り絞り、抵抗を見せる。
「誰が、話すか!
さっさと、殺せ!」
「・・・・・そうか・・・・・なら、仕方がない」
ヘルガは、素直に話さなかった事を、後悔することになる拷問が始まる。
マリオンの指示で、兵士達により、ヘルガのズボンが引き裂かれた。
下着一枚で、鎖に繋がれているヘルガ。
「なっ、なにをする気だ!」
兵士は、無言のまま、先端の焼けた鉄の棒で、鼠径部に突き刺す。
肉が、薄く、足に繋がる動脈や神経の集まったところを
貫かれ、この世のものとは、思えない程の激痛に見舞われた。
「ふがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
下半身から立ち上る匂いと激痛で、涙を流しながら叫ぶ。
突き刺した針は、抜かない。
焼き続けられる神経。
悶え苦しむヘルガの目に映るのは、
火鉢から、焼けた鉄の棒を手にする兵士の姿。
「ま・・・・・待て・・・」
再び、あの痛みがやって来る事を理解したヘルガの思考は、
恐怖に包み込まれた。
「や、やめてくれ・・・・・」
懇願するヘルガ。
しかし・・・・・
マリオンは、冷たく突き放すように言い放つ。
「話したくないのだろ、ならば、仕方があるまい」
その言葉が、絶望へと追い込む。
壁から伸びる鎖に繋がれている為、倒れることも許されない。
「ま、待て、頼む、待ってくれ・・・・・」
「それが、お願いする者の話し方か?」
マリオンの言葉に続くように、
兵士がもう1本を、反対側の鼠径部に突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
涎を垂らし、項垂れるヘルガ。
肩で息をし、気を失いそうになる。
しかし、水をかけられ、引き戻された。
「寝るのは、まだ早いぞ」
再び、兵士が火鉢から、鉄の棒を手に取る。
ヘルガに、迷いはない。
━━もう、嫌だ、楽になりたい・・・・・
その思いが、口から自然に漏れた。
「お、お願いです。
なんでも、話します・・・・・
勘弁してください・・・・・」
懇願を始めたヘルガ。
「そうか・・・・・」
ヘルガは、知っていることを話し始めた。
しかし、途中で、気を失いそうになると、
先の焼けた鉄の棒で、体を貫かれた。
全てを話し終えるまで、気を失うことも許されない。
ヘルガも必死に、意識を保つ。
焼けた鉄の棒のおかげか、出血は少ない。
その代わりに、体中に無数の焦げた穴が、開いていた。
ヘルガは、全てを話し終え、気を失うことが許される。
目の前の火鉢が下げられ、尋問が終わった。
マリオンがヘルガに近づく。
「お前は、エンデの秘密を見たのか?」
その言葉で、思い出す昨夜の出来事。
突然現れた少年に、あっさりと捕らえられた事。
そして、そこで見たもの・・・・・
今まで拷問を受け、忘れていたが、思い出した。
「悪魔の翼・・・・・」
ポツリと呟いた言葉。
その言葉を吐いた途端、ヘルガの心臓には、剣が突き刺されていた。
「グフッ・・・・・」
吐血する。
「約束通り、好きなだけ眠れ・・・・・」
マリオンは、心臓に突き刺した剣を抜き、その場から立ち去る。
━━カーター・・・・・・絶対に許さん・・・・・
マリオンは誓った。
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