会談
ビートルは、ヘルガからの連絡を待っていた。
「遅い・・・・・もう、夜が明けるというのに・・・・・」
朝早く目覚めたが、本人からの連絡が無い事に、不安を覚えつつも
ヘルガの今までの実績から、失敗することは、ないと思っていた。
しかし、夜が明けても、ヘルガが現れることはなかった。
ビートルは、ヘルガが、もうこの世にはいないことなど知る由もない。
今日は、領主ファーガス立会いの下、マリオンとの話し合いの場が持たれている。
そして、その時刻となり、今、ビートルの前には、マリオンが座っている。
ビートルは、何の情報も得られぬまま、マリオンと対峙することになった。
だが、ビートルに焦りはない。
「改めて、ご挨拶を・・・・・
私は、王都から派遣された仲裁委員のビートル ガンマと申します。
この度の事、上手く収めよとの命を受け、この場に参った次第です」
ビートルは、『事を荒立てず、『謝罪』という形で収めろ』と遠まわしに告げた。
マリオンが、ビートルを睨む。
「わが子を亡くした、こちらの事は、蔑ろにするつもりですか!?」
静かに、怒気に充ちた声で問う。
「いえ、そうでは、ありません。
同じ子爵の地位を持つ者同士、仲良くして頂きたいと、申し上げているのです」
ファーガスが、口を開く。
「それにしても、いささか甘すぎるのでは、ありませんか?
子爵家の跡取りを殺害しておきながら、無罪放免は、ありえんだろう」
ビートルは、その言葉を待っていた。
━━彼らは、これといった証拠を握っていない、だから・・・・・・
「その事なのですが・・・・・・
本当にレイトン家、いや、カーター殿が、殺したという証拠が、あるのですか?」
既に、自白もしている。
それを、いまから覆そうとしているビートル。
「仮にですが・・・・・自白があったとしても、
それが、恐怖から逃れる為の方便なら・・・・・」
ファーガスが、机を叩いて立ち上がる。
「貴様は、何が言いたいのだ!」
声を張り上げるファーガスだったが、ビートルは、至って冷静だった。
「落ち着いてください。
ここは、話し合いの場ですよね・・・・・」
ビートルは、笑みをこぼす。
「私は、あくまでも仮の話をしただけです。
それとも、何か、心当たりがおありでも?」
ファーガスは、椅子に座りなおした。
ビートルが、再び口を開く。
「私は、王都から派遣された仲裁委員です。
ですので、どちらかの味方というわけではないのですが・・・・・」
何故か、呆れたように溜息を吐く。
「このままでは、まともな裁きが行えるとは思えません。
したがって、捜査のやり直しを要求します。
今回は、第3者である私が、捜査の指揮を執ります」
これは、事実上、ビートルが好きなように判断が下せることになる。
━━マリオンに対しての情報は、掴めなかったが・・・・・
まぁよい。
これで、叔父上を助け出せる・・・・・・
捜査が、やり直しになれば、カーターを牢から出す事は、容易い。
そして、その間に、新しい犯人を仕立て上げれば、問題もない。
ビートルは、あまりにも上手く行き過ぎて、心の中でほくそ笑んだ。
話し合いは、ビートルの思惑通りに進み、このまま終わるかと思えた。
しかし、ビートルが会議を閉めようとした時、マリオンが口を開く。
「待って頂けますか?」
「はい、なんでしょう?」
「貴方は、平等といいましたが・・・・・
カーター殿は、貴方の叔父にあたりますよね?」
ファーガスが、驚き、ビートルを睨む。
「ハハハ・・・・その事ですか・・・・・
いかにも、カーリー殿は、私の叔父にあたります。
ですが、今回の事については、平等に扱うつもりですよ。
それに、審議は、私の手に委ねられたのですから、
どう扱おうが、それは、私の自由です」
ファーガスもマリオンも、承認していないのに、
勝手に全てを任されたと言い放つ。
勘違いをしているビートル。
王都では、立場や地位などを利用すれば、思い通りに事が運んできた。
それに、反対する者には、ヘルガを使い、弱みを握り、脅して従わせてきた。
しかし、ここは、王都でもなければ、ヘルガもいない。
「何を勘違いしているのかは知らんが、
ビートル殿に、この件を任せたつもりは無いのだがな」
ファーガスの言葉に、マリオンも頷いている。
「なので、カーターを牢から出す事、勝手に面会する事も、許されぬぞ」
怒気を含んだ言葉を放ち、ビートルを睨みつけるファーガス。
一瞬怯んだ様に見えたビートルだが、直ぐに反論する。
「な、なにを言っているのだ。
私に、逆らおうというのですか?」
前のめりになりながら、ビートルは叫んだ。
ただ、そこには、先ほどまでの冷静なビートルの姿は無い。
「当然だ、カーターと親戚関係にある者に、任せられるわけが無い。
今後は、こちらで裁く、貴殿にはお帰り願おう」
領主として、仲裁委員であるビートルを拒んだのだ。
「貴方、それでも領主ですか!?
王都から派遣された私を追い返せば、
それは、反逆と捉えられても、仕方が無い事ですよ!」
「反逆か・・・・・それは、物騒だな。
しかし、我々の行動のどこを!
どうとれば!
王家に逆らった事になるんだ?」
「わ、私を、拒んだことだ!」
いきり立つビートル。
だが、ファーガスも、負けてはいない。
「たかが、王都の下っ端役人を拒んだ位で、反逆になる訳が無かろう。
それとも、王都では、貴方のようなやり方が、まかり通っているのか?
もし、そうなら、陛下に直接相談するしかないな」
「そ、それは・・・・・」
国王陛下に報告されれば、危険なのは、ファーガスではなく、ビートルの方だ。
ビートルも、それくらいの自覚はあった。
流石に、引くしかないと判断をした。
「待て・・・・・わかった。
少し、時間をくれ。
私にも、王都に報告する義務があるのだ・・・・頼む」
懇願するビートルに、ファーガスが折れた。
「では、3日後、改めて審議の場を開こう。
それから、ビートル殿は、屋敷に滞在して頂いても構わぬが、
気が引けるのであれば宿を紹介しよう」
ビートルは、迷いなく宿を選択した。
その日の深夜、ビートルが泊まる部屋には、大勢の男たちが集まっていた。
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