040.機巧技師と黄金の虎
さて、機巧決闘での勝利を経て、エルヴィーラさんは晴れて、この島に居続けることができるようになった。
決闘後、すぐさま、2人っきりでサリィと話しに行ったエルヴィーラさんは、きちんと言いたいことを伝えられたと、清々しい表情をしていた。
サクラ君としては、これまで、エルヴィーラさんをいじめ続けていたサリィに対して言いたいこともあるようだったが、エルヴィーラさん自身に彼女への恨みはないと断言されてしまえば、もうそれ以上何か言う気にはなれないようだった。
かくして、一件落着といったところだったのだが、もう一つ朗報があった。
それは、僕ら"モンジュノチエ"の予選突破が確定したことだ。
アルエオアクアとの機巧決闘後、僕らの元へとやってきた運営側の人間であるところのゼフィリア先生が、その旨を僕らに伝えてくれた。
予選大会の終了まで、まだ、残り期間は一応一週間あるのだが、すでに勝ち星2つを獲得できる可能性のあるトライメイツはないため、必然的に僕らの本選出場が決まったということだった。
ちなみに、元々3勝しており、僕らとの勝負で1敗を喫したサリィ率いる"アルエオアクア"も、ギリギリのところで予選通過が決定しているらしい。
つまるところ、サリィは僕らと戦わずとも本選出場できたわけなので、形としては、彼女から勝ち星を一つ譲ってもらう形で、僕らの本選出場が決まったことになる。
そう考えると、なんとも因果なものだ。
「とにかく、これで本選に出られるんだ!」
「そう喜んでばかりもいられないよ」
そう言ったのは、クイッとメガネの位置を整えたレンチ先輩だ。
「君達の本選出場が決定したのには、もう一つ大きな理由がある」
「大きな理由?」
「あれがその理由さ」
レンチ先輩が視線を向ける先にあったのは、一台の魔導トラックだった。
カリブンクルスを運んでいるレンタル車両と同じものだ。
おそらく、これから機巧決闘に臨む機巧人形を積んでいるのだろう。
僕らの横を通り過ぎる際、その機体の姿が見えた。
「こ、これは……」
その機巧人形は、あまりに精巧な作りだった。
黄金に輝くボディに、黒いラインが何本も入っている。
手や足には、爪のようなパーツもあるが、何より目立つのは……。
「虎の顔……?」
「あれが、トライメイツ"ティグリス"の機巧人形"レイドブライガ"。君達よりも、さらに遅く大会登録された機巧人形であり、君達よりも早く白星を挙げた機巧人形」
「レイド……ブライガ」
「観に行くかい?」
レンチさんの誘いに、僕は無言で頷いていた。
決闘会場の観客席にやってきた僕達"モンジュノチエ"とレンチさん、モモさんを合わせた5人は、決闘を今か今かと待ち構える2体の機巧人形を見つめていた。
1体は、先ほど、ちらりと見た胸に虎の意匠が施された黄金の機巧人形"レイドブライガ"。
相対するは、恐竜じみた頭部を持った機巧人形"スピノヘッド"。四肢が太く、いかにもパワータイプな機巧人形だ。
予選だというのに、僕ら以外にも、かなりの人数がそんな2体の決闘を観覧に来ていた。
「あ、あのレイドブライガという機巧人形、なぜ胸に虎の頭がついているのでしょうか……?」
「ふむ、威圧の類だろうか。強い動物の頭を意匠とすることで、対戦相手に精神的なプレッシャーをかけているのではないか?」
「うーん、僕は単純カッコイイからだと思うけどね。意外とそう言うのって、技師のテンションが上がるんだよね。ビス君はどう思う?」
「僕は……」
僕は見た。
すぐ横を通りすぎた一瞬、つぶさに見た。
普通の機巧人形とは、骨格の形状が違っていた。関節の可動域も広い。
もしかしたら、あの機巧人形は……。
「おっ、どうやら、もう始まるようだ」
審判の声が響き、レンチ先輩が呟く。
それと同時に、ブザーが鳴った。
先に動いた機巧人形は、スピノヘッドだった。
かなり巨体の部類の機巧人形で、鈍重そうなイメージだったが、意外にもなかなかのスピードだ。
まったく動くそぶりのないレイドブライガの両肩をわしづかみにすると、力任せに引きちぎろうとする。
「な、なぜ、動かない!?」
さすがのサクラ君も驚きの声を上げる。
されるがままのレイドブライガ。
一見華奢そうなその機巧人形は、スピノヘッドの剛腕で、粉々につぶされてしまうかに思われた。
しかし……。
「ビクともしていない……だと」
掴みかかって数秒が経っても、レイドブライガの装甲には、一切の損傷がない。
それどころか、全力で力を入れ続けているであろうスピノヘッドの方が息切れしてきた。
剛腕を振るうにも、魔素がいる。
やがて、掴む勢いの衰えたところを、ついにレイドブライガ動いた。
胸についた獣の口が開く。
そして、そこから、一筋の閃光が迸り、スピノヘッドの頭部を貫いた。
一瞬の出来事。
あまりに予想外の攻撃に、会場がシーンと静まり返る。
そして、気づいた時、すでにスピノヘッドのあの恐竜のような強面は、首を残して消え去っていた。
『しょ、勝者!! トライメイツ"ティグリス"!! レイドブライガ!!』
審判の声と共に、まるで止まった時が動き出しかのような歓声が、会場を包み込んだのだった。
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