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033.機巧技師と先輩機巧技師

 エルヴィーラさんに自分の想いを伝えた後、モモさんとすれ違った。

 彼女はエルヴィーラさんの杖を持ってきてくれていた。

 それを渡すと同時に、彼女もまた、故郷での事を僕らへと勝手に伝えたことを謝罪するのだそうだ。

 もし、今回の決闘で敗北した場合、モモさんもエルヴィーラさんと一緒にモントカルテへと帰る覚悟らしい。

 身分ゆえに、口出しすることは出来なかったモモさんだが、だからこそ、自分に出来ることは全部してあげたいというのが、彼女の考えのようだった。

 自分自身は気づいていないかもしれないけれど、やっぱりエルヴィーラさんはたくさんの人に慕われているのだ。

 彼女なら、きっと戻って来てくれる。

 ならば、僕はとにかくカリブンクルスを最高の状態に仕上げておくだけだ。

 コクピットハッチを力づくで開けて出てきたサクラ君と合流するや否や、僕は、現在のカリブンクルスの状態をつぶさに観察した。

 胴体の装甲板は、ある程度の炎耐性を持つラウンドタートルの甲羅で作られているため、焦げ目こそあるが、さほど修繕が必要というわけでもない。

 問題は、炎のパワーにより爛れてしまった右腕、そして、過剰な魔素(マナ)の供給により、焼き付いてしまった魔力導線の一部だった。

 右腕には、もうスペアはない。

 となると、比較的ダメージの少ない、以前使っていたものを改修する形が一番早いだろうか。

 魔力導線に関しては、コクピット周りと右半身はほとんど取り換えが必要になるだろう。

 かなりの時間と労力が必要。

 僕とサクラ君が2人がかりで全力を尽くしたとして、間に合わせるのは至難の業だった。


「厳しそうか?」

「正直。でも、やらなくちゃ」


 不戦敗なんかで、エルヴィーラさんを手放すわけにはいかない。

 僕らのエゴを通し、エルヴィーラさんと一緒にいるためにも、カリブンクルスを最高の状態で試合に臨ませる。

 そのためには、多少の無茶は通す。

 気合を入れて、作業に取り掛かろうとしたその時だった。


「人手が必要なようだね」

「えっ……?」


 訓練場の中、誰かに声をかけられ、僕は振り向いた。

 そこに立っていたのは、メガネをかけた1人の男子生徒だった。

 胸に着いた校章の縁取りの色からすると、2年生の先輩だ。

 その姿は、どこかで見覚えがある。

 そうだ。確か……。


「あっ、ウォルプタスの……?」

「へぇ、覚えていてくれたんだ」


 メガネをかけた男は、ふふっ、と薄く微笑むとこちらに近づいてきた。


「俺は、君に代わってウォルプタスの機巧技師を担当していた、機巧科2年のレンチ=T=ギンガーだ」

「レンチ先輩、一体、何の御用ですか?」

「なんだか、お困りのようだから、君の手助けがしたくてね」

「えっ?」


 レンチ先輩は、メガネの奥を光らせる。


「色々と大変な勝負を請け負っているらしいじゃないか。あの女の子から聞いたよ」

「えっ、でも、なんで……?」


 レンチ先輩は、前回の対戦相手であるウォルプタスの機巧技師だ。

 ウォルプタス自体は、あの戦いの後、マクランとルチックの不正により解体されてしまったが、元は相手チームの人材。僕らに手を貸す理由なんて、まったく思い至らない。


「ははっ、不思議そうな顔しているね。単純な理由だよ。俺は、君から学びたいんだ」

「学ぶ?」

「ゴーダンオクサを整備していた君の手並み。本当に見事なものだったよ。俺はあれを見て、もっと君の技術に触れてみたくなったんだ」

「で、でも、僕は……」

「後輩だって? 年齢なんて関係ないさ。たとえ年下だろうと、自分より技術が優れている者にならば、師事したいと思うのが、機巧技師ってものだろう?」


 レンチ先輩の言うこともわかる。

 機巧技師の世界は実力主義だ。

 故郷の工房は、常にその技術を競い合っているし、工房長が自分より年下の人物なんてこともざらにある。

 とはいえ、ここまで素直にそれを受け入れられるというのは、性格的なものが大きいのかもしれない。正直嫌いじゃない。


「本当に手伝ってもらえるんですか?」

「ああ、俺は勝手に技術を盗ませてもらう。そして、君は、作業の手を増やせる。まさに、win-winの関係だと思うけど」


 一瞬の逡巡。

 機巧技師の中には、自分の技術を相手に盗まれることをよく思わない人もいるが、僕が所属する工房は、その辺、割とオープンだ。

 むしろ、技術共有することこそが、さらなる技術の発展に寄与するという考え方の人の方が多い。

 僕ももちろんその口だ。


「お願いします。先輩」

「ああ、任されたよ。せいぜいこき使ってくれ」


 こうして、先輩の力を借りられることになった僕達は、急ピッチでカリブンクルスの修復へと取り掛かったのだった。

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