032.機巧技師と魔導士の本音
「……ごめん!!」
最初に出たのは、ただただ純然たる謝罪の言葉だった。
「エルヴィーラさんを挟まずに、勝手にあの娘と機巧決闘なんか組んで、本当にごめん。僕達、エルヴィーラさんがあんな風に言われるのが、どうしても許せなくて……」
サクラ君が、機巧決闘を受けると承諾してしまったとき、本当は、僕が口をはさむべきだった。
でも、それをしなかったのは、僕自身にもエルヴィーラさんをいじめているサリィ達をどうしても許せないという気持ちがあったからだ。
冷静なフリをしておきながら、僕もやはり頭に血が上っていたのだ。
そんな僕らの選択をエルヴィーラさんは肯定してくれた。
それは、彼女にとって、本当はただのお節介だったのかもしれない。
それでも、優しい彼女は、僕らの押しつけがましい正義感を受け入れてくれたのだ。
「僕らもあの娘と同じだ。君の気持ちなんて考えず、自分たちがしたいから、決闘なんてことを承諾してしまった」
「……」
「でもね。やっぱり、僕ら、エルヴィーラさんがあんな風に扱われるのが、我慢できないんだ。ただ、一緒にいるだけじゃ嫌なんだ。僕らは、君の本当の笑顔が見たい」
自分の事をないがしろにしてでも、周囲の他人を助けようとする優しい優しい人。
でも、そんな彼女だからこそ、僕らは、彼女が心から笑えるようにしたい。
押し付けだろうが、何だろうが、それが僕とサクラ君の気持ちだった。
「3日後の機巧決闘までに、僕らは、必ずカリブンクルスを直す。そして、絶対に勝利してみせる。君とのこれからをもっと明るいものにするために。でも、それには、君自身の力が必要なんだ。だから……」
「…………でも、私は」
ボソリと呟くエルヴィーラさん。
でも、彼女はそれきり、何も言葉を紡ぐことはなかった。
「エルヴィーラさん、僕らはカリブンクルスと待ってる。君と一緒に作り上げた、あの機巧人形と一緒に」
それだけ伝えると、僕は踵を返した。
伝えたいことは伝えられた。
あとは、エルヴィーラさんの気持ち次第。
僕は、できることをやるだけだ。
試合までの時間はわずかしかない。
でも、必ず……。
「私は……」
一人、ウィンディフェンドの樹の根元に座りながら、私はずっとビス君の言葉を反芻していた。
どうしたいかなど、ずっと前から決まっていた。
ビス君とサクラさんと一緒にいたい。
こんな私のことを自然に受け入れてくれた2人。
そんな彼らと、同じ目的に向かって、進んで行きたい。
自分にできることがあるなら、なんでもしたい。
それは、私の心からの願いだった。
そのためだったら、私は、サリィさん達から何をされようが、ずっと我慢できるつもりでいた。
でも、知られてしまった。
あの時、屋上に2人がやってきたのを見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
真っすぐで優しい2人が、どうするかなんて、すぐにわかった。
案の上、彼らは、私を助けようとしてくれた。
嬉しかった。でも、当時に、どうしようもなく悲しくて、怖かった。
自分の正体を彼らに知られてしまうのが。
「エル様……」
ビス君が立ち去って、ほんのわずか後、ルームメイトのモモがやってきた。
モモは、故郷にいた頃から、ずっと仲良くしてくれている準男爵家の娘だ。
彼女は、ビス君とサクラさんに、故郷での出来事を伝えたと頭を下げた。
2人は、もう私が何者なのか知っているのだ。
私が、"炎の悪魔"と呼ばれ、大きな過ちを犯した罪人であるということを。
それを伝えたモモに、不思議と怒りは湧かなかった。
むしろ、ありがたかった。
彼らの優しさに甘え続けている私には、ずっと伝えることができなかっただろうから。
みんなもう、私が何者かを知っている。
それでも、私を必要としてくれる。
私と一緒にいたいと言ってくれる。
涙が出そうなほど、それが嬉しかった。
でも、失敗してしまった。
私は、感情的になった時、魔力を暴発させてしまう癖がある。
サリィさんの顔が頭にちらついた瞬間、気づくと、私は魔力を暴発させていた。
ルーペリオンを燃やしてしまった時も、そうだった。
魔力を制御している時に、精神的なゆらぎが発生すると、私の魔法は簡単に制御を失ってしまう。
そのせいで、サクラさんをも危険な目に遭わせてしまった。
カリブンクルスも、また、修理が必要になってしまっただろう。
私が関わると、やっぱり、周りの人は傷つくことになる。
私は、やっぱり彼らと関わるべきじゃない。
それでも……。
「……一緒に」
モモが持ってきてくれた杖を私はグッと握りしめていた。
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