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プレゼント選び

 


 メロティスの手掛かりがないまま、ついに十月になった。

 王墓の檻でメロティスが何をしようとしていたのかは、調べても調べても分からない。

 今分かっている奴の情報としては……。

 一つ、魅了の力が使える事。

 魅了は相手を自分の虜にして、言いなりにさせる魔法。

 二つ、洗脳。

 言葉巧みに人を騙し、洗脳してしまう。

 恐らくはその時に魅了の魔法で洗脳しやすくするのだろう、とクレイが言っていた。

 三つ、女の姿を好む。

 奴自身に性別のようなものはなく、あっても希薄らしい。

 人間と妖精の間に生まれた妖精の亜人。

 元は男だったというが、人間の女の肉体を取り込み、それを繰り返す事で性別はほとんどなくなったという。

 実に無茶苦茶だ。

 半分が妖精だからこそ、成せる技?

 四つ、目的は『妖精の国』へ行く事。

 これも恐らく、という予測の域を出ないが、奴は昔からそう口にしていたという。

 その為ならば、仲間をいくら犠牲にしても構わない。

 いや、そもそも仲間とさえ思っていないのだろう、と。

 確かに仲間だと思ってたら魅了だの洗脳だの、そんな事するはずもないもんな。

 五つ、今の姿は元王妃マリアベル。

 マリアベルを去年取り込み、その皮を得た。

 すでに中性となっていたメロティスは、マリアベルを取り込み、なんらかの魔法を完成させようとしているのではないか。

 この辺りの予想はツェーリさんのものだが、しかし、妖精の国へ行くだけで、何でそんなに色々準備が必要なのだろう?

 待っていれば『道』は開く。

 その道は五百年置きにしか開かないが……そう例えば……ヨハミエレ山脈を乗り越えれば『獣人国』にも行けるし、『獣人国』から更に南西を目指せば妖精の国『カンパネルラ』に行く事も出来たんじゃないか?

 人間や獣人でさえ越えるのが難しい過酷な山越え。

 簡単ではない。

 しかし、不可能でもない。

 事実、獣人は何体かヨハミエレ山脈を越えて『ウェンディール』に来てるらしいし。

 だったらてめーも勝手に頑張って山越えしてどこかでのたれ死んでくれ、と思う。

 人間を取り込んで殺してきた事を、妖精族は褒める事などしないだろう、との事だしな。


「ヴィンセントさん!」


 教室から出て、ミケーレがニヤニヤ……いやツヤツヤ輝きながらまとめた……俺たちの訓練結果、その分析報告書を他学年であるケリーたちにも見せねば、と移動してきた二年校舎。

 そこで真っ先に声をかけてきたのは真凛様ではありませんか〜!

 満面の笑顔で駆け寄ってくる姿は天使かな?

 あいも変わらず本日も天使のようにお可愛らしいです、さすがマオト様の妹!


「真凛様、どうかされたんですか?」

「ローナ様がお店のレイアウトで悩んでるそうなんです。今日の放課後、見に行きませんか?」

「! 是非!」


 なんという事だ!

 お手伝いを禁じられていたので店の進捗状況は分からなかったが、レイアウトという事は今月中には開店も不可能ではないのでは!?

 ……今月、今月ね。


「ところで今月お嬢様はお誕生日なんですが」

「『女神祭』の日ですよね! あ、そうだ、ヴィンセントさん、聞きました? ヘンリエッタ様が言ってたんですけど『女神祭』とローナ様のお誕生日が同じ日なのって、エディン様やケリーくんやクレイさんのルートで好感度が低すぎたら、ローナ様の方に行きやすくする為なんだそうですよ」

「え……そ、それは初めて知りました……。製作会社の悪意しか感じませんね」

「ね!」


 製 作 会 社 め 〜 !

 ではなく!


「あ、いえ、そうではなくて……ルークはちゃんとお嬢様のお誕生日パーティーの準備を進めているでしょうか? 最近忙しそうにしているので、ルークなら大丈夫だと思うんですが」


 その確認も兼ねて、二年の校舎には来る必要があった。

 ルークなら……あいつなら大丈夫だとは! 思うのだが!

 だがしかし!


「大丈夫だと思います。ケリーくんとハミュエラくんも手伝ってましたし!」

「あ、じゃあ大丈夫そうですね」


 ケリーが絡んでるなら問題なかろう。

 その点だけは圧倒的な安心感。

 ……若干ハミュエラが絡んでるところに不安を覚えない事もないが、あいつが祝い事に全力なのは知ってる。

 多分、また色々サプライズを画策している事だろう。

 祝い事のサプライズはハミュエラの右に出る者はいないだろうな。


「あ! それとですね」

「はい」


 他にも何か?

 廊下で立ち止まる真凛様。

 左右をキョロキョロと見回してから、俺に屈むよう要請される。

 はいはい、なんでしょうか。

 ……顔近いな。


「ローナ様への誕生日プレゼント、買いに行きたいんですけど……」

「……俺でよろしければ……?」

「ありがとうございます」

「……。なぜ小声で?」

「ハミュエラくんに聞かれると……まあ、その、ちょっと面倒な事になるので」

「…………」


 察した。

 ……何事も派手好きなハミュエラの事なので、誕生日プレゼントを買いに行くだけなのに面倒な事態になるのは想像に容易い。

 サプライズは得意な割に忍ばないのだから困る。

 逆になんで分かりやすく動くのにサプライズは上手いんだろう? あいつ。


「あ、あと、ヘンリエッタ様とケリーくんがそろそろ例のイベントじゃないか、って」

「……ああ、鳥の獣人ですね」

「はい。だから、二人で出掛ける時は気を付けろって。変な補正が入っても困るけど、そのイベントだけは必ずクリアしないといけないから二人で出掛ける時は尾行する、ってケリーくんが」

「…………」


 過保護……。

 い、いや、確かに俺のルートでもお嬢様に危害が及ぶらしいし、ケリーが付いて来てくれるのは心強い。かなり。


「じゃあ、今日の放課後は……」


 ケリーも付いてくるのか。

 という意味で濁す。

 にっこりと微笑む真凛様。

 うん、可愛い。

 可愛いからケリーが付いて来ても過保護でも鳥の獣人が襲って来たらぶっ飛ばす〜。


「今から呼んできますね」

「あ……今から……。分かりました。じゃあついでにこれを……」

「あ、ミケーレ先生がまとめた訓練の分析報告書ですね。分かりました!」


 今日の予定。

 お嬢様のお誕生日プレゼントを探しに行って鳥の獣人に遭遇したらボコる。

 ……これでいいんだろうか?

 いや、いいんだ、きっと。

 全てはお嬢様の為に!




 ***




 と、いうわけであっという間に放課後。

 ケリーはヘンリエッタ嬢と合流したら追い掛ける、との事なので先に徒歩でプリンシパル区に降りた。

 真凛様と。

 まずはお嬢様のお店に寄る……のだが……。


「!」


 店の中にはお嬢様、と……レオ!

 しかもなんか二人きりでは!?

 全面ガラスの店舗は、外から中が良く見える。

 白を基調としたテーブルとソファー。

 商品棚とカウンターは物がちらほらと置かれ始めており、二人がお茶を飲みながら書類を手に何か話し合っている。

 お嬢様は相変わらず無表情だが、俺には分かる……むっちゃご機嫌だ。

 レオもいつも通りニコニコしている。

 が、あちらもご機嫌。


「…………」

「……なんか、良い雰囲気……です、ね?」

「そう、ですね」


 多分、メグやアスレイ先輩は裏にいそうだ。

 でも、きちんと気を遣って気配を消しているのだろう。

 これは、困ったな。


「……先に買い物に行きましょうか」


 レオの笑顔が柔らかい。

 いつものほのほーん、としているが……質が違う。

 多分、あれが『好きな子の前で見せる笑顔』なんだろうな。

 お嬢様も無表情ながら背後にお花が飛んでおられる。

 あんな雰囲気に突っ込むのは野暮ってもんだろ、鈍器な俺でも分かるぜ。


「そう、ですね……。でも、どんな物を買えば良いんでしょうか」

「あ、もしかしてノープランですか?」

「えへへ……」


 まあ、貴族のお嬢様に贈る物となると難しいのは分かる。

 お嬢様に手に入らない物なんて、ほとんどない。

 ついでにかなり無欲な方でもある。

 だから……お嬢様が喜ばれるのはお花だろう。

 しかしただの生花では当然枯れてしまう。


「ドライフラワー……あとは」

「プリザーブドフラワーとか!」

「うーん……」

「あ……異世界にあるかどうか……」

「そうですね」


 正直プリザーブドフラワーは存在だけは知ってる……だけで、作り方までは俺も知らない。

 なんかの薬品に漬ける、とか?

 しかしその薬品がこの世界にもあるかどうか。


「え? あ、ああ、プリザーブドフラワーっていうのは……綺麗に咲いているお花をその状態で長持ちさせる事、かな? わたしの世界ではそういう加工方法があったんだけど、その方法はさすがに知らなくって………………え? ほんと?」


 突然の真凛様の独り言。

 あ、いや、エメリエラと話してるのだろう。

 ……女神エメリエラ。

 この世界の創生神、ティターニアの欠片から生まれた女神。

 クレースはエメリエラと契約して、百五十年程を少女の姿のまま生きた。

 死後、その集めた信仰により彼女をモデルにした女神プリシラが祀られるようになる。

 その信仰から、クレースは女神プリシラとして……復活した。

 ふむ、つまり……女神エメリエラは元々プリシラと契約していた、という事になるわけで?

 会わせる事って出来るんだろうか?

 あ、いや、エメリエラは当時クレースが呼んでいた自分の名前すら忘れているんだっけ?

 じゃあクレースの事も忘れてるんだろうか?

 ……地下で、独りで過ごしている姿を思い出すと……なんとなく旧友と会わせてやりたい気がするんだが……。

 記憶がないのなら、やめた方が無難、なのかねぇ?


「ヴィンセントさん、エメが魔法でお花の枯れる時間を遅らせられるって!」

「!」

「人は無理だけど、お花くらいなら出来るそうです。やってもらいませんか?」

「……そ、それは、すごい、ですね? え、ええ、それなら、そうですね……真凛様にしか出来ない、作れないプレゼントだと思います」

「はい!」


 ああ、いつの間にか話が二人の中でまとまっていた。

 そんな事が出来るのか。

 ん、いや、王家の『禁忌の力』の中にも『老化遅延』があったな。

 多分それ系の力か。


「では、花屋に参りましょうか」

「はい!」


 ……しばし二人きりにしてやろう、お嬢様、レオ。

 少しは進展してくれると良いんだが……どう見ても仕事の話なんだよなぁ。

 まあ、あの二人は二人で一緒にいる時間がきっと大切だと思う。

 寂しさもある。

 つーか、寂しくて堪らない。

 けど……二人には幸せになって欲しい、心から。

 だから、まずは花を選ぼう。

 お嬢様に贈る花を。


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