補正力パない。
「なかなか良い物が見付かりましたね」
「はい、良かったです!」
花屋で鉢のミニバラを選び、外区の方へと向かう。
魔法を使うからだ。
街中で魔法は、ちょっとな。
なので、あまり人気のない外区。
その中でも畑などがある地区までやってきた。
ここなら魔法を見られたとしても、さほど騒ぎにはならないだろう。
「そういえば、なんか戦闘イベントにお誂え向きな場所に来てしまいましたね……」
「あれ? 本当ですね? ケリーくんは……」
「えーと、予定と外れてしまったので多分いません」
げ、これちょっとまずいか?
相手は確か鳥の獣人×5。
クレイより身体能力が高い&飛行能力がある獣人とのバトル。
いくらリーダー格の一体を倒せば勝利条件が満たされるといっても……。
「戦闘……戦うイベント、なんですよね……」
不安げに瞳を揺らす真凛様。
言いたい事は分かる。
普段やってる模擬戦とも、ゲームの戦闘ともわけが違うのだ。
本気の、命のやり取り。
十六歳の彼女にそんな事を強いなければならない……この世界。
申し訳がないのと同じくらい、彼女に縋るしかない現実。
彼女が望まないなら……。
——でも、鳥の獣人イベントは『オズワルドのルートを『ハッピー』か『トゥルー』、どちらに傾くかの分岐点。
逃げるわけにはいかない。
というか、恐らく逃げる事は出来ない。
いや、だからこそ戦力に不安があるのなら今日のところは回避すべきかも。
「一旦戻ります……?」
へにゃ、と笑いかける。
だが、真凛様は真っ直ぐに俺を見上げた。
その瞳に宿る強さ。
「あの、もし……このままここにいてイベントが起きたら……わたしに構わず戦ってくださいね」
「え?」
「わたし、自分の身は自分で守ります。ケリーくんとヘンリエッタ様に考えてもらった作戦もありますし! ヴィンセントさんの邪魔にならないように、ある程度離れた場所でちゃんとサポートします。戦うのはやっぱり、怖いですけど……ヴィンセントさんの為にもローナ様の為にも……いえ、みんなの為にも、あの方の『トゥルーエンド』は絶対避けなければいけないんです」
真凛様……。
「……あの、嫌なら……嫌だと言ってくださっても構わないですよ?」
「大丈夫です! わたし、みんなが笑って終われるエンディングがいいです。だからもし、今戦闘イベントが発生しても逃げません。戦います」
「…………」
胸が…………痛い。
なんだろ、これ。
切ないような、温かいような……不思議な感覚だ。
「……俺も、みんなが笑って終われるエンディングがいいです」
「ですよね」
「はい」
ゲームの影響を受けた世界なら、そんなエンディングも目指そうとすれば目指せるという事か。
そんなの考えた事なかった。
ただお嬢様を破滅エンドからお救いする。
その為の破滅フラグは壊すなり回避すればいい。
けれど見方を変えるとそういう事なのか。
みんなが幸せなエンディングを、目指す事が出来る。
「……………………」
しかしヤダなー、ゲーム補正か?
踵を返そうとするとザッ、と足音が聞こえる。
……うん、ゲーム補正かな?
「ほう、こいつぁ……」
「この時間帯、人間どもは来ないと思っていたんだがなぁ」
「どうしますか、アニキ」
「決まってんだろ」
思ってたよりただのチンピラみたいな口調とセリフで現れた、そいつら。
腕は翼。
全身茶色の羽毛で覆われ、口は嘴。
脚は鳥独特の鋭い爪。
「野菜も飽きてきた。人間の血肉も興味がある。なにしろ、獣王が勝てばこいつらは俺たちの奴隷だ。女の味も見ておきてぇ……そろそろ派手に動いても良いだろう。手始めにこの町の人間どもを襲って、戦力を削っておく」
「へへ、ですよね」
情報通り、五体の獣人。
だが、その口振り……ああ、そうか。
そういう事だったのか。
なるほど……。
「真凛様はご自分を最優先に」
「え、で、でも!」
「リーダー格は確認しました。ご安心ください」
まあ、こうなったら殺られる前に殺る。
リーダー格の頭弱そうな一体ぐらいなら俺でもなんとかなる気がしてきたし……なによりちょっと、ぷちっと頭の俺で音がした。
「鈴緒丸」
「!」
鳥頭たちが驚いたように目を見開く。
手元に現れた黒い鞘を握る。
「……この町を、王都『ウェンデル』と知っての発言か?」
「あ? こんの小さな町が王都だと? ぎゃはははは!」
「聞いたか!? ここは王都らしいぞ!」
「ぎゃはははは! さすが人間! こんな小さな町しか作れないとはな!」
「魔法のようなもんを使えるのは驚いたが、しょせんは人間だ。まあ、それでも余計な戦力は削っておくに越した事はねぇだろう。“前回”はヤベェのが混ざってたって話だしな」
なるほど理解した。
やはり先遣隊のようなものという事だ。
鳥の獣人ならば、ヨハミエレ山脈を越えるのも難しくはない、という事か。
やってくれるな獣人国。
ちょっと姑息で驚いたが、この舐めた態度はこいつらを北京ダック辺りにすれば改善されるか?
いや、あんまり丸くないから唐揚げ……鳥丼、焼き鳥、鶏肉ソテー……んー、照り焼き?
「……お、おいテメー! なんか絶対失礼な事考えてんだろう!?」
「は? そっくりそのままお返ししますけど? そうですね、でも片足一本くらいならギリ北京ダックでイケる……か?」
「な、何言ってんだテメー!」
でもあんまり美味しくはなさそうだよな。
やはり醤油に漬け込んでソテーしてしまうか?
まあいい。
「貴殿らが先遣隊と自ら証言してくださいましたので……この国の一国民、リース家執事の一人として美味しく調理して差し上げますね」
「は?」
「え? え? ヴィンセントさん? しょ、食材扱い!?」
「不味そうではありますが、鳥という事は鶏肉でしょう? 冬場に備えて食糧は多いに越した事はございません」
「「「…………」」」
鳥どもが押し黙る。
顔がなんとなく青くなった気はするけど、まあ気のせいだろう。
だって羽毛に覆われてるんだし。
「それにご覧ください、あの羽毛! 羽毛は全て毟り取り、洗浄して乾燥、お嬢様のお布団にしてしまいましょう! 鳥の獣人五羽分でしたらダブルサイズくらいにはなるでしょうか? 鶏皮も美味しく調理致しますのでご安心ください」
「う、羽毛布団……!」
「き、貴様、に、人間の分際で……!」
「バカにしやがって!」
やはり鳥頭。
いい感じに挑発に乗ってきた。
バカめ、これで飛んで逃げる選択肢はなくなったな。
クレイが『獣人の亜人は血の気が多く、頭を使うのが苦手』と言っていたから、純血の獣人はどれ程のものかと思っていたが思っていた以上かも。
刀を引き抜く。
さて、食べる云々はともかく羽毛布団は自分で言ってて魅力的だな。
きっちり処理すればレオとお嬢様が結婚した後に使う羽毛布団として、献上出来るかも。
うん、良いな。
「丸裸にして差し上げますね、鳥頭ども」
「「「「「ブッ殺す!」」」」」
わあ、鳥頭らしい罵倒。
「ヴィンセントさん! 本気ですか!?」
「遭遇してしまったからには見逃せません。獣人が襲ってきたら亜人たちとの関係性も悪くなってしまうかもしれませんし、何よりあの羽毛は全部毟り取って然るべきかと」
「羽毛!?」
「あまり血が付かないように気を付けなければいけませんね」
「い、いえ、え!? 食材と素材扱い……!?」
不思議と負ける気がしないのだ。
本来のイベントがどうだか知らんが、ヘンリエッタ嬢こと、佐藤さんに『フラグクラッシャー鈍器』と新たな称号を頂いた俺に破滅フラグをへし折る実力があるという事は明白!
それに何より……ここには、町にはお嬢様とレオがいる。
とても良い雰囲気で、お嬢様がレオと結婚する為の足掛かりである店で仲良く話している。
そんな横でこんな奴らがその邪魔をしようとしている?
はあ?
ぶち殺すだろ、普通に。
「っ、鈴城さん」
「…………」
鈴の音。
それが、耳に残るような——。
その音で頭がスッキリしていくような……。
「はい……」
「わ、わたしの事は気にせず全力で戦ってください! わたしも全力でサポートします! でも、無茶はしないでくださいね」
「…………はい、分かりました」
鳥の獣人たちが浮き上がる。
翼をはためかせ、地上数十センチを維持してこちらを狙う。
ボスの鳥頭は中央。
生意気にもオレンジの服を着ている奴だ。
アレを倒せば勝利条件が満ちる。
飛ぶ相手に……有効な攻撃法。
「生意気な人間はミンチにしてやるぜ!」
そして羽毛を傷つけず、敵を無効化する——技。
「…………」
口許が笑う。
俺が笑ったのだろうか?
それとも、また奴か。
どちらでもいい。
すでに仕込みは終わっている。
鈴緒丸の鞘の底には仕掛けがあるのだ。
これは前回、アルトを襲ってきた奴らと戦った時に『思い出した』事。
地面にそれとなく付ける事で『魔法陣』を布くのと同じ効果がある。
意識的に雷蓮に支配された時、奴が刀を抜いた鞘を地面に傾けた……あまりにも自然で、それだけの事がまさか魔法補助の合図とは思わない。
恐らく五百年前、雷蓮と戦った奴らも気付かなかっただろう。
俺は奴よりも魔力の使い方が下手だ。
だから、鞘の底を地面に付けて発動させる。
「!?」
俺の属性は『水』と『闇』。
雷蓮の奴は『雷』と『闇』。
この世界において『雷』なんて属性はないはずだった。
だが、『鈴流祇の書 魔法の指南の書』によれば、著者である雷蓮は異世界から来た。
その世界にはこの世界にある魔法の属性……『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の他に『氷』と『雷』と『時』があったらしい。
で、俺はその魂を持っている。
なんでこの世界で死んで、真凛様や佐藤さんと同じ世界に転生して、更にこの世界に戻ってきたのかは分からんが……つまり俺はこの『ヴィンセント・セレナード』として、雷蓮には使えなかった『属性』も使えるという事のようなのだ。
——『アイツの方が化け物だっただけで!』
その化け物の記憶と記録。
五百年間脈々と受け継がれた全て。
クレースの血筋。
俺は俺の全てで戦う。
そして勝ち取る。
「真凛様!」
「はい!」
「な、なんだ!」
空に結界が浮かぶ。
トドメとばかりに「誇り高い獣人の皆様は逃げたりなどなさらないでしょうが、一応」と煽ってやると盛大に睨まれる。
戦巫女の結界で空を覆い、逃げ場を奪う。
これはケリーの考えた作戦。
万が一ケリーたちが尾行出来なかったりして、俺と真凛様だけで戦う事になった場合の。
時間稼ぎと、純粋に『勝利条件』のリーダーを逃さない為の処置。
そう、逃すわけにはいかない。
こいつに勝つのが、『オズワルドルート、ハッピーエンド』条件なのだから。
「鈴流祇流……天の組『薄氷』!」
逃げ場を奪った後、魔法剣術で浮いた奴らの動きを更に制限する。
薄く氷の張った地面。
俺の『水属性』を応用した『氷』の魔法。
魔法の書に技の名前と詳細が載っていたので練習した。
「は? なんだこれは」
「地面が霜に?」
「ふん、こんなもの……」
嘴と目が開く、リーダー格。
『薄氷』はただの補助だ。
先程も言った通り逃がさない。
そして、まんまと、よりにもよってリーダーが爪で『薄氷』を突きやがった。
ばぁかめー!
「んなぁ!」
一瞬で『薄氷』に付けた足が氷で覆われる。
上は真凛様の結界。
下は俺の魔法で作った、触れた瞬間触れたものを捉える『薄氷』。
他の奴はともかくお前が真っ先に引っかかってくれてとても助かる。
お前だけは肉や羽毛云々以前の話。
「鈴流木流、抜刀術、地の組……滝登り!」
「——!?」







