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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園三年生編

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クレイの魔力検査



 さて、巫女殿の歓迎パーティーもつつがなく終了し、翌日はクレイを学園側の魔法研究所に招いて魔力適性検査が行われる。

 呼び出された、及び自主的に集まったのは俺とケリーとスティーブン様とエディン、ライナス様、そして巫女殿とレオだ。

 レオは今日、朝から何やらぼーっとしているんだが寝不足だろうか?

 そりゃ、普段からわりかしぼーっとしてるやつではあるが、いつものぼーっとは少し違うような?


「レオハール様、体調でも悪いのですか?」


 さすがに魔法研究所の玄関の前まで来ると心配になって声をかけた。

 すると何やら目線を泳がせながら、顔を赤くして「そんな事ないよー」と否定する。

 そうか? それならいいんだが……いや、ほんとにそうか?


「どうせ今から緊張しているんだろう?」

「うっ」

「ヴィンセント、違うのですよ。レオ様は昨日、ローナ様をお出かけに誘われたのです」

「なんですと!?」

「い、いつの間に!?」


 それを聞いて驚いたのは俺とケリーだ。

 まあ、巫女殿も少し驚いていたが、連れて来たクレイの目の見開き具合よりは幾分マシ。

 ……うっ、クレイを見ると胸が痛む。

 あれ、絶対ショック受けてる顔じゃん。


「私とエディンがばっちりお膳立てをして逃げ場を塞ぎましたから!」

「ううう……」

「大体、出会った時に一目惚れをしてそれから何年だと思っている? さすがに待たせすぎだろう」

「…………。え!? 僕一目惚れだったの!?」

「…………。……やはり心配だ。スティーブン、お前本当に来ないのか?」

「そ、そうですね、私も今のでだいぶ不安が増しました。ライナス様、再来週の日曜日、レオ様がローナ様とお出かけされるんですが、私たちもご一緒しても良いでしょうか……」

「? それは、再来週にプリンシパル区のクッキー専門店とやらに行く話か?」


 え、何そのおしゃれなデートコース。

 ライナス様の口から思いもよらない……いや、こほん、似合わないとは言ってないがあんたが言うとは思わなかったというか。

 俺が聞き耳を立てていると、ケリーも「ああ、最近出来て、令嬢たちに話題の店ですか?」と会話に突っ込んできた。

 なん、だと……うちのケリーも……知っている、だと!?


「へえ、そこへ行かれる事にしたんですか?」

「俺が薦めたんだ。ちょうどその日は俺もマーシャを誘ってその店に行くから、ついでについて来い、とな」

「…………過保護すぎませんかアンタ」

「いや、今の発言聞いて本気でそう思うか?」

「……まあ、それは、まあ……」


 ケリーが目を逸らした。

 つーか、エディン、今テメェなんと言った?


「エディン様、うちのマーシャとなんですって?」

「……あと過保護で言うならそこのシスコンの方が絶対に過保護だろう」

「誰がシスコンだ! デートだと!? そんなの許さんぞテメェ!」

「すでにローナとマーシャには承諾済みでついでに婚約者同士が出かけるのに貴様の許可など必要あるか? ないよな?」

「いや! ある! 俺はマーシャの義兄だからな!」

「ヴィ、ヴィニー、それは俺でもウザいと思うぞ」

「なんでエディンの味方するんだケリー!」

「いや、客観的に見てそれはウザい」

「んなっ!?」


 ケリーに裏切られた……!


「では俺たちもレオハール様とディリエアスのデートについて行くのか? そ、それは、その、良いのか? スティーブン。いや、俺はもちろん構わないのだが……」

「エディンはともかくレオ様はローナ様が絡むとこう、積極性が足りないというか……ストレートに言いますとポンコツヘタレになると言いますか」

「ポン……!?」


 スティーブン様が容赦なさすぎてレオが涙目。


「ふーん、再来週の日曜なら俺もヘンリエッタ嬢と出かけようかな」


 などと言っているが俺には副音声が聞こえた。

『俺もレオハール様のケツ叩きに行こうかな』……的な副音声が。

 つーか、それはもうみんなでお出かけであってデートではないのでは……。

 あ、クレイと巫女殿が一番後ろで呆気にとられてる。

 しまった、飲み会で急に呼び出されたものの知り合いが一人しかいない高校時代の友達みたいになってる。


「すまん、うるさいか?」

「……いや、別に。なんというか、賑やかだな。いつもこうなのか?」

「まあ、いつもこうだな。そしてハミュエラ様がいないのでまだ静かなぐらいだ」

「あ、ああ、あいつか……そ、そうか、そうだな」


 去年の『女神祭』でメグがかっ攫われてったからな、ダンスで。

 それを見ているから、クレイも納得。……らしい。


「巫女様は、クレイと何か話されましたか?」


 俺たちが放置している間、何かしら恋愛イベント的なものは……ないと思うけど一応確認をな。

 昨日のパーティーで熱心にクレイが巫女殿に『従者』にしてくれるよう頼んでいたのは見たけれど……。

 ああ、あと踵は大丈夫だろうか?

 昨日帰ってから、手当はきちんとしたか?


「あ、いえ、皆さんが楽しそうなので、お話を聞いてるだけで楽しかったです」


 ……そんなに面白い話はしてないと思うんだが……。

 巫女殿の満面の笑みは嘘をついているようには見えないしなー……。


「ああ、それから、昨日の怪我はちゃんと手当てされましたか?」

「はい、エメに治してもらいました!」


 …………ん?


「え? それはどういう……」

「あっ! いやそのえーと……、……あれ、あの人は……」


 まあ、そのようにわちゃわちゃしていると魔法研究所の受付カウンター前にたどり着く。

 普通に歩いてりゃこんなにかからないんだが、だべってるとどうも歩みも遅くなるものだ。

 そのせいなのか、待ち構えていたミケーレの顳顬こめかみには青筋。

 巫女殿が指差したその人物の様子に、全員が「あ……」となる。

 やば……。


「五分遅刻ですよ皆さん」

「ご、ごめんミケーレ」

「まあ、良いでしょう。……ケリー様がいるので深くは追求致しません」


 どういう事なのそれ。

 ちら、とケリーを見る。

 それに気付いてにこりと微笑まれる。

 ……あ、こいつろくな事してない……。

 つーか、王子のレオが謝ったからとかではなく、ケリーがいるから深く追求されないのは、深く突っ込むべき?


「それより、まずはクレイ様に魔力適性検査を受けて頂きましょう。……本当なら巫女様にも色々検査を受けて頂きたいところですが……」


 ちら、と見てくるミケーレへ、ケリーがにこりと微笑むとミケーレが顔面を青くする。

 俺も例の誓約書をちゃんと持ってきているので、ジャケットの裏ポケットへ手を忍ばせた。

 それを見てミケーレが力なく『にこ……』と微笑む。


「…………それはまたいずれ……。クレイ様、魔力適性検査と属性検査は室内で行いますのでこちらへ。巫女様たちは表の方でお待ちください。クレイ様をご案内した後、手順などをご説明しますので魔法が使えるかどうか、実験してみます」

「という事らしい。良いかな、巫女」

「はい」


 ミケーレの説明に、レオが巫女殿へと確認を行う。

 やや緊張の面持ちで巫女殿が頷くと、レオも頷く。

 クレイは検査でミケーレについて行くので一旦お別れ。

 魔法研究所の奥に広場があり、そこが訓練用の庭らしい。

 こんなに奥まで来たのは初めてだな。


「で、ケリー……お前ミケーレに何をしたんだ?」

「人聞きの悪い。盛大に貸しを作ってやっただけだ」

「…………」


 詳しくは教えてくれないのか。

 つーか、物理的に黙らせてもまだ暴走しがちなあのミケーレを精神的に黙らせるとか、ケリー恐るべし……。


「キャクストン家の『クレーテル』受け入れの事か?」


 俺がさて、どうやってその方法を引き出すものかと思っていたら、ライナス様が入ってきた。

 ん? 『クレーテル』?

 ノース地方の首都、ベッグフォード家本家がある『クレーテル』か?


「どういう事ですか? ライナス様」

「リースに頼まれてキャクストンの家族を最北端の氷山地帯から呼び寄せたんだ。あの地は罪人の家族などが送られる、この国で最も過酷な場所だが……キャクストンは魔法に関して功績が大きいから、もう良いだろうとされてな。リースが陛下に許可も貰ってくれたので、『クレーテル』へ住む事を許可して受け入れる事になったんだ。その話ではないのか?」

「あーあ、ベッグフォード様ベラベラ喋りすぎですよ」

「え、すまん?」


 ……?

 罪人が流刑される地。

 ノース地方最北端『氷山地帯』。

 それは俺も知っている。

 だが、ミケーレの家族がそこにいる?

 一体どういう……。


「ヘンリに聞いたんだが、キャクストンの祖父は兵器を研究していたそうだ。それが危険なものとされ、反乱を企てた罪で一族もろともノース地方の氷山地帯へ送られた。そこからキャクストンはアミューリアへ通える程に勉学に励み、様々な功績を残して男爵の地位と苗字を得たんだとさ」

「!」

「だがゴヴェスは氷山地帯に残った家族や研究を盾にキャクストンを脅して色々非合法な事をやらせていた。その辺りはリセッタ宰相と調整したし、面倒事は全部ゴヴェスに被ってもらってスッキリしたわけだが……」

「しれっととんでもない事言ってるな?」

「まあ、そんな感じで奴は俺にとても大恩があるわけだ」

「…………」


 にっこりと。

 ドス黒いキラキラが周囲に散りばめられて輝いているケリーのその笑顔たるや……!


「良く分からないが、キャクストンがノース地方の民だと知った時は親近感が湧いて嬉しくなったものだ」

「おっふ……ライナス様……スティーブン様に色々教わった方が良いです。色々」

「ん? どういう事だ?」


 この人の未来が心配でならないーーーー!


「ヴィニー、ケリー、ちょっと良い?」

「「はい、レオハール様」」

「とりあえず今日の実験、適性が高い僕らが『従者石』を持ってみる、という事になったんだ。巫女」

「はい、あの、これ、です」


 ライナス様とスティーブン様は見学。

 ミケーレが来る前だが、従者石を巫女殿から預かる。

 これを正式に譲渡された者が『従者』となるわけだが、今日はお借りする形。

 手渡されたのは丸い濁ったような黄緑色。

 なんか急須で入れた緑茶みたいな……。

 あれ、従者石って、こんな色だっけ?

 ケリーの方を見るとあちらは群青色。

 ん? レオの手のやつも青いな?

 あれ? 俺だけ


「って、ええ!?」

「!? レ、レオハール様? どうかされたんですか?」

「なんでもないなんでもないなんでもない!」

「いや、絶対なんでもなくないでしょ……、……巫女様?」

「な、ななななななんでもないですなんでもないですなんでもないです!」


 ケリーと顔を見合わせる。

 なんだ? 絶対なんでもなくないよな?

 この二人がなんで慌てるんだろう?

 少しジッと見つめると、巫女殿は顔を少し赤くして逸らし、レオは目がものすごく泳ぐ。


「なんなんだ……?」

「エメリエラ様に何か言われたんだろうか?」

「…………」


 ああ、なるほど。

 誰も話していないのに、レオが突然声を上げたのはエメリエラの声に反応したからなのか。

 …………。

 いや、何を言われたんだ、何を! ただひたすらに気になるじゃねーか!




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