ひと段落つきました。
その後……約1ヶ月をかけてオークランド家は取り調べを受けた。
ゴヴェス、並びにダドリーは貴族の地位を剥奪され追放。
最北端の地でベックフォード家が身柄を預かり平民として生活する事になったそうだ。
好き放題に偉ぶってきた奴らには慣れるまで相当の時間を要する事だろう。
アリエナとサクレットは母親、メシェルの実家に引き取られる事になった。
しかし、2人共アミューリアへの通学は認められず、サクレットは入学不可。
もし再び通学、入学したいのなら伯爵家以上の家に使用人として仕える事が条件とされた。
うちのお嬢様はアリエナとサクレットに「我が家の使用人にならないか」と、持ち掛けたがアリエナに強く断られてしまう。
これ以上惨めな気持ちにさせるなと、泣き叫ばれてしまったのだ。
最終的にはヘンリエッタ嬢の家に2人共使用人として雇われる事になったが……アリエナは一度ぶっ叩いたアンジュの部下という事になる。
……それはいいのかなぁ?
「ルーク!」
「ケリー様〜!」
そして、まあ、驚くべき新事実が判明した。
ケリーとの約1ヶ月ぶりの再会に盛大なハグをかます俺の義弟は、なんとエギルズ・オークランド元侯爵の息子だったのだ。
つまり……ゴヴェスと! 異母兄弟!
エギルズ様は妻と40年添い遂げた。
奥方に先立たれた彼は、亡くした妻の若かりし頃と瓜二つのロズというメイドに一目惚れする。
必死に、そして丁寧に彼女を口説き続け、婚約を取り付けた時、彼女は突然エギルズ様の前から姿を消してしまう。
妊娠したのだ、ルークの事を。
彼はそれを喜んだが、息子のゴヴェスからすれば冗談ではない事だったのだろう。
ま、まあ、気持ちは分からんでもない……。
歳の差40歳近い弟が出来るとか、俺から考えても「まじか親父」と思う事だろう。
ドン引きだ!
しかし、なにも身重の女性を追い出す事もないだろうに。
エギルズ様は大層嘆かれ、大人しく隠居生活に身を投じた。
が、今回の事件。
そして、ルークとの運命的な再会。
オークランド家はお取り潰し確定となり、南の領主はセントラル南の伯爵家の一つセレスティ家に委ねられる事になりそうだ。
スローズ家は、まあ、ほら例の、彼女が、ね?
だが、急に領主家となるのはなかなかに難しい。
ので、しばらくの間はエギルズ様がオークランド家の当主に戻り、セレスティ家に指南や助力、助言を行い引き継ぎをするとの事。
まあ、そうだよな。
で、ルークなのだが……セレスティ家の方で是非引き取らせてほしい、と申し出があった。
そりゃそうだろう、何しろ正当なオークランド元侯爵の息子だ。
『記憶継承』の発現も著しい。
まあ、本人がどうしたいかというとーーーー。
「ルーク、復学おめでとう。それで? セレスティ家とはどうする事にしたんだ?」
「お断りしました! ぼく、ケリー様の執事になります!」
「……………………」
「あれ? ケリー様?」
……頭を抱えて天を仰ぐケリー。
む、難しいところだな、うん。
嬉しさ半分、マーシャや俺と同じ結論に達したルークへの頭痛半分といったところか。
「まあ、セレスティ家にはリニム嬢がいるしな」
「はい!」
「来年入学、でしたか? マーシャと同級生ですね」
「そうなるな。……しかし、来月末にはいよいよ『戦巫女召喚』かぁ。実感が湧かないというか……本当に可能なのかねぇ? 異世界から人を召喚するなんてさ」
「その前にレオハール様のお誕生日がありますよね? お義兄さん、パーティーの方は……」
「今年も自粛だとさ。同盟締結の三連ちゃんパーティーで貴族たちも本来の予定より予算を使っただろうからって。来年は同盟締結日が祝日になるからその予算は取っておくので出来るはずとかなんとか……」
「殿下、自分の誕生日蔑ろにしすぎじゃないか?」
俺もそう思います。
あいつ、王太子のくせに「予算が……」とか「貴族の負担が……」とか気にしすぎなんだよな。
まあ、魔法研究所の支援してたオークランド家がなくなるもんだからその分の予算調整も必要らしいけど。
他にも今回の件でセントラル南の領主が変わる。
引き継ぎ以外にも、色々手続きやらなんやら面倒なことがたくさん起こるのだ。
主に……セントラル南の権力抗争は大きくそのあり方を変えつつある。
頼むから戦争が終わるまでは大人しくしていてほしい。
……それに、メロティス。
陛下にマリアベルの事を告げたらまーたしょげ始めてしまったらしいのだ。
レオが近いうちマーシャをお城の晩餐会に招待したい、陛下が仕事出来なくなってるから……とやや疲れた目で言っていた。
もう、ほんとあの陛下……あの陛下〜〜……。
「ま、なんにしても来年からは清々しい生徒会で働けるな〜」
「……そういえばケリー様」
「⁉︎」
「⁉︎」
「……ずいぶん好き放題、色々“仕込まれて”おられたそうですねえ?」
「…………………………。……ルーク、走るぞ」
「え! は、は、はい⁉︎」
「待てやごるぁあぁ! ケリー! お前〜〜! 全部スティーブン様に聞いたぞ!」
聞き出すのに1ヶ月も掛かった!
例のケリーとアルトが参加した重要会議から、俺とライナス様……は元々アレだったけど……レオを抜かしてエディンとスティーブン様の3人でそりゃあ色々手回しをしていやがったらしい。
マーシャの髪留めをアリエナたちの手に渡るよう画策して、スティーブン様伝でベティア嬢がそれをブローチに加工するように勧めたり!
ダドリーの悪さの証拠集めと称してデューイ・オルコットが騙されたところを周囲の人間たちと静かに見守ったり!
ミケーレが魔法研究所で働けなくなるぞ、とゴヴェスに脅されて血石を持ち出して研究してみたり!
その現場を複数人の研究者たちとともに目撃してみたり!
魔法に関する情報をゴヴェスがミケーレから奪い取ってメロティスに渡していた証言をとったり……あ、これはまあ、いいや。
じゃなく!
ヘンリエッタ嬢がミケーレに懇願されて墓地に行ったのを知っていたくせにミケーレの事を伏せてルークがヘンリエッタ嬢を連れて行った事にしてみたり!
まあ、ここは実際ルークが血石を『血石の間』から取ってミケーレに渡していたりしてたみたいなので、何とも言えないけど。
ヘンリエッタ嬢をミケーレと共に墓地に連れて行ったのもルークだったみたいだし。
いや! だがしかし!
他にも他にも!
挙げたらきりがない!
「ふははははは! 全然気付かないお前が悪い!」
「ざけんなテメェ! 血石に関しては本当テメェ!」
「あ、まあ、それに関してはまあ。俺が悪かったけど、でも仕方ないだろう! あの石なんだろ〜? って感じだったんだから! ミケーレが調べてたし、あとでわかると思ったんだよ!」
「だからって! だからって!」
「いーだろー、別に! 少なくとも義姉様はレオハール殿下と婚約がほぼ内定。陛下とルティナ妃にも認めてもらった! あとは『星降りの夜』を待つばかり! 亜人族の過激な勢力のリーダーは姿を消し、クレイによって勢力は縮小、間も無く根絶されるだろう! オークランド家は失脚! 生徒会は平穏な日々を取り戻しましたとさ! めでたしめでたし〜」
だが、行方不明になったメロティスの目的、所在は未だ不明のままだ。
マリアベルと血石を取り込んだ奴がどうなってしまったのか……その辺りはミケーレが「仮説の域を出ない」とした上で「恐らく……彼は女神になるつもり」と言っていた。
馬鹿な、不可能だ。
そう思ったが、奴は妖精の血と女神と契約した血、そして女の体を手に入れた。
これらを繋ぎ合わせると「女神」になれる。
……かもしれない。
そう、まだ憶測、仮説の域。
女神は精神体。
肉体は持たない為、肉体を持つメロティスが女神になることなど不可能なんじゃ……。
ただ、“馴染むのを待つ”とも言っていた。
正直いやな感じしかしないんだよなぁ、アイツに関しては!
……まあ、メロティスがいなくなった事で、奴に見捨てられたと悟った亜人たちはクレイの元へ戻っていったらしい。
もちろん、全員が、ではない。
その約半数は、といったところだ。
クレイの両親は未だ「人間の国を奪う」思想を持ち続け、同志たちと共にサウス区の方へと引き上げていったらしい。
態勢を立て直しつつ、戦後に備えるつもりなのだろう。
サウス区も亜人と同盟締結を傘に、彼らの勢力は敵ではないと主張。
……実際、勝者が獣人や人魚ならサウス区と結託している亜人たちの存在は防衛上心強いのは確か。
その思惑はともかく、戦力的にはありがたいくらいだ。
クレイが正々堂々ウェンディール王国と同盟締結したので、むしろ彼らもやりやすいだろう。
……腹の中はともかく、という事だ。
そしてクレイは、同じく戦後を見据えて北方に居を据えたもう一方の勢力……熊の亜人ズズという奴に、サウス区に移動して勝者が獣人、人魚だった場合の防衛を頼むと使者を送ったらしい。
ズズはクレイとの長の座を争う決闘に敗北後、それでも人間への復讐を諦めきれず北へ仲間と共に移動して力を蓄えていた。
……そんな奴が果たして防衛に協力してくれるのか……難しいところではあるだろう。
「全く。今度こういう事をやる時は俺にも相談しろよ! フリじゃなく!」
「あ、じゃあ早速一つ相談していいか?」
「へ? お、おお、なんでも相談しろ」
グリグリ、ケリーの頭を拳で突く。
しかし全く動じない。
それどころか、そんな可愛い事を言ってくる。
な、なんだよー、仕方ないなー、なんでも言えよー、全力で力になってやるからー。
「俺、来月の『星降りの夜』にヘンリに婚約申し込むことにしたから。手続きの準備よろしく」
「……………………?」
…………。
……………………?
え? 俺今なに言われたの? はへぁ?
「え? え⁉︎ へ、へ? へへへへ、ヘンリ? ヘンリってまさか?」
「ヘンリエッタ・リエラフィース」
「マ、ジ、か⁉︎」
「マジだよ。あんなからかい甲斐の塊みたいな……ンン、……面白い女子滅多にいないからすっかり気に入った」
「…………ケ、ケリー? お前……え?」
「いや、普通に? うん、普通に好きだぜ? 面白いし? 面白いし」
面白いのは分かった!
他に! もっと! あるだろう⁉︎
「ケリー様! ご婚約を申し込まれるんですね! ぼくも手続きの準備お手伝いします!」
「いや、お前は来年3月の俺の誕生日パーティーの準備最優先で頼む。……俺の執事になるんだろう? 励めよー?」
「は、はい!」
「…………」
マ、マジかケリー。
い、いや、ええ?
俺何にもしてないんだけど……。
何にもしてないのに……ケリーはヘンリエッタ嬢を……選んだのか。
「…………。まあ、いいか」
元々ケリーには是非ヘンリエッタ嬢と結婚してくれ! と思っていたわけだし。
…………そうだよな?
ケリーがヘンリエッタ嬢を選んだって事は、だ。
ケリーのルート、破壊完了?
「おっしゃあ! よくやったケリー!」
「え? お、お義兄さん⁉︎ どうしたんですか、突然!」
「落ち着けルーク。ヴィニーの恋愛数値の低さを思えば今更のこの反応はむしろ妥当だ」
「う、うぐぅっ、や、やめろマジで……ほ、本気でへこむ……」
こ、声が震えてしまう……。
その恋愛数値の低さとか恋愛に関する鈍さとか、自覚しただけ成長しただろう? なあ?
ヘンリエッタ嬢にはそういう意味、とても感謝している。
ケリー、お前なら彼女をきっと幸せに出来るよな?
俺には……無理だけどさ。







