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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。【WEB版】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
アミューリア学園二年生編

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ラスボ…いや、戦巫女召喚!【前編】



「では、始める」



王の声に完成したての小ホールはぴりりとした緊張感に包まれる。

大きく床に描かれた魔法陣。

12月26日……星降りの夜。

場所は王城、ダンスホール(小)。

時間は早朝……6時。

玉座には国王バルニール。

巨大な魔法陣から、ミケーレが離れた場所にいる俺たち……レオ、エディン、ケリー、俺、クレイの方へ駆け寄ってくる。

魔法陣の中心には魔宝石が置かれ、レオが「エメ! お願い!」と声を掛けると光を増し始めた。

そう、いよいよ……戦巫女召喚の儀が始まろうとしているのだ。


「本当に上手くいくのか?」

「うーん、ここから先はエメに任せるしかないんだよね。まあ、失敗したら魔法はナシで頑張ろう」

「そこは私を信じて任せようと言っていただけませんか、レオハール様」

「あ、そうだね、ごめんねミケーレ」


変に拗ねたミケーレは、しかしワクワクした顔で光増す魔法陣の方へと視線を向ける。

うーん、俺……『フィリシティ・カラー』は一回しかプレイしてないけどこの絵面は『違う』気がするー。

クレイはメイン攻略キャラではあるものの、ネタバレでは戦巫女との出会いは殺伐としたものだったはずだしミケーレなんて隠れキャラだ。

この場にいる事自体論外のはず。

やはり俺がプレイしていない続編……。

参ったなぁ、と腕を組みつつ魔宝石から流れた光が魔法陣を凄い速度で回転していくのを見守る。

とは言え、現状……今夜の学園ダンスホールで行われる『星降りの夜会』でレオがお嬢様に婚約を申し込むのは確定済み。

戦巫女が半端ない美少女で、乙女ゲーム補正を纏った化け物級のラスボスでなければこの現実は覆すことが出来ないはず。

そもそも、ヒロインは攻略対象を“攻略”しなければならないのだから過程をすっ飛ばしてこの場の全員を『魅了』して『一目惚れ』なーんて事にはならない……と思う、多分。

まあ、俺はケリーに「鈍器」と言わしめるほどその辺鈍いので?

例えこの場の全員が魅了されて『一目惚れ』して今夜の『星降りの夜会』でプロポーズを見送る、なーんてオープニングからクライマックスみたいな事になったとしても俺だけはその「鈍器スキル」で『一目惚れ』は免れるだろう、多分。

……つーか、そんな恐ろしい事になったらどうしよう……。

い、いや、レオの場合は年季が入ってるしエディンはレオの妹であるマーシャを……あとついでにあいつもヒロインの1人だし……蔑ろにするとも思えない。

ケリーだって中身はガキだが男前だし、クレイは戦巫女に攻略されてもお嬢様になんら影響はないしミケーレも同様。

そ、そうだ、大丈夫、なはずだ。


「…………」

「どんな娘が来るのかな〜」

「確かに娘と限定されていると思うと多少心が躍るな」

「最低かよ死ね」

「クズ野郎め殺すぞ」

「…………」

「ワア、私以外でヴィンセント君とケリー様が扱いを雑にする人が他にもいたんですね〜」


耳をへたらせるクレイ。

微笑ましいものでも眺めるかのようなミケーレ。

レオは苦笑い。

俺は戦々恐々なんだよ。

なにしろ…………始まるのだ。



「!」



魔法陣の光がどんどん増していく。

まるで竜巻のように光がぐるぐると回り、広がり、縦に伸びていった。

周囲には蝶のような形の光が飛び散り、轟々と音を立てる。

眩しい。


乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』……俺の知らない、恐らく続編の物語が……!




「…………!」


キラキラ、キラキラ……。

眩しい光がカッ、とダンスホールを埋め尽くす。

思わず腕で顔を覆う。

光は一瞬だけだった。

ゆっくり腕を外す。

魔法陣の中には、白いコートを着た……女の子が座り込んでいた。

……こ、この娘が……戦巫女。

髪の毛はボブヘアー。

毛先はやや桃色。

白のコートに、ショートブーツ。

ここからだと後ろ姿なので顔は見えない。

でもなんか雰囲気がすでに可愛い。

い、いや、俺は負けないけどな!


「……成功した?」

「……の、か?」


レオとエディンもポカン、と少女を見る。

少女はゆっくり、辺りを見回し始めた。

状況を確認しているのだろう。


「……レオハール様、彼女に説明を……」

「あ、そうだね」


俺が促してレオが彼女へと歩み寄り始める。

チュートリアルは任せた! レオ!


「お手をどうぞ」

「!」


レオが優しく声を掛ける。

俺たちも顔を見合わせて、近づいてみる事にした。

陛下はまだ、戦巫女が召喚された事に驚いている。

ちなみにミケーレは両手をバンザイさせたまま口を開いて固まっている……こ、これはこれでヤバいな⁉︎

な、なんか意識を取り戻したら彼女が危険な目に遭いそう……。

気を付けておかねば……!


「言葉は、分かるかな?」

「は、はい!」

「立てる?」

「……あ、ありがとうございます」


レオの差し出した手に掴まり、少女が立ち上がった。

不安げに揺れる瞳は薔薇色。

うん。



可愛いな。



「ヴィニー?」

「は、はい!」

「どうした? 急に立ち止まって」

「どどどど、どうもしないです」

「なんで敬語?」


ケリーに怪訝な顔で見られるが、え?

戦巫女可愛いよ?

可愛いよな?

なんでお前らは平然としてるんだ?

ええ?


「あ、あの、こ、ここは……? わたし、電車に乗ろうと……」

「デンシャ?」

「え、えーと……、……あ、あの、ここはどこでしょうか?」

「ああ、すまない。ここは『ウェンディール王国』……いや、違うな……この世界は『ティターニア』と呼ばれている。僕はこの国の王太子でレオハール・クレース・ウェンディール。君の名前を聞いてもいいかな?」

「あ、は、はい! ……え? 王子様……? ……ん、んん、ええと、わたしは昊空真凛そらからまりんと申します。は、初めまして……」

「はい、初めまして」


どことなくレオと雰囲気の似た少女……戦巫女の名を、ソラカラマリンというらしい。

変わった名前だな。

日本語、っぽい。

日本人か?

となると、ソラカラが苗字?

マリンが名前かな。

うむむ、名前も可愛い。

見た感じ普通の女の子。

白いコートの下にはピンクのセーターに赤いチェックのスカート。

黒のニーソックスと、白のブーツ。

完全冬仕様だが、絶対領域とかすごい何十年ぶりに見ただろう……⁉︎

ま、眩しい!


「君の意思も確認せずに召喚してしまった事、まずはお詫びさせてほしい。本当に申し訳ない。けれど、僕らには君の協力がどうしても必要だったんだ。それだけは、理解してくれないだろうか?」

「……しょ、召喚……?」


…………。

ゲームの冒頭と、違う。

俺の記憶の中のゲーム冒頭は、もっと殺伐としていた。

救済ノートにも一応メモっていたが、まず国王バルニールにめちゃくそ上から目線で「戦争に協力しろ! しないなら用済みだ! どこへなりと勝手に行け!」と言われる。

戦巫女は異世界人。

言葉は『魔宝石』で自動通訳される為、魔宝石を手放してしまうと外国と同じ状況。

そんな状態で放り出されそうになり、困り果てているところにレオが割って入る。

とりあえず、彼女を休ませよう。

そう言ってまず状況の説明を行うことを提案し、暖かな別室に連れて行くのだ。

そこで食事と飲み物でまったりしつつ、レオにチュートリアル説明を受け、今後の事を決めようと言う時に確か悪役姫マリアンヌがバーン! と扉をけ破る勢いで登場。

お前なんか馬小屋や納屋で十分よー!

と、高笑いしながら戦巫女を追い出そうとする。

確かそんな流れだった。

…………。

い、今思うとなんて恐ろしいところなんだ『ウェンディール』……。

勝手に召喚して、意にそぐわないなら出て行け! 平民なんだから納屋にでも住め!

と、とんでもねーな。


「…………レオハール」

「はい、陛下」

「あとは任せる。戦巫女の面倒はお前が見ろ。しかし、必ず戦争には協力させるように! その娘が要となるだろう」

「はい、誠心誠意ご理解頂けるようお話しいたします。陛下は少しお休みください」

「……うむ」


……陛下、マリアベルの事でドへこみしてると聞いたがガチへこみじゃねーか。

しょーもねーなあのおっさん……。

よろよろ……いやもうヨボヨボと立ち上がり、横に居た騎士に寄り添われて玉座裏の扉から出て行く。

だ、大丈夫なのか、あんな調子で今夜のダンスパーティ……。


「陛下、今夜の城のパーティーサボるつもりだな」

「っぽいですね。まあ、学園に押し掛けられるよりはましでは?」

「「確かに」」


エディンとここぞとばかりに意見が合致。

あの人前科があるからな、それに関して!

城でパーティーがあるのにそれすっぽかして学園の方に来る陛下とかあっちゃならんだろ。


「王さま……」

「そう、君の国には……王はいないの?」

「は、はい。総理大臣なら……いるんですけど……確か総理大臣も天皇さまよりは偉くなかったような……?」


ああ、ガチで日本人だ。

……懐かしいな、総理大臣とか、天皇陛下とか……。

ヘンリエッタ嬢と話した時のような、懐かしい感覚。

故郷を思い出す。

それがこんなに胸を温かくさせるなんて知らなかった。


「ソーリ? ううん、大分文化が違うようだね……」

「レオハール様、まずはマリン様を別室でおもてなし致しましょう。お食事とお茶はご用意してございますが、お腹の空き具合はいかがでしょう?」

「え? あ、わたし、ですか? お腹は……す、空いてます」


やや俯き、顔を赤くしながらもきちんと答えてくれる。

うーん、良い子!

素直だな〜、可愛いな〜。

……ハッ! ち、違う違う!


「申し遅れました、私はヴィンセント・セレナード。リース伯爵家の執事見習いをしております。こちらは私のお仕えするリース家の跡取りでケリー・リース様。あちらのクズ野郎がエディン・ディリエアス様。公爵家のご子息です。その隣にいるのがクレイ。彼は亜人族と呼ばれる者たちの族長ですね。その横の変態に関しては見なかったことにしてください。危険ですので」

「ふ、ふぉわ?」

「言いたい放題だな」

「まあ、安定のヴィニーという事で。間違った事は何一つ言ってませんし」

「貴様も大概だなケリー・リース」


そうだ、ゲームと違うなら違うなりに徹底的に変えてしまえ!

貴女には悪いが、ノーマルエンディングでお願いします!

俺はお嬢様を破滅エンドからお救いするという使命がある!

ゲームが始まった以上、この1年は徹底的に! 無慈悲なまでに! 貴女とメイン攻略対象、主にレオとエディンとケリー! の、恋路は馬に蹴られても邪魔しまくります!

お覚悟願おう戦巫女!


「ではまず食事にしよう。僕らもまだ食べていないし一緒に食べようか」

「では食堂に参りましょう。すぐにお持ちいたしますね」

「俺はいらん。人間の食事は味が濃くて食えたものではない」

「亜人は薄味が好きなんだったな。フフフ、クレイ……そのセリフ、俺の料理を食べた後も同じ事が言えるかな?」

「……なに?」


魔宝石を握ったままの戦巫女が不思議そうに見上げてくる。

エスコートはレオに任せて俺はお城の使用人さんたちと食事の準備!

フフフ……クレイ、お前らの舌を唸らせる薄味料理はとうの昔に開発済みだ!

思い知るが良いこの世界で磨き抜いた俺の料理スキル!


「こ、これは?」

「鳥五目炊き込みご飯です」

「わあ! 和食だ〜! そ、それにこんなに手の込んだ……すごい! 旅館みたいです!」

「?」


俺以外が全員頭に「?」を浮かべている。

ところでなんで付いてきたミケーレ。

叫ばれなかっただけマシだがお前隠れキャラの自覚ないだろう?

あ、でも確かミケーレは戦巫女に興味津々(解剖したい的な意味で)。

ミケーレルートに入ってもらっても別段問題はないからむしろ付いてくるのは許すべき、かな?


「いただきます! ……んんん、お味噌汁ファミレスぶり……」

「ふぁみ……?」

「……食べづらい」

「と、言うと思って!」

「ヴィニー、なんでさっきからテンションおかしいんだ?」


意外と躊躇なく食べ始めたマリンちゃん。

いや、作った方としては「日本人なら朝ってやっぱご飯と味噌汁と焼き魚じゃね?」みたいな感じで食べてくれると作った甲斐があるというか。

美味しそうに食べてくれる姿を見るのは料理作る方の醍醐味だよな〜。

……まあ、クレイにはそう言われると思ったのでおにぎりも用意してある。

ケリーには怪訝な顔をされたが、クレイにはおにぎりにした鳥五目御飯を差し出した。

……つーかクレイには近いうちテーブルマナーを教え込まねばならんな……今後会食に呼ばれる事も増えるだろうし……。

スティーブン様に協力してもらって徹底的に教え込もう。

悪く思うなクレイ、これも長の運命だ。


「……? あれ、あの、皆さんは食べないんですか?」

「え? あ、いや……思っていたより警戒されていなくて……?」

「え? 警戒? …………。……あ、え、えーと」


察して頂いた通り、レオが心配になるレベルで警戒心が緩いなこの巫女殿。

今さっき見知らぬ世界に来たばかりで、事情の説明も受ける前から知らない男たちの前でパクパクご飯を食べるという……。

日本人って本当に平和ボケしてるんだなぁ、としみじみ感じたぜ。


「す、すみません……」

「いや、食べながら話そうと思っていたから構わないよ。……ただ、ちょっと意外だっただけだから」

「…………」


やっちまった。

とばかりに頰を赤くして俯くマリンちゃん。

うん、可愛い!




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物語冒頭から巫女は妹が来ると思ってたのに意外な展開
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