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其の14・さんさ

挿絵(By みてみん)


人々に八咫烏やたがらすを見られてはまずいと、佐助は避難場所から1kmぐらい前で百目野を降ろした。

佐助の優勢勝ちかと思って居たが、全身傷だらけだった。無理もない。火達磨にもされたのだから。

此処から歩いて行けと云うのである。百目野は「あなたは?」と聞いた。

出雲に一度、帰ります…というのである。武角に、今回の報告と傷を癒しに行く。

「私は武角殿に会いたい」

「いつか…必ず会うようになります。あなたの側に須佐男スサノオ様の分身が居ますから」

「須佐男の分身?!」

佐助は其のそのまま、飛び去った。


「百目野さんだ!」彼方を歩いて来る百目野を自衛隊員が目視した。すぐさま、ジープで迎えに行った。

ふらふらと歩きながら百目野は元気そうだ。

「百目野さん!ご無事でしたか。良かった。さあ、乗って」

そう、隊員は労ったが、百目野は襤褸襤褸ぼろぼろである。顔は真っ黒、服は火の粉で焦げて居た。


避難所に着くと、わーーーっと歓声が上がった。

「衛生兵ーーーー!」

百目野は手当を受けながら「大丈夫ですよ。襤褸なのは外見だけですから」と遠慮した。ベッドに横にと云われたが、横にはならず座っていた。

「どうなったんです?」

皆が集まってきて眼を向けた。内田の奥方などは半べそだ。まず、木藤刑事を呼んで佐助は出雲に一度帰った事を知らせた。


「百目野さん!」隊長の2等陸佐(中佐)東雲しののめ等陸佐(中佐)が居た。


空爆を指示したのは東雲である。が、意図がわからなかった。

「百目野さん、何から話したら善いのか?皆んな、聞きたいことが山ほどある….」

「私の身体を労ってなら、遠慮なく」

「まず、ランカーバスターだ。火力は通じないと云って居た、あなたが何故?ミサイル要請を私に頼んだ?」

「隊長、半信半疑のあなたがよく、そんな事を引き受けてくれたと感謝して居ます」

「正直、私は此の前例のない事柄に、何をすれば善いのか?思いあぐねて居た。しかし、このままでは壊滅は必然だ。だから、あなたの提案に賭けてみようと思ったんです。盛岡基地の友人にこっそりと、頼んだんですよ。ことが起きてからでは遅いんだと。会議中に日本中、放射能まみれに、火の海になるぞとね。直ぐ、飛び立てるよう、こっそり用意しておいてくれと。よく引き受けたと思うのは友人の指揮官ですよ。一歩間違えば、俺達ゃクビです。はは」


「さんさです」

さんさの元歌とされる古文書だ。


○さんさ鬼見りゃぁ ヤーイ焼ける焼けるよおいよ(サッコラチョイワヤッセ)

  男も女も 恐ろしばかりサンサヨー(サッコラチョイワヤッセ)


○さんさ踊らば ヤーイ鬼をば蹴飛ばせ 散々(さんざ)暴れて 嫁を喰う


○盆の満月にゃ さんさ様待ち 来るぞ丸月にゃ 今夜ばかり


○踊り去れ去れ 壱所守れや 祝詞広げろ 太鼓打て


○朝に起きれば 嫁取る鬼よ 俺をだまして 連れ去るか


○南部片富士 岩手の山よ 巌は妖艶しや いつ出やる


○さんさ踊るなら 盛岡までも 老いも若きも 妻も子も


○踊り踊る奴 馬鹿になって踊れ 着物引き散れ 子を作れ


さんさの語源はわからないが、古来も此の地方で出現して暴れ事を示している。

暴れ回った事を「踊り」と表現したのであろう。

最後の一節はこうだった。


三石さまな 暗い底で語り合う つき立れちゃ 鬼怒る


挿絵(By みてみん)


岩手県盛岡市三ツ割・東顕寺とうけんじの鬼伝説、三つの大石。三石伝説。さんさは此の伝説から成り立ったものだ。

元歌は残虐な言葉が羅列している。さんさは鬼を三石さまが退散させた事を称賛し、いつからか踊り祝った歌に変わった。


「奴らは棲処を荒らされて怒った。が…古代、共に生き、火を人々に教えたのは彼らだったと云う」

「人は其の大いなる力に感謝し、火之神と呼んだ」横にいた井川博士が述べた。

人類の飛躍は、火を扱うようになったからだと云う。夜は明かりに、猛獣は火を恐れる、身を守る事もできる。


「火之神…誰もが知ってる」村民たちも聞いて居た。そう、誰もが知っているのだ。

「岩手」の由来は三石に残された鬼の手形だと云う。現在でも見れると云う。

「僕は此処に来る前に東顕寺に行きました」

「岩手を見に?」

「はい、しかし、見当たらなかった」

「伝説ですから」

「いえ、伝説は何もないところから生まれない。何かあるに違いないと思って居ました。さんさの一節で全て理解したんです」


三石さまな 暗い底で語り合う つき立れちゃ 鬼怒る


昔はもっと大きな岩だったに違いない。何処からか此の大岩が飛んできて鬼を懲らしめたと、ある。

「三石さまは、特大のやじりです」

「や、鏃?!!!」

誰かが、数百mはあろう鏃を投げやったのだと。鏃で退治できる筈はない。そう、棲処だ!棲処を破壊したんだ。地下深く、鏃の先だけ潜って行ったに違いない。

「棲処を破壊されて怒り狂うのはわかりますが、なぜ?逃げた?戦わないのですか?」

「其れが原始の生物の彼らなのです。本能なんですよ。棲処を全壊されると怒る前に、違う場所を探しに、あるいは違う仲間のところに移動する。彼らが襲いに来るのは崩壊の初期段階なのです」

「だからランカーバスターで地中深くを破壊したんですね」

「佐助さんが云って居た。退治するのは無理だと。其の通りです。姿を持たない相手ですから」

「しかし、大量の放射線をぶちまく奴ですよ」

「皆さん、聞いてください。須佐一族は仲間が大勢います。何故?一人だったと思います?」

「何故?って」

「須佐は本来、戦う気はないんだと思う」


次回完結

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