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其の15終章・沈黙の抵抗

挿絵(By みてみん)


闘う気がない?


其の前に…と百目野は質問を制止して話し出した。

「私が結論に至ったのは、鬼来神社の伊藤神主のおかげです。あの人から渡された資料が切っ掛けです」

「伊藤神主は恐ろしくなって、此処から逃げたんでしょう?」

「ぺグマタイト・ネットワークを恐れたんです。だから全てを書に託した。口で語れば奴らが察する」


奴らは地の底で聞いている…


「伊藤神主は、沈黙の調査、研究をした人です。鬼をこの世から粉砕するにはどうしたら善いのか?古文書には示されて居ないのか?其れを書に示すことです。古来から人々はそうして来た。下手なことを云うと奴らは襲って来る…村民は皆、そう思っている。だから伊藤神主は、神社の神書である古文書を密かに持ち出し、調べていた。私が本堂内で見つけたのは、オシテ文書とさんさ元歌しかなかった。しかし、もっと有ったに違いない。其の中には古代から鬼と闘った文書があったに違いない」

「其の書は何処に?」

「わかりません。ただ、伊藤神主の資料内には多々、書かれてあった」

「結論は?」

「殲滅すべきものではない。できるものでもない。共存せよ。彼らは自然からの報復なのだ…と。結論に達した伊藤さんは話したかった。書では語りつくせない思いがあった。しかし、彼らは気づく。私に託したのです。携帯で話すこと、メールさえ電波から読み取るかもしれない。連携連絡は出来なかった」

「自然からの報復…」

「火は人間にとって必要なものですが、一歩間違うと、ご存知のように恐ろしいものになる。其れと同様なのだと」

「善にも魔にもなると…」

「僕は思ってんです。日本は火山国だが、火山噴火、マグマによる災害などは外国に比べて低い。彼らがコントロール、と云うか棲み易いようにコントロールしているのだろうと。其れが必然的に人間にとっても…」

「自然の成り立ちになっている、と?」


そんなことが人間に可能ですか?


挿絵(By みてみん)

↑鳥山石燕・今昔画図続百鬼「鬼」


「そんなことを云っても!あんな、あんな恐ろしい化け物を!」

「其れが我々に課せられた宿命です。だから古代、畏怖を持って祀った」


「自衛隊の方々!あなた方はどう思いますか?警察は?!殺されているんですよ!」

「今回は百目野さんの機転でバンカーバスターで止められた。しかし、彼らは学んだ。次は無いでしょう」

「私は…」木藤刑事が語り始めた。

「私の所属は警視庁捜査一課。特に殺人事件を担当しています。私の先祖も明治時代、刑事をしていた。警察署で身の毛もよだつ殺人事件が起き(須佐妖戦帖・妖狐の傀儡参照)、犯人が一人で警察署に殴り込みに来て、署は壊滅したんです」

「な、何ですか?其れ?」

「犯人はこの世のものでは無かった。九尾の狐でした」

「キュ、九尾の狐ーーー?!」

「其の時から警視庁は魔に重きを置き、皇宮警察に協力を頼んだ。秘密裏にです。代々、捜査一課は須佐と協力して難事件に立ち向かう部所を特別捜査官として置いた。百目野さんを此処に呼んだのは其の時、共に戦った合田刑事の子孫、合田警視正です。私と城石は其の後継者です。何も出来ませんが、須佐や百目野さんのような方に情報提供と捜査でき易いようにするのが目的です。鑑識の御手洗(みたらし)は、失礼だが、形。

物理学者の…」

「木藤さん、自分で説明します」物理学者の御厨(みたらし)が横から静止した。


「私は物理学者ではありますが、本来は陰陽師です」

「お、陰陽師?!」

「陰陽師と云うと妖術使いのように思われますが、古代、陰陽師は天体、暦、宇宙を研究する集団でもあったんです。医療などもあります」

百目野は問いた。「貴方も戦闘集団のはず。何故?闘わなかったんですか?」

「佐助殿に止められたんです。分析だけで善いと」


御厨は語った。

「放射能に対しての治療は陰陽師間でも研究され、現代医学でも採用されています。近いうちに治癒できるようになります。安心してください」


最後に百目野は語った。

「此の事件を皆さんは語りたいでしょう。しかし、多くは信じない。残された写真や映像を公開してもCGだろう?と思われるでしょう。私は師と仰ぐ方は途方にくれて亡くなった。語るのは自由ですが危険だということです」


「では、百目野さん、あなたは何故?阿夜訶志(あやかし)探偵などということをやってる?」


「僕は阿鼻(あび)大学の講師が本業ですが…この世には警察でも解明できない奇妙な事件が時々起こる。人間の仕業では無い事件です。誰にも頼る人が居ないで困っている方々がいる。其の方々の少しでも助けになればと」


奴らとの闘いなど誤魔化しなのだ。鎮めることしか出来ない。須佐は知っていたんだ。彼らが必要悪だと。

気になるのは佐助の言葉…


あなたの側に須佐男(スサノオ)様の分身が居ますから


奴らは、古代から全国で生き続けている…またいつか、人間とトラブルを起すだろう。人間は火を教わったものに、火によって滅ぼされないよう祈るだけだ。


ん?

三石の鏃(くさび)…鏃は槍の先端…須佐は槍を使う…




上田から松本を経て富山に至る新たな新幹線を通す計画が持ち上がり、建設が始まった。それは山深き山中の殆どががトンネル掘りの工事だ。


ががががが。


作業は過酷を極めた。「黒部ダムと変わらんな」


グルルルッ。


「どうした?掘削機(くっさくき)が止まったぞ」


岩盤の隙間から地下水が漏れ出した。「水路か?こんな処には無かった筈だ」

其の水はウネウネと動き出し…、人型に変化した。


ぐわああああおおおおーーーー!


「う、うわあああああああーーーーーーー!!!」


マドのサンサはデデレコデン ハレのサンサもデデレコデン


こきりこ節 富山県民謡


完

あとがき


鬼伝説は全国にあるが、特に岩手県には鬼の伝説が多い。

岩手の由来も三石伝説からであります。


岩手県盛岡市三ツ割・東顕寺(とうけんじ)に注連縄が捲かれた三つの大石がある。

其の昔、岩手山が噴火した折、飛来した石とされている。其の石は「三ツ石様」と呼ばれ、民達は祀った。

其の頃、羅刹鬼(らせつき)と云う鬼が里人などに悪事をするので、三ツ石様に鬼退治を祈願した。

願いを聞いた三ツ石神は羅刹鬼を石に縛り付けた。観念した羅刹鬼は許しを乞うので、「悪事はもうしないと云う証しを視せなさい」と三ツ石神が

宣い、羅刹鬼は三ツ石に手形を付けて南昌山方向の彼方へ逃げ去った。

其処から「岩手」と呼ばれるようになった。

盛岡の旧称は「不来方(こずかた)」である。鬼が「再び来ない」と誓ったのでそう、呼ぶ様になった。

民達は喜び、幾日も踊り、神に感謝した。三石様の周りを「さんささんさ」と踊ったのが "さんさ踊り" の起源だと云われる。 三ツ石は元々1つの大岩で、何時頃か3つに割れたとも云われている。

ーーーー岩手三ツ石伝承


さて、「さんさ」とは一体何なのであろう?掛け声だとか、色々な説はあるが定かでは無い。

富山の民謡、こきりこ節にも「さんさ」が出てくる。こちらも未だ意味不明なのだそう。

東北岩手と随分と離れた越中富山との此の共通点は何なのだろう?


鬼は、 地獄にて閻魔大王の配下で、現世で悪徳を重ねた亡者を責めるものとして捉えられています。

現世に於いては民に危害を加え、人を喰らうとも云われた。日本各地に、鬼が棲んでいたと云う伝説が残っている山などがあります。「悪もの」「忌むもの」としてです。

しかし、鳥取県伯耆町では、「鬼が村を守った」として現在でも崇めてられているし、青森県の岩木山では鬼に感謝して、神社に祀っている。

日本の各地には意外にも鬼を畏敬の念を持っている例が少なくないのです。

鬼は「厄災をもたらすもの」と云う信仰もあれば、逆に、鬼が悪霊を追い払い、民に幸福をもたらしてくれる存在と考えている例も少なくないのです。


鬼とは一体何者なのか?

特定の概念で語ることは困難なのであります。


此処に登場する鬼とされるものは変幻自在、姿をも持たない存在であります。が、全くの想像ではありません。

鬼は文献によると、元々、定まった姿は持っておらず、変身能力もあり、青年や美女に化身することが出来た。

「おに」の語源は「おぬ(隠)」が訛ったもので、元来は「姿の見えないもの、此の世ならざるもの」であったそうです。「おに」と読む以前の古代は「もの」と読んでいた。「もの」から「おに」になったのは平安時代末期とされております。

「源氏物語」には、「モノにおそはるる心地して~」とある。


参照;ウィキペディア「鬼」


さて、百目野尊であります。

此処に登場する怪物は正体不明であります。村人たちは単に「鬼」と読んで居た。ペグマタイト鉱床(こうしょう)に古代から棲みつく忌むべきもの。放射能をばら撒くもの。高温の身体を持ち、時々地に現れて民を食らう。地の底から聞き耳をたて、人間たちの様子を伺っているもの。村人は囚われの身です。

そして棘棘(おどろおどろ)な殺人事件が起こる。地元警察はお手上げ状態。で、東京からオカルト探偵が呼ばれる。

百目野は調査中に気づきます。「古代は火之神と呼ばれた神だった…敬われて居た」と。


東京本庁から刑事もやって来た。その中に須佐が居た。

百目野は此処で師と仰ぐ柳田と行動を共にした、時空を超えて生きる佐助と出会う。

佐助は此のものと古来、幾度か闘っているらしい。しかし、正体は不明なのだと。


此の小説は以前、さる自サイトに書いたものです。(現在は削除)基本的には同じでありますが、内容は激変しております。全く別の小説にしました。しばらく「百目野尊」シリーズを書いていく所存です。須佐はもう出て来ません。またいつか関わることにはなりますが、若かりし頃の百目野個人のフィールドワークとして今後しばらく書いていきます。悍(おぞ)ましい伝説事件に巻き込まれる百目野に期待してください。

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