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第一章 6.『理想世界』へ

「なあ、どうなんだよ?助かる方法を知っているのか?」

《ああ、知っているよ》

「……それを教えてもらえないか?」


 邪神くんは、やれやれやっと話が進んだよ。といった風で話を始める。


《いいだろう。そうしようと思っていた所だ。このままだと君たちの身体も霧散してしまうかもしれないしね。……私の頼みを聞いてくれるなら、君たちに『肉体』を与え、生命の存在する世界へ移して差し上げよう》

「……そこはオレたちが元居た世界か?」

《いいや、君たちの世界は消滅したんだ。無い場所に行く事は叶わんよ》


 そりゃそうだよな。

 質問を変えてみるか。


「……オレたちの世界を、元に戻す事は出来ないのか?」

《私にその機能は備わっていない》

「元に戻す事は可能なのか?」

《さあね。私には分からんよ》


死んだみんなが脳裏に浮かんだ。

友人、職場の仲間、取引先、出会った全て。


 ――そして家族。


 今となっては、仲直りしていない事が悔やまれる。


 不安げにネムはオレの方を見た。


 ……強くならないとな。今は前を見よう。


「オレたちがこれから行く世界は、どんな場所なんだ?」

《其処は、ある神が作り出した『理想世界』だ。『魂の通貨(経験値)』により、己の『魂の位(レベル)』を上昇させることの出来る、精霊と魔法が織りなす素敵な世界さ。……だが、其処の神は君たちの世界を襲った同じ『作用』を止めようとしてね。……バラバラに砕け散ってしまった》

「その『作用』って何なんだ?」

《そうだな。その『作用』とは……》


 邪神くんは困った顔をして考え込んだ。


《……難しいな。君たちの言語は、情報を全て伝えようと変換した時点で劣化が起こってしまう》


 お?

 今軽くディスられた気がしたぞ?


《……そうだな。『原始の海を枯らすモノ』……そう仮定しよう。君たちの世界は、『原始の海』から現れた小さな気泡だ。それを壊して、『原始の海』を吸い上げ、『始まり』に戻すために存在している。それが『原始の海を枯らすモノ』だ》


 何だか哲学的な話になって来たぞ。


 『原始の海』が宇宙で、『始まり』が無か何かで……

 で、『原始の海を枯らすモノ』が……


 うむ。

 意味が分からない。


 要約するとこうか?


「つまり、凄い化け物って事だな!」


 ネムが「なるほど!」と言ってつづける。


「……そうか!そいつをボクたちが倒せばいいんだねっ?」


 ネムの目がキラキラしている。


 なるほどね。

 つまり、その異世界の『理想世界』へ行って、レベルあげて、『原始の海を枯らすモノ』をぶっ殺してくればいいわけだ。


 よく漫画やライトノベルなんかである展開だな。

 異世界冒険物、一時記ハマっていたんだよね。


 そして、相手はなんと言っても、オレたち世界をぶっ壊したヤツだ。


 仇を取ってやる。

 燃えて来たぜ!


《……それは期待していない。お前達にはその異世界に行き『原始の海を枯らすモノ』の一部である『空を舞う唯一の聡明な翼』『総ての中で一番美しい赤』を探し出してほしい。……そして、世界を見てまわってほしい》


 おい!

 期待してないのかよ!?


 探し物はいいとして、「世界を見てまわってほしい」って……オレたちはどんだけ期待されてないんだ。


 まあ、異世界の神様をバラバラにしちゃうくらい強いヤツだもんな。

 たかが人間ごときは期待できないか。


「何のためにそんなことするのっ?本当に、ボクたちが世界を見てまわるだけでまんぞくなの?」

《私は今まで魂を浄化し、不純物……恨みや後悔を貪るだけの存在だった。だから気になるのだよ。生きるとは、どういう事なのかがね》


 おうおう、急に黄昏ちゃったな。


《……それに今、『原始の海を枯らすモノ』は異世界の神との戦いで大分弱っている。今まで散々此方の仕事を増やしてくれたのだ。嫌がらせくらいしてやりたいじゃないか。……私は『邪神』なんだしね?》


 つまり、こいつは『原始の海を枯らすモノ』の一部『空を舞う唯一つの聡明な翼』『総ての中で一番美しい赤』ってのを見つけ出して、逃げ回ってほしいんだな。


 ……でも、それはそれで危険だよな。

 化け物がオレたちを見つけたら、執拗に追いかけて来るに違いない。


 急に不安になって来たぜ!


「なあ、その『原始の海を枯らすモノ』ってのは強いんだろ。オレたちで大丈夫なのか?」

《君たちイレギュラーには、『完全なる肉体』を与えよう。食事も睡眠も必要の無い亜神にも等しい肉体だ。それなら私と似た力が使えるはずだよ。――それと先ほどの『何でも切れる剣』と『何でも分かる帽子』だったかな。それも、あちらの世界で使える様に許可しようじゃないか。中々楽しませてもらったからな》


 聞こえてたのね。

 またバカにされたような気がしたが、まあ許そう。

 何だか至れり尽くせりだしな。


 ……だが、『食事も睡眠も必要ない』ってのは、便利なようでなんだかイヤだな。


 食事も睡眠も、オレの大好きな事だからな。

 それが無い人生なんて考えられない。


「食事と睡眠は、何とかならないか?」

《……『何とか』とは?》

「食事と睡眠は必要ないけど、とることは出来るようにならないか?」

「確かに、その二つがないのはボクもやだな」

《分かった。では、その要望に応えよう。他に何か質問はないか?》

「『完全なる肉体』は、どんな力があるの?」

《『完全なる肉体』には、魂の不純物を扱う力。『ソウルイート』が使えるはずだ。君たちの居た世界には『魂の位(レベル)』が無い。『ソウルイート』を使って、技や能力を身につけるといい》


 オレは、ネムと顔を見合わせ頷き合った。


 『完全なる肉体』『何でも切れる剣』『何でも分かる帽子』か……チートもいいとこだな。


 これならイケる気がする。

 疑問も取り合えずは浮かんでこない。


「OKだ。これなら行ける。なんなら『原始の海を枯らすモノ』だってぶっ殺してやるよ」

「ボクたちに、まかせておいてよっ」

《……何なら契約書でもつけるかね?》


 イタズラっぽく笑う邪神くん。


 なんだかんだで、いいヤツなのかもな、コイツ。


「ありがとう。しんせつな、その……邪神さん」


 ネムがお礼を言う。


 そうだな。

 お礼は大事だ。


「ありがとう……ございました。最初、ビビッてすみませんでした。新天地で頑張ってみますよ」

《いや、良いんだ。こちらも楽しませてもらったよ。では、なるべく『原始の海を枯らすモノの一部』の近くに転移させよう。その後は自分たちで探し出して欲しい。それでは、良い旅を……》


 そう言って、邪神くんはニヤリと笑うと姿を消した。


 ……いや、オレたちが邪神くんの前から転移したんだろう。


 オレたちは、暖かい光に包まれ、そのまま意識を失っていった。



これにて、第一章終了です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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