第一章 4.邪神くん現る
その後、数度の議論(オレの発作とも言う)を繰り返し、ここは夢か幻覚の世界なんじゃないかという事で納得した。
うん、開き直ったとも言う。
ネムは、オレが赤ちゃん言葉を使わない時はまるで天使だ。
話せるのが嬉しいらしく、えらくはしゃいでいる。
かく言うオレも、さっきまで騒いでいたのでお相子だな。
いや、ネムがパニックになったオレを見て、オレの株が急下降している可能性すらある。
ここは威厳が大事だ。
飼い主と言うよりも、保護者としてのだな。
オレがコイツの保護者なんだ。
そんな事を考えていると、ネムがオレの肩にピョンと乗ってきた。
何だか軽いな。
その時気付いたんだが、いつもよりネムの身体が小さい。
元々身体はそれほど大きくなかったのだが、明らかに縮んでいる気がする。
「なぁネム、小さくなってまちぇ……ないか?」
「そうかなっ?自分だとわかんないよ。でも肩にはのりやすくなったかな?むかしみたいにっ」
そう言って、嬉しそうにニシシッと笑う。
興奮してか、耳がピョコピョコ動く。
ああ、この子、可愛過ぎるんですけど!
この子、危険です。
可愛すぎて危険ですよ!
「そ、そういえば、ハルトもふんいき変わったよ」
バカ(自覚有り)になった。……とか言われたらどうしよう。
オレはドキドキしながら
「どんな風に?」
と聞いてみた。
「なんか、若くなった……かな?」
言われてみると……そんな気がしないでもない。
まあ、夢か幻覚だし、そんな事もあるよね。
「さて、ネム。これからどうしよっか?」
「もちろん、『たんけん』だよっ!」
元気いっぱいにしっぽをふりまわす。
そんなネムを見ていると、何だかオレまで元気が湧いてくる気がするな。
「よし。せっかくだし、この辺りを少し探検してみるか!この状況を楽しまなきゃ損だしな」
「そうこなくっちゃ!」
だが、そうは言ったものの……この霧の中だ。
無暗に歩き回ると危険だな。
迷子になるかもしれないし。
……ん?待てよ。
よく考えたら、ここが何処だか分からんし、元々迷子みたいなもんなんだよな。
しかも、夢か幻だ。
危険なんて……無いよな?
「よし、どっちに進もうか?」
「それなんだけど、あっちのほうに、気になるものが見えるんだよね」
ネムはピッと指で……いや、肉球で方角を指し示す。
「何が見えるんだ?」
「光の柱……かな?すごい上までのびているよっ!」
ふむ、オレには見えないが、猫は人間より目がいいみたいだし、ネムには見えるのかもしれない。
ダラダラ歩くよりも目標があったほうがいいか!
「じゃあ、その光の柱を目指してみようか」
「おっけー!わくわくするねっ」
そんな感じで、オレたちは光の柱を目指したのだった。
光の柱まではかなりの時間がかかった。
何度も休みながら歩いて向かい、やっとオレの目で確認できた時はかなり嬉しかった。
気が付くと、地面は土から磨かれた御影石風の黒いツルツルの地面になり、霧は薄くなっていった。
――そして、ついにオレたちは、光の柱までたどり着いたのだ。
「……すごい。圧巻だな」
「うん、『しんぴてき』だねっ!」
光の柱は……幅100メートル以上あるだろうか?
それが黒い台座から天に向かって伸びており、その光は先が見えないほどだ。
少し上の辺りで霧を吸収し、上に巻き上げているようにも見える。
それを見ていると、なんだか心が落ち着くような、それでいてソワソワするような不思議な感覚に陥る。
しばしオレたちは、この不思議な光景に見惚れてしまっていた。
だからだろうか、気付かなかったのだ。
背後から忍び寄る謎の影に……。
「――後ろ!なにかいるよっ!」
突然、オレの肩からネムが飛び降り、遠くを睨む。
背中の毛は逆立ち、しっぽが膨らみ、臨戦態勢だ。
オレは振り返り、ネムが見つめる先を見る。
そこには、白い人間の顔をした強大な蟻のような生物がこちらを見つめていた。
オレはネムを抱きかかえる。
――そして、ネムの肉球の匂いを静かに嗅いだのだった。
「ちょっ!何してるのさ!」
ヤバイ!
ついに、クリーチャーが出てきてしまった!
木刀もない。
ソーセージもない!
オレのソーセージは?――絶対にやらん!
冷静に、冷静に考えなければ。
映画なんかだと、逃げ出すやつが真っ先に殺られる。
だが、ここは映画じゃないんだ。
なんとかして逃げ出さなければ!
だが走っても、あの巨大なクリーチャーからは逃げ切れる気がしない。
ここには隠れる場所も障害物も無いのだ。
落ち着け、落ち着いて考えるんだ。
……すーはー、すーはー。
ダメだ!?
肉球の匂いを嗅いだのに、落ち着かないなんて!
「……あぁ、ハルトがダメだ。ここはボクがしっかりしないと!ボクがハルトを守る。ボクが……ハルトのお兄ちゃんだっ!」
ダメだ。
もう、助からない。
……諦めよう。
思い起こせば楽しい人生だった。
「お前はなにものだ!こっちに来るな。来たら……ゆるさないぞっ!」
ネムはオレの肩から再度飛び降り、クリーチャーを睨み付ける。
ネムたんカッコいい。
いつもは甘えんぼさんなのに、夢の中ではこんなにも勇敢で!
ん?
待てよ。……夢の中?
ココハ、ユメノナカ?
――そこで、オレは重大な事実を思い出した。
なんだ、夢の中じゃあないか!
そう思うと何だか気持ちが楽になる。
もう一度クリーチャーを観察してみた。
表情の無い白い人間の顔。
これは女性の顔みたいだ。
おでこにはしずく型の赤い宝石のようなものがはまっている。
身体はトゲトゲしていて蟻にしては足が多い。
確かに強そうだが、何だか昔やったゲームで出てきた『邪神』みたいだな。
さすがはオレの夢。
どこかで見た事ある姿なんだよな。
そうだ!
夢の中で夢だと気が付いているんだもん。
オレさま、今まさに最強モードじゃね?
急に負ける気がしなくなって来たぜ!
「フッ、ネムよ。ここまで良く頑張った。……後は、任せてもらおうッ!」
カッコよく言い放つオレ。
一度こういう事、言ってみたかったんだよね!
「……ハルト、ボクもいっしょに戦うよっ」
「よく言ったネム。だが、お前には後方で支援してもらう。『何でも分かっちゃう帽子。……ザ・スーパー・ディスカバー・ハット』を授けよう。これでヤツの行動を分析するのだ!」
「……へ?なに言ってんのさっ?」
まだまだ甘いな。
夢の中では、設定作っちゃったもん勝ちなのさ!
「いでよ!我が剣『何でも切れちゃう剣。ザ・スーパー・カッティング・ソード』よ!!」
それにしても、咄嗟にはカッコいい名前ってなかなか浮かばないもんだな。
だがいい。
夢の中では勢いってやつが大事なはずだ。
ともかくオレは叫び、腕を天に突き立てた。
そして……。
沈黙。
そして、また沈黙。
ネムに邪神くんに、なんかだか先ほどから、ずっと二人に見られている気がするんだよね。
……オレってば、とんでもなく恥ずかしい事を叫んでしまったんではなかろうか?
誰か助けて!
これは別の意味でもピンチだよ!
――その時である。オレの頭に声が響いた。
《イレギュラーよ。ワレラの声がトドキますカ?》
……何だよ。この邪神くん、話せるんじゃないか。
大恥かいたぜ!




