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崩さずにはいられない  作者: 菓子カンの中


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8/8

終・その顔を崩したい(ライラ視点)

完結です!

(私ったら彼にとって、中々に異性として魅力的に感じて貰っているのでは?)


 この考えが合っているのか確かめる為にも、きちんと言葉にしておかなくては。勘違いや自分だけの妄想だったら、この先恥ずかしい思いをすることになるだろう。


「ベンジャミン様は、今夜の懇親会に出席されているのだから、勿論結婚に向けた出会いを期待してらしたのでしょう?」


 先ずは前提条件の確認が必須。付き合いで無理矢理連れて来られた可能性はどうだろうか。


「はあ……。まぁ、そうですね。……父からもせっつかれていまして」


 前提条件は大丈夫だった。しかも親からという、どう考えても本人にとっては面倒な、私にとっては最高の圧力が掛かっている。


「では今夜こうしてきちんと自己紹介を済ませた上、()()()想像までできていたようなので、私は候補に入っているという認識で合っています?……その、結婚相手として。少なくとも親しくなれる異性として」


 俯く彼から見えないのを良いことに、少し唇を舐めて湿らせ、本題を切り出した。ここまで来てそんなつもりは無かった等と言われたら、明日の休みはヤケ食いをして全部すっぱり忘れようと思う。

 やがて彼がゆるりと頭を持ち上げてこちらを見た。無意識に握り締めていた手に更に力を入れて、長く感じる返事までの時間を、前のめりにならない様に気を付けながら待った。


「俺で良ければ想像した以上の事も是非お願いしたい」


 ベンジャミン様のその言葉は私のじりじりと待った時間を吹き飛ばす程の衝撃をもたらした。その内容から察するにつまり――……。

 顔が火照り、頬を冷やすように片手を当てた。ここで視線を逸らすのも否定に取られそうで、ひたすら彼を見詰めていた。


(私をベッドで組み敷くどころか、男女としてどこまでも深く愛し合いたい……と!?)

 「まあ、予想以上に情熱的に求めてくださるのね。…………少し恥ずかしいですが、嬉しいと思います」

「……………………あ」


 恥ずかしくはあったが、真っ直ぐ求める言葉は女としての自尊心を大きく回復してくれた。 先程見掛けた後輩と元見合い相手の事もどうでも良くなる程に。

 私が受け入れたのが意外だったのか、気の抜けた様な声を出したベンジャミン様は、暫し考えを纏めるように表情をくるくると変えた後、見詰め合う瞳に力を込めて私を誘ってくれた。


「先ずは、お互いを知るために食事でもご一緒しませんか?勿論、今夜のような大人数では無く……二人きりで」


 異性を意識させる様に、低く潜めた声で『二人きり』を強調したベンジャミン様は、仕事で見せる冷静な顔や疲れた顔でも、ましてや今夜見せた羞恥に悶える顔でも無く、大人の男性の、余裕を持った姿だった。

 こんな風に好意を向けられて誘いを断れる人間がいるなら見てみたい。私は無理だ。容易く受ける。


(もちろん喜んでー!)

「嬉しいです。……その、では、次のお休みを伺っても?」


 すかさず社交辞令にはさせないと日取りを確定しに掛かるが、彼は今夜の明日という事もあり尻込みをしてみせた。


「次は明日なんです。流石に急が過ぎるでしょう?ライラ嬢こそ、次の休日は空いていますか?」


 私の次の休みを尋ねるという事は、彼も前向きに予定を立てようとしてくれている証左だ。ならば、ここは攻めの一手しかない。


「私も、明日はお休みなんです。……先ずは気負わずに出掛けてみませんか?水運ギルドの側に美味しい海鮮のお店があるんです」


 当然の様に、明日出掛けるのは決まった事にして流し、目的地は私のお勧めの場所で構わないかの判断にすり替えた。

 果たして彼は流されてくれたのか、それを受け入れて頷いてくれた。


「では明日、昼の一つ前の鐘が鳴る頃にお迎えに上がります。ライラ嬢からお誘い頂いたので、これから二人の関係を深める意志があると受け取ります。……明日は口説かれる覚悟をしてから出て来てくださいね」


 ……先程から予想を上回る事ばかりだ。後輩達に狙われる程の男性が、適齢期も過ぎようとしている背の高いだけで肉付きも決して良くない、こんな私をわざわざ迎えに来てくれるらしい。しかも、『関係を深める』だなんて言い方をした上で、『口説かれる覚悟を』だなんて宣言もして。

 じわりと指先に向けて痺れる様な喜びが快感に変わり駆けていく。彼がそれを知る筈も無いのに、大きな手でそっと私の手を持ち上げて、ダメ押しとばかりに痺れの残る指先に口付けてきた。


「……っ、はい。宜しくお願いしますぅっ」


 声が裏返り情けない返事になり、流石に羞恥を覚えたが、顔を隠す為に視線を背けるのも勿体ない。何処にその余裕を隠し持っていたのか問い質したいが、きっと夕焼け色の瞳を細めてはぐらかされてしまうだろう。


「本当に楽しみです。二人きりのデート」


 駆け引きにもならない程の熱を込めた声と、獲物を見つけたような笑顔で告げた彼のその様は、職場である王城では決して見せない姿に違いなかった。


(格好良くてずるいわ……。でも、ずるいなんて言えないくらい、私ったら本当に性格が悪いのよね……)


 確かにベンジャミン様は格好良い。……それでも、羞恥に悶えるあの情けない姿を思い出さずにはいられない。いつかまたあのような崩れた姿を私に見せてくれるだろうか。

 機会があったら今夜の事を持ち出して揶揄うのも良いだろうと、大人の男性の余裕を崩す楽しみを知ってしまった私は、密かに企むのであった。

 

 お互いの内面を引き摺り出して、整えられたものを崩そうとする、そんな二人でした。

 この先は少し書き溜めてからお月様へ投稿しますので、興味のある方は是非!

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