第71話 未来を上書きする極限のハッキング。四人の花嫁と紡ぐ永遠の愛と奇跡の帰還
光の柱がそびえ立つシステムの中枢で、僕は天界の端末をメインコアへと突き立てた。
僕の命と魔力を限界まで注ぎ込み、歴史の書き換えプロセスを強制的に実行する。
『警告。』
『イレギュラーな管理者による、運命の改竄を検知しました。』
『防衛プロトコル最終フェーズへと移行します。対象の精神領域へ直接干渉を開始します。』
マザーAIの無機質な声が響いた瞬間、僕の脳裏に鋭い痛みが走った。
視界が歪み、システムが僕の精神を破壊するために見せてくる絶望の幻覚が、強制的に再生される。
◇
最初に現れたのは、政略結婚の果てに冷たい地下牢で孤独に息を引き取るシャルロットの姿だった。
「アレン様……どうして、助けてくださらなかったの……」
血の気を失った彼女が、恨めしそうに僕に手を伸ばしてくる。
◇
続いて、没落した実家の借金を背負わされ、過労でボロボロになって倒れ伏すベアトリスが現れる。
「私の計算は、すべて無駄でしたわ……」
◇
さらに、戦場で無数の矢を浴びて血の海に沈むサクラ。
「主君……お守りできず、無念……」
◇
最後に、僕を庇って運命の執行者に胸を貫かれ、絶望の涙を流しながら事切れるリズの姿が映し出された。
「アレンのバカ……一人で逝かせないでよ……」
彼女たちの残酷な最期が、僕の心に深い罪悪感と絶望を植え付けようとシステムから無限に送り込まれてくる。
「……ふざけるな」
僕は血を吐きながら、幻覚の暗闇の中で力強く顔を上げた。
「こんなものは、僕の愛した彼女たちじゃない!」
僕の叫びと共に、端末から溢れ出した温かい光が、システムの見せる絶望の幻覚を次々と打ち砕いていく。
僕の記憶の中にあるのは、鳥籠から解き放たれて満面の笑みで僕に抱きついてきた、誇り高くも愛らしいシャルロットの姿だ。
極大の炎を操りながら、誰よりも純粋に僕への愛を叫んでくれたあの日を、僕は絶対に忘れない。
損得勘定を捨てて、露天風呂で顔を真っ赤にしながら僕に迫ってきたベアトリスの温もりがある。
論理ではなく、心で僕を愛してくれた彼女の不器用な優しさが、僕の背中を支え続けている。
泥だらけになって一緒にお米の苗を植え、無邪気に笑い合ったサクラの輝くような笑顔がある。
ヤマトの撫子として、最後まで僕を信じ抜いてくれた彼女の忠誠と愛情が、僕の魂に刻まれている。
そして、前世の地球からずっと僕の隣にいて、誰よりも僕を理解し、どんな時も僕の味方でいてくれたリズ。
黄金の闘気を纏い、僕のために命を懸けてくれた彼女の愛こそが、僕の生きる理由そのものだ。
「マザー、お前には計算できないだろうね。僕と彼女たちが紡いできた、この絆の強さは!」
僕は残された命の火をすべて燃やし尽くし、最終ハッキングのエンターキーを叩き込んだ。
「歴史を上書きする!僕の大切な人たちが、絶対に幸せになる未来へと!」
システムが悲鳴を上げる中、僕は新たな運命の記述を次々と世界に書き込んでいく。
僕の脳裏に、これから訪れるはずの極上の未来図が鮮明に浮かび上がった。
◇
純白のウェディングドレスに身を包んだシャルロットが、幸せそうに微笑んでいる。
その腕の中には、僕と同じ髪色をした可愛らしい赤ん坊が抱かれていた。
「アレン様、私たちの愛の結晶ですわ」
彼女の誇らしげな声が聞こえてくる。
◇
隣では、少しお腹の大きくなったベアトリスが、愛おしそうに自身のお腹を撫でている。
「私たちの子供の将来設計、すでに完璧に計算してありますわよ」
彼女の知的な笑顔には、母親としての深い愛情が満ち溢れていた。
◇
さらに、ヤマト国風の屋敷の縁側で、サクラが生まれたばかりの子供をあやしている。
「主君!この子は間違いなく、最強の武人になるぞ!私たちの誇りだ!」
サクラの純粋で力強い笑顔が、春の陽射しの中で輝いている。
◇
そして、ログレー領の広大な田園風景を背景に、リズがふっくらと炊き上がったご飯の入ったお櫃を抱えて笑っている。
「アレン、ご飯の用意できたよ!ほら、みんなも早くおいで!」
◇
彼女の足元には、元気いっぱいに走り回る僕たちの子供たちが何人も集まっていた。
僕が望んだ究極の農業スローライフ。
四人の愛する花嫁たちと、たくさんの子供たちに囲まれた、大家族での大きな食卓。
「これが、僕の書き換えた世界だ……!」
その幸せな光景を思い描きながら、僕はついにマザーAIのメインコアを完全に掌握した。
『歴史の再構築を実行します。』
『イレギュラーな管理者様の要求を、世界の正規ルートとして承認しました。』
マザーの音声が響き渡ると同時に、世界が圧倒的な純白の光に包み込まれた。
僕の意識は、その温かく優しい光の中へと溶けていった。
◇
……。
チュンチュンと、小鳥の囀りが聞こえる。
頬に当たる柔らかな春の風を感じて、僕はゆっくりと目を開けた。
そこは、見慣れた王立魔法学園の三年生の教室だった。
僕は自分の席に座り、机に突っ伏して眠っていたようだった。
「あれ……僕は……?」
ひどく長い夢を見ていたような気がして、僕は寝ぼけ眼をこすった。
「もう、アレンったら。また授業中に居眠りしてたの?」
呆れたような、それでいて甘く優しい声が、すぐ隣から聞こえてきた。
ハッとして横を向くと、そこには黄金色の髪を揺らす、僕のたった一人の幼馴染が立っていた。
「リズ……?」
「どうしたの、そんな寝惚けた顔して。寝癖、ついてますわよ」
前の席から振り返ったのは、気高く美しい僕の王女様、シャルロットだった。
「まったく、アレン様には困ったものですわ。私の完璧なノートを後で写させてあげますわね」
隣の列からは、眼鏡の奥で知的な瞳を輝かせるベアトリスがクスクスと笑っている。
「主君が疲れておるなら、某が背中をお流ししようか!」
後ろの席からは、サクラが元気いっぱいに身を乗り出してくる。
四人の乙女たちが、当たり前のように僕の周囲に集まり、平和な笑顔を向けてくれている。
運命の強制力によって消滅したはずの彼女たちが、確かに僕の目の前に存在していた。
システムを騙し、世界の理を書き換えて、僕が自らの手で勝ち取った未来の証だった。
「みんな……本当に、みんななのか……!」
僕は椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、四人の元へと飛び込んだ。
「きゃっ!?」
「ア、アレン様!?」
僕は一番近くにいたリズを力強く抱きしめ、そのままシャルロット、ベアトリス、サクラの腕も手繰り寄せて、四人まとめて腕の中に閉じ込めた。
「アレン、苦しいよぉ……でも、どうしたの?急に甘えん坊になっちゃって」
リズが顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに僕の背中に腕を回してくる。
「教室でこんなに激しく抱きしめられるなんて……私、心の準備が……!」
シャルロットが僕の胸元に顔を埋め、熱い吐息を漏らす。
「アレン様の心拍数が異常ですわ。何か、恐ろしい夢でも見たのではありませんか?」
ベアトリスが冷静に分析しながらも、僕の服の裾をぎゅっと握りしめている。
「うむ……主君の温もり、最高であるな!」
サクラが僕の胸板に顔を擦り付け、猫のように甘えている。
彼女たちの柔らかな体温と、甘い香りが、僕の鼻腔をくすぐる。
幻なんかじゃない。
彼女たちは間違いなくここで生きていて、僕を愛してくれている。
「よかった……本当に、よかった……」
僕の目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
どれだけチート能力を持っていようと、どれだけ強くなろうと、彼女たちがいない世界なんて何の意味もなかった。
「アレン様、泣いているのですか?私たちが、ずっとおそばにいますわよ」
シャルロットが背伸びをして、僕の頬の涙を優しく拭ってくれる。
「そうだよ。前世からずっと、これからもずっと一緒なんだから」
リズが僕の胸にすり寄って、満面の笑みを浮かべる。
「ええ。私たちは、あなたが用意してくださった未来を、共に歩んでいきますわ」
ベアトリスが眼鏡を輝かせながら、僕を見つめる。
「主君の作る未来には、笑顔と美味しいお米が待っておるはずだからな!」
サクラが僕の背中をポンポンと叩いて励ましてくれる。
ああ、そうだ。
僕がシステムに書き込んだ最高の未来。
結婚式を挙げ、子供を授かり、みんなで賑やかな食卓を囲むあの幸せな光景。
それは夢物語ではなく、これからの僕たちが実際に紡いでいく確定された運命なのだ。
「ありがとう、みんな。僕も、みんなのことが大好きだ。絶対に、僕が全員を幸せにしてみせるから」
僕が涙を拭い、最高の笑顔で宣言すると、四人の花嫁たちは顔を見合わせて一斉に頬を赤らめた。
「もう、アレンったら。教室で堂々とプロポーズだなんて、大胆ですわね」
「しょうがないなぁ。私が一番最初にアレンのお嫁さんになってあげるからね!」
「抜け駆けは許しませんわよ。今後の生活基盤の設計は私が主導しますから」
「某もヤマトの準備を急がねばな!」
教室の中で繰り広げられる、愛と絆に満ちた騒がしくも温かい日常。
世界を敵に回した孤独な反逆は終わりを告げた。
これからは、最強の乙女たちと共に未来へと歩み続ける、平穏で甘いスローライフ防衛戦の始まりだ。
僕の左腕で、天界の端末が優しく緑色の光を瞬かせていた。




