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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第四章 王都学園(二年生編)、あるいは未知の転生者と波乱の武闘会
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第27話 三日三晩の徹夜と執念の錬成。完成した『和定食』の暴力的な美味さと、ヤマト国への壮大な決意

王立魔法学園の中庭で、僕とリズがサクラの弁当箱の匂いに土下座して号泣するという前代未聞の事件から、三日の月日が流れた。


あの日、僕はサクラに泣きついて、彼女が故郷から持参していた貴重な『醤油』と『味噌』、そして僅かな『白米』の粒を少しだけ分けてもらった。


そして、学園の自室に完全に引き篭もり、僕の持つすべての現代科学の知識と【天界の端末】の演算能力をフル稼働させる、狂気の徹夜作業へと突入したのである。


「アレン、無理しないでね。ほら、魔力回復のポーションだよ」


リズが甲斐甲斐しく僕の部屋に通い、食事や身の回りの世話をしてくれた。

彼女もまた、僕が前世の『和食』を完全再現しようとしていることを深く理解し、その完成を誰よりも強く待ち望んでいたからだ。


僕はサクラから貰った貴重なサンプルを【成分解析アプリ】で分子レベルまで徹底的に分解し、異世界に存在する類似の植物や魔力素を組み合わせて再構築の計算を繰り返した。


アミノ酸の複雑な配列、大豆のタンパク質、発酵を促すための微生物の培養条件の最適化。

そして何より、日本人の魂とも言える『米』のデンプン構造と水分量の完全な再現。


魔法世界の常識を根本から書き換えるような、緻密で膨大なプログラミング作業だ。

三日三晩、一睡もせずに【物質合成アプリ】と格闘し続けた結果、僕の目の前には奇跡のような三つの食材が完成していた。


艶やかな光沢と極上の粘り気、そして噛むほどに甘みが増す『最高級コシヒカリ』。


芳醇な香りと深いコク、そして澄んだ赤褐色を併せ持つ『特選丸大豆しょうゆ』。


大豆の旨味と麹の甘みが完璧なバランスで調和した、黄金色の『特撰麹みそ』である。


「できた……!ついに、異世界に完璧な和食の基本セットが完成したぞ!」


僕は充血した目で、歓喜の雄叫びを上げた。

これさえあれば、僕の異世界スローライフの食のクオリティは、前世の日本すらも凌駕する次元に到達するはずだ。



その日の夕方。

僕はSクラスの面々が自由に使える特別調理室に、リズ、シャルロット、ベアトリス、そしてサクラの四人を招集した。


「アレン殿、三日も姿を見せなかったと思えば、一体何を作ったのだ?」


サクラが不思議そうに首を傾げている。


「ふふふ。サクラ、君の故郷の味を、僕の科学魔法で極限まで高めた究極の料理さ。期待しててくれ」


僕は自信満々に頷き、調理台に向かった。

まずは、錬成した最高級コシヒカリを、厚手の土鍋を使って絶妙な火加減でふっくらと炊き上げる。


パチパチという音と共に、土鍋の蓋を開けた瞬間。

立ち昇る甘く芳醇な銀シャリの香りに、サクラが「おおっ!?」と目を見開いて息を呑んだ。


次に、特撰麹みそと、海産系魔物から抽出して完璧にブレンドした和風出汁を合わせて、ネギと豆腐の味噌汁を作る。


そしてメインディッシュは、僕たちの胃袋を確実に掴んで離さない最強のおかずだ。

上質な魔獣の豚肉を厚めにスライスし、特選丸大豆しょうゆ、すりおろした生姜、少しの砂糖、そして隠し味の果汁を混ぜ合わせた特製ダレに漬け込む。


熱した鉄のフライパンに油を引き、タレの染み込んだ豚肉を豪快に焼き上げる。


ジュワァァァァッ!!


醤油が焦げる香ばしい匂いと、生姜の爽やかで刺激的な香りが、調理室全体に爆発的に広がった。


「な、なんなのですか、この凶悪な匂いは……!以前のハンバーガーの時よりも、さらに直接的に胃袋を鷲掴みにされるような強烈な香りですわ!」


シャルロットがゴクリと喉を鳴らし、目をキラキラと輝かせる。


「ええ……。醤油という未知の調味料、あまりにも恐ろしいポテンシャルを秘めておりますわね。香りを嗅いだだけで、口の中に唾液が溢れて止まりませんわ」


ベアトリスも扇子を強く握りしめ、フライパンで躍る肉から目が離せない様子だ。


「お待たせ。アレン特製、『白米と味噌汁、生姜焼き定食』の完成だ」


僕は四人の前に、炊きたての輝くような白いご飯、湯気の立つ香り高い味噌汁、そしてタレが照り輝く極上の生姜焼きを並べた。


「いただきまーす!」


リズが誰よりも早く箸を手に取り、生姜焼きを口に運んだ。

そして、すぐさま白米をかき込む。


「……っ!美味しい!生姜と醤油の甘辛いタレが豚肉の甘い脂と完璧に絡み合って、それがこのふっくらした熱々のご飯と合わさると、もう無限に食べられちゃうよ!」


リズが幸せそうに両手で頬を押さえ、感動の涙を瞳に浮かべている。

シャルロットとベアトリスも、見よう見まねでぎこちなく箸を使い、生姜焼きと白米を口に運んだ。


「……!!」


二人の令嬢の動きが、雷に打たれたように完全に停止した。


「美味しい……!お肉の旨味が、この黒い調味料によって何十倍にも引き上げられていますわ!そしてこの『白米』という穀物、噛めば噛むほど優しい甘みが出て、濃い味付けのお肉を完璧に受け止めてくれます!」


シャルロットが王族の作法など完全に忘却し、無我夢中でご飯をかき込み始める。


「この『味噌汁』も素晴らしいですわ。五臓六腑に染み渡るような深い味わいと安心感……フレンチのスープとは全く違う、毎日でも飲みたくなる魔力がありますのよ」


ベアトリスも、すっかり和食の恐ろしい中毒性に取り憑かれていた。

そして、サクラである。


彼女は生姜焼きを一口食べ、白米を口に含んだ瞬間、ポロポロと大粒の涙をこぼして泣き崩れたのだ。


「美味い……!美味すぎる!故郷で食べていた母上の飯より、何倍も、何十倍も美味いではないか!」


サクラが号泣しながら、僕に向かって深く頭を下げた。


「アレン殿!貴殿はまさに食の神だ!某の故郷の味を、これほどまでに高みへと昇華させるとは!もう、某はアレン殿の飯なしでは生きていけぬ体になってしまったぞ!」


「あはは。喜んでくれて嬉しいよ。でも、まだまだ色々な料理に挑戦できるぞ。和食のレパートリーは無限だからね」


僕は生姜焼き定食を平らげながら、脳内に広がる和食レシピに思いを馳せていた。

肉じゃが、すき焼き、照り焼きチキン、肉うどん。


醤油と味噌、そして最高級の白米があれば、作れないものなど何もない。


「アレン殿!祖国ヤマトには、他にも新鮮な海の魚をそのまま刃で引いて食す『サシミ』や、厚い肉を衣で揚げて甘辛い汁と卵で閉じる『かつ丼』、魚介や野菜をサクサクの衣で揚げる『天ぷら』など、美味なる料理が山ほどあるのだ!」


サクラが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、僕に向かって熱弁を振るう。


刺身、かつ丼、天ぷら。


その単語を聞いただけで、僕とリズの脳内に前世の鮮烈な記憶が蘇り、強烈な空腹感と郷愁の念が押し寄せてきた。


「刺身にかつ丼、天ぷらか……最高じゃないか。新鮮な海の幸と、本場の空気の中で食べる和食……」


僕とリズは顔を見合わせ、深く、力強く頷き合った。

ここ王都は内陸であり、新鮮な海の幸を最高の状態で手に入れるのは難しい。

ならば、僕たちが取るべき選択肢は一つしかない。


「決めたよ。僕たち、学園を無事に卒業したら、絶対にヤマト国へ行く。僕の目指す究極のスローライフには、本場の和食と美味しい食材が絶対に不可欠だからね」


僕が拳を握って力強く宣言すると、サクラは「おおおっ!」と歓喜の雄叫びを上げた。


「本当か!ならば某も、卒業までアレン殿の背中を全力でお守りしよう!そして、必ず共に故郷ヤマトへ凱旋するのだ!」


サクラが目を輝かせ、僕の手に自分の手を重ねて固く握りしめてくる。


「ちょっとサクラさん!卒業後の進路まで、勝手にアレン様と決めないでくださいませ!私たちも当然、アレン様の妻としてヤマト国へ同行しますわよ!」


シャルロットが慌てて抗議の声を上げ、僕のもう片方の腕にしがみつく。


「ええ。アレン様の専属プロデューサーとして、どこまでもついて行きますわ。それに、ヤマト国の『サシミ』や『かつ丼』という未知の料理、とても気になりますもの」


ベアトリスも扇子を広げ、不敵な笑みを浮かべてサクラを牽制する。


「もー、みんなアレンを狙いすぎ!ヤマト国に行くのはいいけど、アレンの隣でご飯を食べるのは正妻の私なんだからね!」


リズが僕の背中からギュッと抱きつき、正妻としての圧倒的な余裕と愛情を見せつける。



こうして。

醤油と味噌、そして白米という魔法の食材がもたらした衝撃は、僕たちの胃袋を完全に掌握し、卒業後の進路を『はるか東方のヤマト国』へと確固たるものに決定づけたのである。


サムライ少女サクラという新たな仲間であり強力な護衛を迎え入れ、サクラ登場編となる一連の騒動は、極上の美味しい匂いと共に一旦の幕を下ろしたのだった。

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