表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/1469

深海のスナイパー(二十三)

「いらっしゃいませぇ」


 売店でレジの女の子に、エロい商品をお願いする男の子の気持ちは、未成年が酒・たばこを買うときと似ている。


「はい。こちら『ハーレムセット』ですね」


 隠していた気持ちを、ズバリ言い当てられると、人は思わず言訳をしてしまう。

 悲しいかな。それもまた、人の定めである。


「あっ、そ、そうなんですね。まぁ、それで」


 弓原少尉は、後ろの鈴木少佐の方をちらっと見て、『知らなかったけど、良いですよね』の同意を得る。

 急に振られた鈴木少佐も、『良く判らないけどそれで』な顔をして、頷く。ちょっとだけ、口を尖らせながら。


 そこでお金を払って、さっさと任務へ向かう。何なら『つりは要らないぜ』の一言があっても良い。

 二人はそう思っていた。そうなるはずだった。


「世界の美女、実写版、目隠し・モザイク無し版で、よろしいでしょうか?」

「え?」


 笑顔でスラスラと言われた意味が、良く判らない。いや、判るのだが、ちょっと待て。

 レジに持って行ったのは『トランプ三箱』のはずである。


「こちら、世界の美女、実写版、目隠し・モザイク無し版の、三箱セットですが、よろしいでしょうか?」

「はい」


 そう答えたものの、弓原少尉は救いを求めて振り返る。

 そこでレジ横の単三電池を手にしていた鈴木少佐は、冷静だった。頷いて単三電池を棚に戻すと、レジ向かって聞く。


「他に、どういうセットがあるの?」


 一応聞いてみる風。それは、大切な買い物をする前に、自分でも気が付かずにしてしまう行為。自分を納得させるためでもある。

 しかし、レジの女の子は鋭かった。一瞬で二人の関係を見抜く。


 金を出すのは、こっちの少佐殿であるということを。


「こちら『世界の美女』『大和撫子』『世界の制服』の三種類から、

バリエーションとして『実写』『イラスト』『ホログラム』、お好みで『有り』『無し』がお選び頂けます」


 立て板に水。しかも解りやすい。

 それを聞いた鈴木少佐は右手を顎にあて、考えている。


 ふと何かを思い付いたのか、その顎に付けた手を顔の前に持って来ると、人差し指だけを立てて聞き始めた。


「一つ聞いて良いかな?」

「はい。どうぞ」


「『大和撫子』『実写』『無し』は、プライバシー、大丈夫なの?」


 鈴木少佐は再び右手を顎に戻す。するとレジの女の子は、たちまち顔が曇る。


 十八通りある組み合わせの中から、ピンポイントでそのラインナップを注文する辺り、流石、少佐ともなると目の付け所が違う。


「そちらの商品は、現在製造中止となっておりまして」

「うんうん。そうなんだ」


「はい。以前、少将の娘さんが『ハートのエース』に出演しぃ」


 そこで言葉を詰まらせた。そして、困った顔を鈴木少佐に向け、窮状を訴える。


 目と口を八の字に垂らしたその顔を見て、鈴木少佐も思わず両手を前に出すと、『いいよいいよ』と振る。


『ちょっと聞いてみただけだから』

『誠に、申し訳ございません』


 無言だが、二人の間には、そんな会話が交わされていた。


「ホログラムって、何ですか?」

 そんな二人の間に割り込んだのは、弓原少尉である。

 するとレジの女の子は、営業スマイルに戻ると説明を始める。


「こうやって『見る角度を変える』と、動いているように見えるんです。『一枚で二度も美味きもちいい』、というものです」

「そうなんですか」


「はい。ホログラムは、原子力潜水艦のように、長い期間の任務に就かれている方が、買って行かれます」

 弓原少尉は納得して頷いた。

 弓原少尉にしてみれば、イー407の任務も『長い期間の任務』に該当するのであるが。迷う所だ。


「リアルな絵なの?」


 鈴木少佐の鋭い質問に、レジの女の子は再び顔を曇らせる。

 やはり本当に買う立場の人間は、こうもカンが鋭いのか。


「実写やイラストに比べますと、そこはぁ」


 そこで言葉を詰まらせた。そして、困った顔を鈴木少佐に向け、値段の割に不評であることを訴える。


 目と口を八の字に垂らしたその顔を見て、鈴木少佐も思わず両手を前に出すと、『判る判る』と振る。


『やっぱり最後は、基本に帰って来ると』

『正に、その通りでございます』


 無言だが、二人の間には、そんな会話が交わされていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ