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深海のスナイパー(十四)

 大湊基地の滑走路に、晴嵐が無事着陸した。

 短い滑走路に、鮮やかな着陸である。滑走路の突端まで行って、Uターンした。そして、隅に作られた晴嵐用の格納庫に入る。


「少尉、お疲れ様です」

「着きましたか」

 ベルトを外し、機体から降りると、少しフラフラする。


「大丈夫ですか?」

 笑って鈴木少佐に背中を叩かれて、弓原少尉は苦笑いだ。飛んだ『遊覧飛行』に付き合わされる身にも、なって欲しい。

「大丈夫です」

 そう答えるしか、ないではないか。


 本来飛行機は、三沢基地に行くのだろうが、そちらは空母艦載機のたまり場である。こちらは、どちらかと言うと、ヘリコプターのたまり場。だから、滑走路も短い。


 イー407艦載機の晴嵐は、ヘリコプターに分類されているのだろうか。


「じゃぁ、二時半マルフタサンマルに集合で」

 少佐は笑顔で少尉に念を押す。

「判りました。二時半ですね」

 お互いに敬礼を交わし、別れる。少佐はこの後、基地内で晴嵐の整備をしつつ、休憩だろう。


 その間に少尉は、研究所を往復しなければならない。

 そう。研究所に近いのが大湊基地だから、こちらなのである。

 少尉は直ぐに、車の手配をしに向かった。


 大湊基地から車で、国道を東へ小一時間。

 下北試験場にある、気象研究室に向かう。そこで、観測結果を報告するのだ。


「あっ、弓原少尉、お疲れ様です」

「ご苦労様です」

 お互いに頭を下げて、挨拶をした。どうやら、先客がいたようだ。


「窓、閉めましょうね」

 そう言って、掃除をしていた男、山田が弓原に頭を下げた。

「お願いします」

 弓原も会釈して、カバンを机の上に置く。


 丁度掃除中だったのだろう。窓も全開になっていて、殆ど外だ。このまま上着を脱ぐべきか、迷ってしまう。

「すいませんねぇ。直ぐ閉めますからね」

 そう言いながら、山田は窓を閉めて行く。弓原は部外者の山田が外に出るまで、作業を始めるつもりはない。

 だから、窓を閉めるのを手伝いながら、世間話をする。


「何か、変わったことはありませんか?」

 笑顔で山田に話しかけると、山田は士官殿が窓閉めを手伝っているのに驚きつつ、笑顔で答えた。


「ここん所、警報が多くて、困りますわ」

 そう言いながら、手は休めない。窓を閉めた。

「警報? 何の警報ですか?」

 そう言うと、「関係者なのに知らないの?」という、不思議な顔をしながらも、山田が答える。


「陸軍さんからの、警報です。ほら、サイレン鳴る奴です」

 そう言いながら、右手をクルクル回した。

 弓原は首を捻って考える。何だか判らない。それでも、以前、山田と話した内容を思い出して、質問を続ける。


「大間の方でしたっけ?」

 そう言って、大間漁港の方を指さす。そんな適当な質問でも、山田には判ったのか、「そうそう」という感じで頷いた。


「あれが鳴るとね、漁にも出られないんだけど、家ん中に入らないと、いかんのですよ」

 そう言って、山田は手を振った。


 まったく冗談じゃない。といった感じだが、ここが軍の施設だと思い出し、キョロキョロし始める。

 大丈夫。関係者は誰もいない。


「じゃぁ、私はこれで」

 全ての窓を閉め、掃除道具を持った山田が、弓原に頭を下げた。そして、出口へ急ぐ。

 ここで何をしているのか知らないが、邪魔をしたらいけない。

 そう思っていたのだが、しかし、不意に弓原から声を掛けられた。


「今日も、警報出ました?」

 扉を締めようとしていた手を止める。山田は首を傾げ、思い出す。


「はい。出てましたね」

「何時頃ですか?」

 弓原の質問に、山田は再び考える。


「えーっと、午前中だったと思いますけど、何時だったかなぁ」

 思い出せないようだ。それだけ頻繁に警報が出ているのだろうか。

 しかし、山田の表情が変わった。


「警報の後、大砲の音がね、聞こえたんですよ!」

 嬉しそうに山田が言う。弓原はそれがヒントなのだと思ったが、それじゃぁ、良く判らない。


「大きかったんですか?」

 そもそも、大砲じゃ判らん。

「はい。あれは海からでね。戦艦陸奥ですかね?」

 あぁ、嬉しそうに言う理由はそれか。と、弓原は思う。


 ご当地の名前が付いた戦艦だからなのだろう。

 戦艦陸奥が引退し、横須賀で観光客を乗せるようになって久しいが、この地ではまだ『現役』のようだ。


「あれは、戦艦大和なんですよ?」

 弓原は笑顔になって、覚えたての知識を披露した。すると山田は、目を見開いて驚く。


 どうやら、ずっと戦艦陸奥だと、思っていたようだ。


「そうなんですか! 流石、少尉殿!」

 頷きながら、山田は扉を閉め、行ってしまった。

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