深海のスナイパー(九)
「副長、プラグ三は、本当に『青弾』なのかね?」
呼ばれた副長が、『蒼鯨一覧』を見て、確認している。
「はい。間違いありません。
三十三時間前に、イ―406が敷設しています」
そう言って、艦長の方を見た。艦長は頷く。
「そうか。清田中佐なら、間違いないだろう」
そう言って艦長の上条中佐は笑顔になった。副艦長の宮部少佐も、思わず笑顔になる。
「金崎少佐には『やられました』からねぇ」
副長の言葉に、艦長も苦笑いで頷く。
津軽海峡に潜む『深海のスナイパー』は、イー406・清田中佐、イー407・上条中佐と、新任のイー408・金崎少佐の艦長に任されている。
そして、蒼鯨にセットされた魚雷、『赤弾』と『青弾』を使い分けて、攻撃を実施する。
当初は『津軽東』も『津軽西』も、『奇数が赤弾』、『偶数が青弾』と、綺麗に分けて運用されていたのであるが、運用するにつれ、段々と『例外』が多くなり、今や『バラバラ』である。
津軽海峡を西から東へ向かう艦に対して、津軽西からは『青弾』、津軽東からは『赤弾』を使用することと、『厳命』されている。
逆に、津軽海峡を東から西へ向かう艦に対しては、津軽東からは『青弾』、津軽西からは『赤弾』の使用が『厳命』されているのだ。
その理由について、艦長の三名は聞かされているのだが、副長以下、全乗組員は、知らされていない。
そもそも『青弾』『赤弾』の『二種類』が、存在していることを知っているのは、艦長と副長のみ、なのである。
新任のイー408・金崎少佐は、大分慣れてきた五回目の『蒼鯨放流』で、『青弾』を『赤弾』として報告してしまったのだ。
それを、イー407・上条中佐が、攻撃直前で気が付き、蒼鯨での攻撃を中止。素早くイー407からの魚雷攻撃に切り替えて、事なきを得たのだ。
「いやぁ、あの時は、緊張したよ」
思い出して艦長は、渋い顔である。
津軽東で『青弾』を標的艦に使用した場合、津軽西では『轟沈必須』と、これまた『厳命』されているのだ。
そんな命令、無茶であることは、誰もが承知している。
しかし『深海のスナイパー』は、狙いを外したことは一度たりともない。
それもまた、無言のプレッシャーではあるのだが。