海底パイプライン(四百九十三)
現れたのは黒木。拳を虎雄のヘルメットに対し垂直方向に振り下ろす。頭は痛くないが首に来た。どんだけの怒りをぶつけたのか。
鬼か? それは違う。鬼は鬼でも『仕事の鬼』であるから、厳しいのは仕事についてだけ。他は顔に似合わず、意外にも優しい。
飲み会だって、仕事に関係無ければグダグダ説教を垂れたりはしないし、割り勘だって受け付けちゃう。実に温厚な性格である。
シレっと電源コードの根元を抜き差しして、それがリセット。四平がジッと見ている。そして自ら溶接ホルダーを手にした。
「良いか。よーく見てろよ」「えっあっはい」「師匠お願いします」
首を押さえながら頷く虎雄に対し、黒木を師匠と拝む四平。黒木がどちらを『好印象』と捉えたかは推して知るべし。
「こうやるんだ。最初はチョンチョン」『バチバチッ!』「うわっ」「ほう」「ってやってだな。ホラ見てろよぉ。起こしてやれ」
虎雄は驚き過ぎだ。再び尻餅。火花はさっきも見ただろうに。
「もっかいやるぞ? 最初はチョンチョン」『バチバチッ』「で、あとは一定の距離を保つ。ホーラホラホラホーラホラァ♪」『合ってた……』「良いか? くっつけちゃダメだからな?」「はい!」「あのぉ、何と何をくっつけちゃダメって?」「なっ、見て判んない?」「眩しっ」「大袈裟なんだよ。ホラ、コレよコレ」「うぅ」「溶接棒と溶接面ね」「はい……。見えねぇ……」「これくっつけちゃうと、さっきみたいにバチンだから」「はい」「そしたら、ホーラホラホラホーラホラァ♪」『バチバチバチッ』「上手いもんだ」
溶接棒が溶けてヒビを塞いで行く。黒木はヒビの箇所だけでなく、周りにも均等に盛り上げて溶接を終えた。カチンとコードを引き抜くと、熱心に聞いていた方。四平の手に溶接フォルダーを渡す。
「こんな感じで。ココはもう良いだろう」「ありがとうございます」「モノレールを追い掛けて次の箇所聞いて。俺は見ながら行くから」
黒木も初めてだろうに、既にベテランらしい動き。若手二人を見送って、神田の作業箇所へと向かった。
まだ『くっ付いちゃった』のを、何とかしようとしている。
「あぁ、引っ張っちゃダメ!」「エー?」「じゃぁどうすれば?」「ちょっと退いて」「ダー」「溶接棒を一旦外すね」「エーダ?」
黒木は溶接フォルダを手に取ると、そこから溶接棒を外した。
逆側は溶接面にくっ付いたままになっているので、宙ぶらりん。今外した溶接フォルダー側を神田に持たせている。そしてズボンに指してあった新しい溶接棒を取り出して溶接フォルダーに装着。
「しっかり持ってて」「ダー」「軽くなって来るから、良いって言ったら外して」「ダー」「でも、絶対落とすなよ?」「ダーダー」
通じたのか判らんが黒木は溶接を始めた。さっきと同じように『チョンチョンスタート』である。そして火花が飛び始めたら、くっ付いていた所を集中的に温め始めた。神田は怖くて顔を逸らしている。
そうなることを黒木は予想していたのだろう。神田の手の上から自分の手を添えていた。くっ付いてしまった溶接棒をゆっくりと上下に振りながら、軽くなった一瞬を見逃さず無事引き離す。
神田の手をギュッと握り締めて『落とすなよ』を念押しした後は、補修作業の方に集中だ。無事溶接をやり終えた。
「ねっ? 上手く出来たでしょ」「ダーダー」「じゃぁ、次行って」
黒木が指示すると神田ペアがモノレールを追い始めた。黒木は辺りを見回すと『自分の作業』に取り掛かる。何の『作業』なのやら。




