深海のスナイパー(六)
大間崎沖、六キロ。海中百メートル。
津軽海峡の東側の最狭部のやや南側。あまり大きな声では言えないが、今、イー407が作戦中である。
「海上通過船舶なし。海流、東へ六ノット」
「現在位置を保て」
艦首を東に向け、海流の中を微速後進。後ろ向きで待機中だ。
「そろそろプラグが起動する時間だな」
艦長は時計を見た。しかしそれは、普通の時計ではない。
そこには『津軽東』のプレートがあり、八つのデジタル時計が並んでいる。上から順に『プラグ壱、弐、参~八』を表す。
そして、全部バラバラの時刻を表していて、数字の動きも『カウントダウン』である。
現在艦は、プラグ四の場所で待機中だ。そして、プラグ四の時計が、ゼロになった。
「プラグ四の起動音確認。距離百」
それを聞いた艦長が、発射管室に指示を出す。
「プラグゼロ発射準備」『プラグゼロ、発射準備了解』
発射管室からの応答が響く。
「艦首下六十。上昇中。五十、四十」
その間も、プラグ四の距離報告が続いている。
『プラグゼロ、発射準備完了』
「プラグゼロ、発射準備完了、了解」
艦長が応答した。
「艦首下二十、反射音探知。水平移動に入りました」
プラグ四は、自立型の『水中ドローン』である。
「プラグゼロ発射」
艦長の指示が飛んだ。直ぐに操作が行われる。
「プラグゼロ発射了解。発射しました」
艦内からは見えないが、魚雷発射管から『プラグゼロ』が、海流に乗って、艦の前方に出ているだろう。
「プラグゼロ発射確認。二十、五十、七十」
「微速後進」
「プラグ四より受信あり。結合します」
「艦首下、五十にてプラグ結合を確認」
それを聞いて、発令所に安堵の空気が流れる。
「結合確認。プラグ四停止完了。充電準備完了です」
その報告を受けて、艦長が指示を出す。
「充電開始」「充電開始了解。充電が始まりました」
充電が始まると、発令所のディスプレイに、『母艦』の様々な情報が表示される。母艦の充電残容量、機器の状態表示、現在時刻、そして、魚雷残弾数である。
「問題ないようだな」「そうですね。問題ありません」
それを一読して、艦長が副長に確認した。
艦長は『津軽東』の『プラグ四』のデジタル時計を見る。ゼロで止まったままだ。
「今回、指示はあったかな?」
艦長が副長に確認する。副長は指示書を確認して回答する。
「ウラジオの動きはないとのことです。特に指示はありません」
「十時の?」
最新の定時連絡を受信したのか? と聞いている。
「はい。そうです」
「了解。それでは、プラグ四の次回起動を、四十八時間後にセット」
艦長がまた指示を出した。
「プラグ四の次回起動を、四十八時間後にセットします」
「四十八時間後了解。プラグ四、四十八時間後、確認」
それを聞いて、艦長は頷いた。
そのまま、母艦への『充電』が暫く続いていたが、それが九十九%になったとき、艦長が『切り離し』の指示を出す。
「プラグ分離」「プラグ分離了解。分離します」
「プラグ分離を確認。プラグ四の起動音確認」
艦長が発射管室に指示を出す。
「プラグゼロ放棄」『プラグゼロ放棄了解。放棄しました』
「放棄了解。ありがとう」
艦長がマイクを置いた。そして、『津軽東』を確認する。
「プラグ七に向かえ。微速前進」
イー407はスクリューを反転して、前進を始めた。