表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/1471

深海のスナイパー(四)

「艦長、弓原少尉をお連れしました」

 副長の宮部少佐が、後ろ姿の艦長に声をかけると同時に、艦長が振り返る。

 音に敏感な『潜水艦乗り』らしい反応だ。


「艦長の上条です」

 気が短いのか、それとも『客人』だと思っていたのか判らないが、振り返って目に入ったのは、『部下』であった。


「気象予測官の弓原です」

 そう言って敬礼する。艦長も敬礼で応じ、握手をした。


「よろしくね。中島中尉の、同期なんだって?」

「はい。大学の方ですが」

 普通士官同士が『同期』と言ったら、『江田島』のことを指すのだろうが、弓原少尉はそうではない。


 医官とか事務方は、『江田島送り』にならずとも、専門職として士官になるルートがあるのだ。

 気象予測管も、そんな職業の一つだ。


「中尉の扱い、苦労したんじゃない?」

 艦長が含み笑いで、監視係の中島中尉の方を、ちらっと見た。


「判って頂けますか」

「ちょっと、待って下さいよぉ」

 しみじみとした口調で弓原少尉が言うものだから、中島中尉は困った顔をする。

 割と上手く、立ち回ってきた筈なのだが。


 指令所の一同が、チラチラとこちらを見て、一緒に笑っているではないか。


「少し、雲が出ていたようだが、来るときも観測したのかい?」

 艦長が笑うのを止め、仕事の話をする。


「はい。雲の中に突っ込んでもらって、試薬を雨で、濡らしてもらいました」

 そう言って、右手で飛行機の形を作り、飛ばして見せた。


「東京では、雨で人が溶けるらしいねぇ」

 しみじみと言っている。

 しかし、そんな東京でも、たまには上陸もしたいだろう。


「はい。なので、危険範囲の調査で、今回派遣されて参りました」

 艦長が「うんうん」と頷いている。そして聞く。


「大丈夫だったかい? 溶けたりしなかったかい?」

 艦長は両手を広げて翼を作り、そして雲の中で揺れている様を表現する。なかなか明るい艦長だ。


「少し揺れましたが、大丈夫でした」

 弓原少尉は、そこまで揺れなかったと思い、右手を振っている。

 すると艦長は、右手を『ヒュッ』と持ち上げる。


「羽が『ポキッ』って、ならなくて、良かったね!」

 そう言って笑った。弓原少尉は目を丸くする。

 同じことを『晴嵐』のパイロット、鈴木少佐にも言われたからだ。


「それは、勘弁して下さい!」

 苦笑いで弓原少尉は答える。

 天気予測以外のことは、良く判らないのだから、勘弁して欲しい。


「晴嵐の訓練にもなるから、良いんだけど、今度『寄り道』するときは、連絡してね」

「はっ」

 真顔で言われて、弓原少尉は気を引き締めた。


「今回は『補給中』だから良いけど、一応潜水艦も、分単位で動いているのでね」

 にっこり笑っているが、これは警告である。


「承知しました」

 弓原少尉は頭を下げ、そのまま固まった。

 それを見た艦長は、副長の肩越しに目を向ける。

「中尉」「はっ!」

 中島中尉は、艦長に呼ばれて緊張する。気を付けの姿勢で、次の命令を待つ。


「何か『暗号』、考えてあげて」「承知しましたっ」

 案はありません! 相談します!


「カッコイイ奴ね!」


 艦長命令に造反する気もない中島中尉だが、その『命令』には困った顔をして固まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ