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海底パイプライン(四百六十三)

 黒田がサラッと示した水位は二メートル程である。それは黒田の身長に多分に影響が。もし黒田の身長が三メートル程であったなら、かざした掌が丁度五メートルになっただろう。まぁそうしたら、黒田はもしかして軍人ではなく、バスケットボールの選手になっていたかもしれない。又はプロのポートボールプレイヤー。日本人初の。

 ちょっと見てみたいかもしれない。テレビ中継されないかしら。


「そんなんあるぅ?」「まぁ、信じる信じないは勝手だがな」

 言い残してサッサと行ってしまった。可愛い部下を避難させねば。

 冷たくも固い決意を聞いた五所川原だって部下は可愛い。避難させたいがしかし、バスは二つ折りになっていて使用不可。さてさて。

 一番近くの高台と言えば『換気扇の上』であるが、それはどうかとも思う。何せ立ち位置が流れに対して壁なのだ。濁流に押されて『パタン』と倒れることもあるかもしれない。実際一番端の換気扇は、ダイナミックに倒れていたのだ。海側へドーンと。

 まぁ、そのためにクレーンを用意していたのだろうが。何だかね。


「隊長、もしかして『クレーンの上』なら安全かもしれませんよ?」「死にたいのか?」「やっぱりダメですか」「ダメだろ。クレーンごと流されちまうに決まってるだろw」「やっぱそうですかぁw」

 呑気なことを言っていられるのは今の内だ。いつ濁流が襲い来るかもしれない。しかし実際『今は無い』のが現実である。


「でもねーさん。柱の梯子に取り付く位は、出来ると思いません?」

 長宗我部は遠くにある柱を指さした。アンダーグラウンドを支える巨大な柱だ。全部ではないが、そこに梯子が設置されているものがある。しかしメンテナンスが疎かになっていると、水に浸かるであろう部分がポッキリと折れていて使えない。

 成程。確かに黒田が言う通り『五メートル付近』でポッキリ。


「おいみんなっ聞けっ! 作業中止だ。撤収。濁流が来るぞっ!」

 黒田の大声で部下達が一斉に振り返った。虎雄は判るが、ゲームをしていた四平まで顔を上げたから不思議だ。多分だが、黒田も『四平は流されても良いや』と思っているに違いない。目合わせないし。

 控え目に言って、人間の価値はゲームのプレイ時間だけでは判断出来ない『はず』なのだが、無情である。まぁ致し方ないだろう。


「ど、どうすんだ?」「トラックで逃げるしかネェべ?」「どこへ」

 答えは無かった。語尾『べ』が平仮名なのか片仮名なのか気になる。べとベ。又はベとべ。発音の違いは? ならばへとヘは?


「どうだって良いだろw。来んのか来ないかどっちだw」「行くよ」

 最早虎雄に主導権は無い。トラックは『組の物』なのに、勝手に使うつもりでいるらしい。いや鍵が無いと動かないよな? 鍵は?


「じゃぁ、急いで行きましょう。俺、ホラ鍵、持ってるんで」

 チラリとでも見せたのが四平の運の尽きと言えよう。殴ってでも奪い取るつもりでいた者が居たからだ。腕がニュッと出て来る。


「ヨシッサンキュ」「あっ」「お前は残ってて良いぞ」「嫌ですよ」

 黒沢によって流れるように奪い去られるが、四平は何も言えない。

 それより今は、付いて来るなと言われても付いて行くつもり。当然のように、他の者も走り出していた。皆アンダーグラウンド生活が長い。洪水が起きたらどうなるかなんて、確認するまでも無い。

 ただ一人を除いて。換気扇の上でバケツを掻き回し『洗浄液を作成中』の奴が。多分そこに居れば、直ぐに死ぬことはないと思う。

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