深海のスナイパー(二)
「ところで、階級章は持ってるかな?」
そう言って自分の肩を指さした。宮部は少佐らしい。
「はい。一応『少尉』の奴を」
そう言って弓原は、手持ちのカバンを指さした。すると宮部少佐は頷いて、ポケットから『辞令』を出した。
「これ、モールスで来た奴だから、カナに直したんだけど、あんまり形式ばってないけど」
そう言って『辞令』を見せる。
「そうなんですね。どうするのかなって、思っていたんです」
弓原は納得して頷いた。
「一応、『本物』だから」
そう言って、両手で弓原に渡す。すると弓原は真顔になって、両手を差し出し、辞令を拝領した。
「弓原少尉、イー407勤務を命ず」
「はっ!」
弓原は『辞令』を受け取って、敬礼する。宮部少佐は笑顔になって、中島の方を見る。
「久し振りみたいだから、艦長に会う前に、色々教えてあげて」
「はっ!」
中島中尉が笑顔で『正しい敬礼』をして、弓原を見る。
「すまんね」
弓原が中島に言う。すると中島が怒り出した。
「上官に向かって、その言葉遣いは何だ!」
そう言ってから、「ニヤッ」と笑う。
対する弓原は、目を大きくして驚く。今更ながら、中島が『中尉殿』であることに、気が付いたようだ。
「まだ、軍服じゃないから、セーフで」
そう言って、自分の肩を指さした。宮部少佐も笑っている。
「そうだ。おまけしてやれ」
そう言って、言い争いは『外でヤレ』とばかりに、手を振り始めた。二人は敬礼をして、士官室を出た。
二つ先が二人の士官室だった。入り口のドアを閉めて、二人だけになれば、友人に戻る。
「お前が『死んだ』って聞いたときは、びっくりしたもんだよ」
弓原が苦笑いで中島を指す。そしてカバンを持ち上げて、中から軍服を出す。
「なんだ、お前の『びっくりした顔』、見たかったなぁ」
そう言って二段ベッドの下の段に座り、弓原を指さした。
「もうね、凄く悲しくてね、涙がウオンウオン出ちゃってね」
「本当か?」
着替えながら話す弓原に向かって、中島は思わず前のめりになった。そんなに大事に、思っていてくれていたとは。やはり学生時代の友は、良いものだ。
「あんなにレポート手伝ってやったのに、もう死んじゃうなんて!」
そう言って、弓原は両手を震わせているではないか!
中島はその場でズッコケた。
やはり、コイツは味方に付けておかないと、何を吹聴されるか判った物ではない!
「何だよ。それはぁ『お好み焼き』を、お前、俺の肉をお前に『増量』してだな、ご馳走して、チャラにしたじゃんかよぉ」
中島が鉄板の前で両手を合わせて弓原を拝みながら、自分の『豚小間』を一枚だけ、弓原の方に譲った光景を思い出す。
「そうだっけかぁ?」
そう言い終わった所で、弓原は制服に着替え終わった。
カバンから帽子を取り出し、頭に載せる。
「肉増量で、チャラであります! 中島中尉殿!」
何か急に言われても、還って気持ち悪いと思うものだ。