陸軍東部第三十三部隊(二十七)
「あとね、これなんだけどさ」
技術最高顧問が、手に持った『キング』で、『クイーン』を、チョンチョンと叩いた。
女の話か? いや、まだ目が真剣だ。違うな。
駒の動きから『示唆』しているのだろう。
「中継局でしょうか?」
「そうだ」
正解。高田部長はドヤ顔で、琴坂課長の方を見る。ちょっと悔しそうだ。
ざまあみろだ。チェスくらい、勉強しておけよ?
「対策は、万全なの?」
「勿論です」
今度は琴坂課長が答え、ドヤ顔で高田部長を見る。先に言われた高田部長は、鼻をちょっとだけピクつかせた。
「言っとくけど、『暗号化されているから百パー安全』なんてのは、『万全』とは、言わないからね?」
「勿論です」
今度は高田部長が先に答え、ドヤ顔で琴坂課長を睨み付ける。
しかし、琴坂課長は青い顔だ。
「あれ?」
「『あれ?』じゃないだろう!」
技術最高顧問が叱るのは、高田部長である。むしろ部下の部下には、笑顔である。
「乗っ取りには、非対応なの?」
「ええ。一応『案』はあるのですが」
琴坂課長は、笑顔が怖い技術最高顧問から目を逸らし、高田部長に助けを乞う。
「どんな案なの?」
技術最高顧問は、高田部長に聞く。すると珍しく、高田部長自らが答える。
「乗っ取られた場合は『オオカミが来たよ信号』を出しまして、周りに警戒させます」
「それで?」
技術最高顧問は腕を組んで聞く。
「三回『オオカミが来たよ信号』の受信で、そいつはハブります」
ハブるとは『ハブんちょ』の略。正常集団から省くことだ。
「何秒で?」
「0.000002秒です」
流石、高田部長。仕様を、聞かれた単位に変換して答えている。
「ちょっと速いな」
もしかして『秒』で聞いたことを後悔しているのだろうか。
「速いですか?」
「あぁ。0.00003~0.002秒の間でばらせ」
違った。ちゃんと理解していた。
頭の中で、単位変換しているようだ。
「ばらつかせるんですね」
「そうだ。周期があると『ハブった』のがバレるぞ?」
何が起きているのか判らなくさせるのも、作戦の内。
「判りました」
高田部長もその意図を理解した模様。
「あとは?」
技術最高顧問は駒を盤上に置き、腕を組んだ。まだ心配していることがあるようだ。
「定期的に『死んでる人、手挙げて』って信号を送ります」
「いいねっ。『はいっ!』って、手挙げたらハブるの?」
笑いながら、自分で手を挙げている。
そう。本部本部長はそういうとき、昔から真っ先に手を挙げるタイプだ。
「そうですね!」
はい。もう一人追加。
高田部長も『秒』で、手を挙げるタイプだ。
話に入れなかった琴坂課長が、そう思って見ていると、「お前も手を挙げるよな?」な目で、高田部長と目が合う。
琴坂課長は、困った顔をする。
それは、究極の二択である。
手を挙げて『馬鹿な三人目』として落ちを付けるか、それとも、「お前ら死ぬ気ないだろう!」と、『突っ込み』を入れるか。
仕事のことは抜きにして、どちらが受けるか? と、言うことだ。
うーん。会社って、大変だ。