陸軍東部第三十三部隊(二十四)
作戦は三時間余りで、ミント師団の圧勝で終わった。
南北に走る清州通りと、大横川に挟まれた長方形の区域を、北は本所吾妻橋、南は小名木川までを完全に掌握。
大堀川、小名木川に架かる橋を全部制圧した所までが、今回の作成だ。
次の作戦に向けて、現在は第三戦闘配備となっている。
画面上は、警戒担当のチョコミント部隊が、偵察用にカスタマイズされた『ミントちゃん』を飛ばしている光景が、映し出されていて、あまり動きがない。
その間、各種戦闘用として、ゴリゴリにカスタマイズされた『ミントちゃん』は、自動警備一五型の背中で、一旦充電中である。
「じゃぁ、今日は、ここまでにしようかぁ」
そう言ったのは、今日も本部本部長に勝てなかった、高田部長である。
「撤収を、シミュレート、しますか?」
確認したのは、琴坂課長だ。
すると、高田部長は「うーん」と、何だかめんどくさそうな顔をして、首を傾げる。
琴坂課長から見えていない、他のメンバーも、残業になるのが判っているのか、渋い顔である。
「何回もやってるから、良いんじゃない?」
高田部長が両手の平を上にして、終了宣言と同義の言葉を吐き出すと、「後は任せた」の感じで、琴坂課長に敬礼すると、本部本部長の方へ歩き出す。
「じゃぁ、片づけましょうか」
と、言いながら琴坂課長が振り返ると、他のメンバーの笑顔が見えた。
今日で、三十回目のテスト。もう飽きたのだろう。
宮園課長の手が動き出す。そして、琴坂課長の方を見ると、満面の笑みで聞いてきた。
「じゃぁ、やっちゃって良いすか?」
「あぁ、良いよ。まったく、お前も好きだなぁ」
そう言って右手を縦に振ると、琴坂課長は自席の端末を操作し、フランス基地を呼び出す。
「ヘイ! 神崎朱美! そっちはどう?」
何で、こんな呼出なのか。本人希望とは言え、恥ずかしい。
「ハーイ。フランスは、今日も曇りデェース!」
そう言う画面の背景には、雨が映っているのだが? まぁ、それは良しとしよう。
「突っついてみて、何かありましたぁ?」
「特にナッシング、デェース! オヤスミナサーイ!」「あ、どもー」
呼び出したのが琴坂課長だったから、という訳では決してないことを祈りたいが、報告は三秒で終わった。
琴坂課長は溜息をつく。
「では、作戦名『春巻丼』開始!」
宮園課長が作戦名を指令して、画面が動き出したのだが、隣の山崎は復唱を拒否し、渋い顔である。
それでも、画面上には『◇』が一斉に動き出し、地図がどんどん真っ赤に染まってゆく。
一番右の部隊一覧は、モードが全て赤色の『自爆攻撃』に変わっていて、実施済のものから黒色に変わって行っている。
地図とは対照的だ。
「もしもし『ミントちゃん』、消火してー」
あざ笑うかのように指示をしたのは、富沢部長である。横目に琴坂課長も、同調して頷く。
シミュレートでも、東京で自爆攻撃をするなんて、趣味が悪い。
『消火弾を、使用しますか?』
ミントちゃんからの提案が、薄荷乃部屋に響く。
「それは古い!」「前世紀の遺物か!」
思わず叫んだのは、意外にも富沢部長と山崎であった。またレアな物を、よくご存じで。
琴坂課長は『消火弾?』で、固まっている。
「人間、古いんですかぁ?」
うっかり漏らした宮園課長の一言で、彼が指揮したこの作戦は、僅か十三秒で終結となった。