陸軍東部第三十三部隊(二十一)
先遣隊であるチョコミント部隊が、警戒しながら、蔵前橋通りを東に進んでいく。
赤い『凸』までは遠い。しかし、警戒は怠らない。
何故なら赤い『凸』は、現在把握している場所であって、把握していない場所の方が多いからだ。
敵は、そんなに甘くない。
そうこうしている間に、地図上の表示された『◇』の表示が、色別に切り替わった。
高度を青系統で三色。高い方から濃紺、青、水色だ。
空は見えないが『空色』。ちょっと気が利いているではないか。
『ミントちゃん』は、自立飛行型のドローンである。
誘導役の二機が一番上空を飛び、一段下の高度を、昔の道路に沿って四機が監視、二機が人の目線の高さ、約二メートルを飛ぶ。
障害物があると、そこに入って行き、各種センサーで『クリア』を確認。すぐに道路まで戻って来る。
無線で位置情報を交換し、現在地を割り出しているが、内蔵されたジャイロによっても、現在地を把握できる。
だから、クリア確認に行ったミントちゃんが、監視役からの無線範囲外に行ってしまった場合は、監視役はその場に停止する。
そして、クリア確認をして戻って来たら、また移動を開始する。
こうして説明していると、どうも長ったらしいが、実際に働く様子を眺めていると、そんな複雑なことは感じられない。
地図上には、どんどん『クリア』となった場所が『白色』になって行っている。
八機のミントちゃんが連携して、クリア箇所を増やしているのだが、どうしても立ち入ることができない場所もある。
だから、そういう区画を八機で取り囲んで『一斉サーチ』を行い、『まぁ、人間も入れないでしょ』と、判断された場所は、『黄色』に塗られて行く。
そして八機は『見切り』も付けて、次の区画へと進んでいくのだ。
だから画面には、『黄色』となっている箇所も散見されるが、あまり気にしない方が良い。
何故なら『クリア』を確認した『白色』も、部隊が離れてから三時間で『黄色』に変化し、一時間毎に色が『灰色』に近付いていく仕様になっているからだ。
戦況は、どんどん変化する。と、いうことだ。
「鳥越神社、通過」
「鳥越神社、通過了解。全機異常なし」
鳥越神社は人工地盤上に移転したので、正確には『鳥越神社跡』であるが、そこは勘弁してあげて欲しい。
部隊の先頭が、鳥越神社跡を通過し、ゆっくりと、国道六号線との交差点に迫る。
「国道六号を、浅草方面に右折せよ」
琴坂課長が指示を出した。すると指示が飛び交う。
「浅草方面に右折了解。チョコミント部隊、蔵前橋方面、及び、蔵前二丁目交差点付近を重点探索」
宮園課長が復唱すると、隣の山崎が頷いて、手元の画面を凝視する。
「蔵前橋方面、及び、蔵前二丁目交差点付近重点探索了解。
二小隊、蔵前橋手前五十メートルまでクリアせよ。
残りは新堀通りから順次探索、指定に従え」
そう言うが早いか、手に持った『電子ペン』で、地図上の『地番ブロック』をチョンチョンと突っつく。
すると、その地番が『オレンジ色』に変わった。
どうやら、『指定に従え』の場所を指示しているようだ。
一斉に『◇』の群れがそこへ移動して行き、次々と『白色』に変え始める。
「全機、異常なし。作戦続行中」
時折、マザーコンピュータの声がこだましている。
作戦は始まったばかリだが、順調のようだ。