陸軍東部第三十三部隊(二十)
薄荷乃部屋に、再び薄荷飴が勢ぞろいした。
部屋の見た目は前回と同様だが、『多少』改修が加えられている。
と、言っても、ハードウェア的な改修ではなく、ソフトウェア的な改修である。
先ず第一に、四つあるディスプレイの内、一番右のスクリーン。
以前は『雰囲気作り』のため『寿限無寿限無五劫のすりきれ』と、流れ続けているだけだった。
それが今回から、情報表示として機能するのだ。
先程から、部隊編成を表す英数字の羅列が、スクリーンに所狭しと流れ続けている。
中央の二画面は東京の地図が表示されている。
地図と言ってもそれは、『アンダーグラウンド』部分であり、黒を基調とした地味な表示だ。
所々に表示されている『緑』部分は、江戸城、寛永寺、荒川河川敷等、大きな『穴』となっている箇所。
その部分は『立入禁止ゾーン』である。
それ以外に、所々『真っ黒』になっている部分がある。
細いのは、アンダーグラウンドを支える巨大な柱であり、太いのは、地上から全部ビルになっている箇所。
そこは『立入禁止及び攻撃禁止ゾーン』だ。
それ以外の、やや明るい灰色の場所に、赤色の『凸』が、複数個表示されている。
地図の右上には『時刻』と、その下に『経過時間』を示すデジタル表示が時・分・秒が揃って表示されている。
今は、時計だけが進んでいて、経過時刻はオールゼロのままだ。
「では、始めますねぇ」
緊張感のない声。琴坂課長だ。
昨日、高田部長から懇々と説教されて、気持ちが沈んでいる。楽しみにしていた『特別ボーナス』も、出なかった。
無いこと無いこと色々大変だったと、苦労話を聞かされ、『お使いも碌にできないのか』と叱られて、それで終わりだ。
琴坂課長が『大佐に詫びを入れる』と言ったのに、それは色々理由を付けて止められた。
しかも驚いたことに、『大佐の前で二度と話題にするな』と、厳命される。
理由はもちろん、『その方が面白いから』だ。
ホント高田部長は、悪い奴である。
「おう、始めてくれぇ」
緊張感のない声。悪の権化、高田部長だ。
一番右のスクリーンに映る『チェスの対戦画面』を凝視していて、琴坂課長の方を見ていない。
「薄荷2000、作戦開始!」
琴坂課長が、ちょっとだけ気合を入れて叫ぶ。
すると秋葉原付近から、日章旗の付いた『凸』が、どんどん出て来る。そして、蔵前橋通りを東へ移動し始める。
「オペレーション・ミント2000・開始確認。全機異常なし」
富沢部長の、如何にもオペレーター的な、抑揚が抑えられた女性らしい声が響く。
「全機異常なしを確認。作戦、開始します」
天井から『マザーコンピュータ』の人工音声が響く。
「全機異常なし了解。チョコミント部隊、一から八、分離開始」
「チョコミント部隊、一から八、分離開始、了解」
宮園課長の低い、やはり抑揚を抑えた男性らしい声で、チョコミント部隊の分離開始命令が発令されると、山崎が、同様にその命令を復唱する。
すると一番左端の部隊表示の数字が、突然忙しくなる。目まぐるしく座標を表す数字が変化し、それに連れ、地図に沢山の『◇』が表示され始めた。
どうやら『凸』が自動警備一五型で、『◇』がミントちゃんのようだ。
「全機警戒モード」
「全機警戒モード・異常なし」
モニターを確認して、淡々と事態が進行してゆく。気が付けば、画面右上の『経過時間』が、五分を経過していた。