陸軍東部第三十三部隊(十)
『お待たせ致しました。こちら、みんな大好き「イーグルを出せ!」
今度は一発で上手く行った。早くイーグルを出せ。
『ぶちょー、またですー』
だから、聞こえてるって。ホント、この会社、大丈夫か?
『しゃーねーなぁ。じゃぁ回してって、あれ? もう繋がってるの? もしもし? 山岸さん? またですか?』
イーグルの呆れた声が電話口で響く。ムカつく奴だ。
「いや、あのですね、この辺で作戦中なの、うちだけなんですよ」
『いやいやいや、陸軍さんの作戦について、こんな一般回線で説明されましても、家ではどうしようもないんですよ』
そんな説明をしても、ダメだったようだ。少尉は困る。
「それはそうなんですけど」
『ちゃんと、自動警備一五型に音声通話用の専用回線があるんですから、そちらを経由して頂かないとね?』
そんな機能があるの、聞いてないよ。それに今は目の前にいない。
「今、手元にいないんですから」
『はぁ。判りました』
判ってくれたらしい。良かった?
『大佐には、こちらからも、再度お願いしておきますけど、良いですか? 一般回線からだと、色々できることが限られるんで、用法、用量を正しく守って、ご利用を願います』
良くなかった。大佐にバレる。また始末書だ。
「とにかく、何とかして下さい」
もう、辛いが、こいつにお願いするしかない。
『えーっと、現在確認した所、四機がチーム『ヒャッハー祭りだぁ』から離脱して、旧国鉄三ノ輪駅三番出入り口付近で』
「止めてくれ!」
それはもう、判っている! 被害を最小限にするためだ。
『え? 止めるんですか?』
「いいから、今すぐ!」
『はい。止めました』
何だ? 対応が早い。流石メーカーと言った所か。
いやいや、そんな軍の作戦中に、民間のメーカーが、簡単にOFF出来ちゃって良いの? 大丈夫なの?
気が付いたら、電話も切れていた。
バギーは走り出す。そこで無線を開くと、山ピーの安否を確認する交信が続いている。
山岸少尉は、無線の届く場所で一旦バギーを止め、二代目山ピーとの交信に割り込んだ。
「おい、そこにいるの、黒田だな? 黒田光男だな」
かまをかけてみる。違っていても、場所は特定できる。
『良く判ったな。そう言うお前は、誰だ?』
ビンゴだ。この野郎。よくも山ピーを殺ったな?
「山岸だ」
そう答えて、田中軍曹のコンソールを覗き込む。位置はまだ特定できない。
『階級は?』
馬鹿め。時間稼ぎを手伝うとは。
「少尉だ」
ひざまづけっ、俺は士官だ!
「軍曹、位置まだか?」
「まだです」
見つけたら、とっちめてやるからな!
『じゃぁ、山岸少尉殿、山ピー、あー、階級は何だ?』
何だコイツ、馬鹿なのか?
「二等兵だ」
先週入ったばかりだからな。
「山ピー上等兵は、不用意に自動警備一五型に近付いて、ビンタされ、名誉の戦死となった。冥福を祈る。なお、遺体は放置。首もどこに飛んで逝ったのか不明だ。以上、報告終わり』
「位置は?」
「もうちょいです」
山岸少尉は、無線機を掴んだ。
「ちょっと待て!」
『待たねぇよ。大佐によろしくな!』
今度は返事が早い。ちきしょー、逃がすものか。それに、大佐とも顔なじみなのか? こんなのがバレたら、俺の立場がない。
「こらっ! 待てっ! 黒田っ!」
そう叫んでみたものの、待ってくれる様子はない。
「おい、判ってるんだからな!」
返事はない。
「必ず掴まえてやる!」
そう言って、無線を切った。
忌々しい奴め。完全におちょくられただけだ。
それでも田中軍曹の方を見ると、したり顔でニヤリと笑ったではないか。
「判ったか?」
思わずこちらも笑顔で聞く。軍曹は頷いて答える。
「判りました! 国道四号を上野方面に逃走中です!」
「直ぐに追え!」
「了解!」
バギーは直ぐに発進した。
「黒田の奴、絶対掴まえてやる!」