陸軍東部第三十三部隊(八)
山岸少尉は、少しやる気を失った部下を、国道四号沿いに配置する。そこから自動警備一五型をオートモードで探索に出す。
『こちら、たなっち、秋葉原地点、異常なーし』
『こちら、きよピコ、入谷地点、異常なーし』
「了解した。各自、現在地を確保せよ」
上野に陣取った山岸少尉から無線が飛ぶ。
国道四号線、この辺は真っ直ぐだが、上野付近で少し曲がっている。そこに山岸少尉が陣取って、全体を把握するのだ。
もう少ししたら、三ノ輪に、山ピーが到着するだろう。
『こちら、山ピー、三ノ輪地点到着。異常なーし』
ほらね。予想通りだ。良し良し。
「全員、貨物列車が通り過ぎるまで、そこで待機。以上」
『昼寝ですか?』
『一応、了解でーす』
『お散歩してきまーす』
山岸少尉は、無線を置いた。
後のこと? 知らぬ。
ラップトップを開いて、自動警備一五型の展開状況を確認する。
見た感じ、大体想定通りに展開中のようだ。このまま、貨物列車の到着を待てば良い。今日も、簡単なお仕事だ。
こんなお先真っ暗な所で、ふざけた名前の機械をいじくって、隠密活動だぁ? まったく、冗談じゃない。
俺だって北海道に行って、新型戦車でヒャッハーしたい。
「少尉殿、山ピーが吉原遊郭の方に行っています」
運転手を務める軍曹が、報告したのだが、山岸少尉は上の空だ。
想いは、こんなちっさいバギーじゃなくて、噂の『ひとまる式』で北海道を走り回り、帝政ロシアの新型『Tー14』とやらと、ドンパチしてみたい。
「少尉殿?」
「ん?」
二回目の呼びかけで、自動警備一五型の動きが、いつもと違うことに気が付く。
「何が起きている?」
山岸少尉はコンソールを覗き込む。が、自分では何もできない。
「判りません。七号機が制御不能です」
キーボードをカチャカチャ叩く田中軍曹から、正確だが、頼りない返事が返って来た。
山岸少尉の判断は早かった。
「止めろ!」
「はいっ!」
山岸少尉は思う。これは、大変な事態になっていると。
三カ月前、BZの奴を追い回し、自動警備一五型を二機ロストしたばかりなのに、今度は故障か? 冗談じゃない。
「緊急コールだっ!」
自動警備一五型の制御が、手に負えないときのために用意された、緊急連絡先である。
「ここでは、電波が入りません!」
情けない。電波位、引っ張って来いよ! と思っても仕方ない。
「移動だ!」
「はいっ!」
直ぐにバギーは走り始めた。
揺れるバギーで、山岸少尉は、またまた思う。
何で緊急コールが、軍事用のチャンネルじゃなくて、民間のチャンネルなんだと。どういうこっちゃ。
電話代、経費で落ちるんだろうな?
そんな心配をしながら、寛永寺の『少し明るい方』へ向かう。
そこなら、携帯電話の電波が入るはずだ。